こぼれ話10
旅行から帰ってきての話。
「おかえり~」
満面の笑みを浮かべた母がやっと帰り着いた俺たちを迎えてくれた。
帰ってきたんだなと実感するより、疲れが増したのは気のせいか…。
「ただいま」
スタンバイさせていた各種お土産を渡す。
これでお役御免だろうと母を避けて靴を脱げば、後ろがつかえているからかあっさりと中に通してもらえた。
「ただいま!亜紀ちゃん!!」
テンションが高いのはこちらもだった。
キャイキャイと女性特有の賑やかな空間が広がる。
巻き込まれるのは勘弁だったので、さっさとその場を退場した。
「今日は食べに行くから寝ちゃダメよー」
「…寝てたら起こしてくれ」
背を追いかけてくる声に返事を返して、自分の部屋に急ぐ。
その後ろに付いてくる珠姫の姿があったが、当たり前になりすぎてて誰も突っ込むことはない。
いや、いつもの俺なら一応突っ込みを入れるか…。
疲れてて今日はいいかなと思ってしまったのかなんなのか。
…考察するのも面倒だ。
ガチャ。
慣れ親しんだ部屋に荷物を置いてベッドに沈む。
「ぐえ」
案の定というか、枕になついた俺の上についてきた珠姫が断りもなく乗ってきた。
ちょっとこれはひどい。
「重い」
母に聞かれればデリカシーが無いと怒られそうな台詞を吐き出したが、珠姫がそれに怒ることはなかった。
というか、怒らないどころか反応もない。
頭をそらして伺えば、目蓋を閉じて抱きついていた。
俺の上で寝る体勢にしか見えないんだか、どうしたらいいのか。
このまま現状維持してやる必要も無いと思い、寝返れば珠姫が案の定落ちた。
「うー…」
抗議の唸りが聞こえた。
しかし無視だ、無視。
人様の上で寝ようとする方が悪い。
「―おいこら」
背中から落とした珠姫が懲りずに上ってくる。
と思いきや、横向きに寝ている俺を乗り越えて手前にやって来やがった。
あまつさえ、無理やり腕の中に侵入してきた。
俺の抗議など聞こえてないのか、ごそごそと動いて場所を確保して、満足げなため息が聞こえてきた。
どうしてやろうか。
女子特有の柔らかい身体の感触に、落ち着かなさを感じつつ、自分のものではない温かさに不覚にも安堵を覚え、目蓋が落ちていく。
そして眠気に負けた。
眠気に意識を奪われた俺は悪くない。
気苦労の絶えなかった旅行が悪い。
微かに残った意識でそんなことを考えて、俺は意識を完全に落とした。
帰ってきて早々に通常運行です(笑)