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結局、珠姫には何も言わなかった。


珠姫が宿泊訓練に行かないと言うのならそれでいい。

そして、俺がその宿泊訓練に参加することになったことは俺の予定なわけだし。


それも3泊4日のうちの1日だけ。


残りの3日は宿泊訓練に俺は居ないわけで……まあ、それがどうしたと言われたらどうということもないのだが。



――全ては珠姫が決めることだ。











昼休み。


今日はお弁当だったので、食堂に行かない友人たちと教室で食べていた。

興がのれば外で食べたりもするのだが、今日はそんな気分じゃなかった。


「今日のミュージックステーション、誰出るっけ?」


他愛もない話に華がさいて、教室のあちこちで笑いが沸き起こる。

俺たちもそれは例外じゃなくて、たわいもない話で盛り上がっていた。


そんな時だ。

廊下の方が騒がしくなったのは。


「何だ?」

「高知じゃねぇの?」

「ありえるな」


友人らは高知が起こした騒ぎだろうと笑う。

確かに大抵の騒ぎは遺憾ながら高知が起こすことが多く、このとき俺も高知だろうと思っていた。


ざわめきが近づいてくる。


(みや)、顔」

「?」

「歪んでる」

「……」


そら、歪むだろ。


厄介事が音をたててやって来れば。

友人たちの目線が俺に集まり、苦笑いとともに離れていく。

離れた視線は教室の出入口へ。


そこには高知が案の定――居なかった。


扉のところに現れたのは珠姫だった。

その後ろには篠川もいる。


「皇ちゃん」


俺ベッタリな珠姫だが、学校ではちゃんと距離を保っている。

……まあ、最初に俺が珠姫に言い含めていたわけなんだが。


そんな珠姫が言いつけを破って俺の教室に来るってことは、言いつけを破ってでも直ぐに聞きたいことがあるってことだろう。

俺は視線を合わせて頷き、座っていた椅子から立ち上がった。

友人らに少し席を外す旨を視線で伝えて扉の方へ移動した。


「どうした?」

「……」


珠姫が無言で制服の端を握ってくる。

視線を篠川に移す。

こっちの方が手っ取り早い。


「で?」


一言で促す。

これだけで篠川には分かるだろう。

珠姫のことだからな。


「ーー先輩が宿泊訓練にくるって噂がありまして……」


篠川の言葉も簡素だったが、すぐに理解した。


どうやら、昨日の今日で話が外に漏れたようだ。

と言っても、隠す必要があるわけでもなく、高知が協力者を募るのに話を持って行った先で流れたんだろう。

高知が教室にいないのはそういう理由もあったから。


「ああ、あれか。確かに、1年の宿泊訓練について行くことになったな、昨日(・・)


納得はても伝わるのが早いと思う気持ちはあるわけで、肯定の言葉とともにその気持ちが出てしまった。


「ほ、本当ですか!?」


篠川の目が輝き出す。


正直者め。


期待に輝いた篠川はいつも以上に魅力的で、俺の後方で野郎どものざわめきが起こる。

でも俺も篠川も無視だ。


篠川の視線は珠姫へ。

そして珠姫の視線はまっすぐ俺に向かっていた。


「言っとくが、俺が参加するのは1日だけだ。あとの3日は居ないからな。それを踏まえて考えろ」


伝えておくべき言葉は伝える。

あとは珠姫の気持ち次第だった。


珠姫の視線が一度下に落ちる。

でもすぐに視線は上を向いて、まっすぐと俺を見つめた。


「宿泊訓練に行く」


キッパリとした珠姫の宣言に篠川の顔が喜色に溢れた。

本当に素直だな、篠川……。


「そうか。じゃあ、担任に話してこい」

「ん」


珠姫が行くと言うならそれでいい。

俺はそれを肯定するだけだ。






さて、いろいろ準備しないとな。




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