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着信は珠姫だった。


我が高校はこんなところが寛大で、携帯を携帯することが基本認められており、行事の間での使用も認められていた。

授業中や行事行程中は流石にNGだが。


でだ、今日の行程が終わったところで、珠姫は電話をしてきたのだろう。

来るかもしれないとは半分くらいは考えていたが、本当に電話が来るとちょっと笑えた。

言葉の少ない珠姫と何を話すんだかとな。


「皇ちゃん」

「終わったのか?」

「ん」

「風呂は?」

「入った」

「髪は乾かしたか?」

「……」

「乾かせ」

「分かった」


いつもと違って、通話口から聞こえてくる声に新鮮な気持ちになりつつ、気になったことを聞けば案の定な反応に笑いがこみ上げた。

もしかしたら伝わってしまったかもしれない。


「怪我とかはしなかったか?」

「してない」


今日はどうだった?と聞いたところで、珠姫の反応など分かり切ってて聞かなかった。

それよりも違うことを聞く。


「何かあったか?」

「声が聞きたかったから」

「……」


電話をしてくるなんて何かあったのかと聞けばストレートな言葉を繰り出され、次の言葉が出てこなかった。

……横に、篠川居ないだろうな?

弱みなど見せたらあとあと厄介だ。

動揺を抑え込むように息を吸い込む。


「…そ、うか」

「ん」


気の利いた返事など返せず、素っ気ない返事に、珠姫もいつものように相槌をうつ。

明日も早いはずだと早々と通話を切り上げさせ、携帯をベッドに放った。


「……未熟」


今度はどっぷりとため息を吐き出した。








宿泊訓練2日目。


まあ、珠姫不在2日目とでも言うべきか。

別にそれがどうしたってわけではないのだが……。


あらかたの準備を終えたと言ったが、細々とした問題は残っていて、そのために休み時間も走り回っている現状。

宿泊訓練に合流するのは明日なのだから、仕方ないっちゃ仕方ない。

高知だってキビキビと動くからイライラしないし……いつもこうならいいのにと思う俺は高望みなのだろうか。


「宮ノ内」


職員室から帰りの廊下で呼び止められる。

本条先輩だった。

そのすぐ後ろに菱目川先輩もいる。

やはり、2人でワンセットな人たちだ。


「どうも」


無難に頭を下げて挨拶を済ませる。

今回の宿泊訓練の協力者名簿に名前が載っていたのを思い出す。


「明日の準備は抜かりないですか?」

「ああ。といっても、俺たちが用意するものなんて多くはないからすぐに終わった」

「そうですか」


今回俺たちがするのはスタンプラリーで、宿泊施設を囲むようにあるハイキングコースを使ってすることになっていた。

所々にチェックポイントを設けるのだが、そのポイントには学校で有名どころが配置される。

配置された2・3年生とちょっとしたゲームを行い、スタンプをゲットする。

最初に渡すチェックシートが全て埋まれば終了だ。


そして、今回はチーム戦。

個人戦という手もあったが、宿泊訓練の趣旨としてチーム戦が適しているだろうということになった。


普通だったらみんなで協力して各々のチェックポイントを回り、順位を競って盛り上がる。

チェックポイントには通常だったらそう関わることの出来ない人気者な先輩方がいて、関わることが出来るし。


しかし、それでは普通過ぎた。


高知が主として動くものが、普通の範疇に収まるものになるはずがない。


高知はチェックポイントを設けるのとは別に、隠れチェックポイントなるものを作ることを提案ーーいや、告げた。

あいつがやると言ったからには、否定的な意見が出ても覆ることはない。

甚だ迷惑なことに。



隠れチェックポイントとは何か。


それはその名の通り秘されたチェックポイントというか、ぶっちゃけると動くチェックポイントだ。

……動くと言ったが、逃げるという言葉に置き換えてもいい。


スタンプラリーのハンコを持った人物を捕まえるまでがゲームで、無事捕まえることが出来ればスタンプがもらえるということだ。


たちの悪いことに、最初にこのことは1年生に教えられることはない。

全てのチェックポイント(この場合は動かないチェックポイントのこと)を回ったチームが半数を超えた時、知らされる仕組みとなっている。

秘されたチェックポイントなるものに任命された人物は、何食わぬ顔で最初からその姿を晒し誘導に携わり、合図とともに行動を開始、姿を消すことになっている。


きっと情報は錯綜し、高知は最高潮な笑い声を上げる。

俺には容易にそれが想像できた。



さて、どうしてここでそんな説明を始めたかというと、本城先輩こそが動く(逃げる)チェックポイントたる人物のひとりだったからだ。

付け加えると菱目川先輩は普通のチェックポイントの担当だ。


よく本城先輩みたいな人にそんな大変な役を当てがうことが出来たなって感じだが、実はそれはとても簡単だった。

先日の部活紹介での件での恩を使った。

使えるものは使うというか、高知は本当に抜け目ないと感心するやら呆れるやら。



そして高知も動く(逃げる)チェックポイントをやる。


……これが大変なものだから率先してということなら感心したんだが、高知がやる理由はなんとも呆れるものだった。


その理由とは、ただ珠姫に追いかけてもらいたいとかいうバカなものだ。


そこまでして追いかけて欲しいものなのか……。


高知の考えが俺にはどうしても分からないんだ。



さあ、俺たちの出番はもうすぐだ。




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