09
「宮ノ内」
「はい?」
「君が運んであげなさい」
「は?!」
もやもやと胸に沸き起こる感情も忘れ、勢いよく星埜先輩の方を向く。
星埜先輩は今なんと言った?
「君が運んであげなさい」
「――高知も先生方も拒否られたのに…無理ですよ」
「いや、僕は大丈夫だと思っているんだけどね」
意味深な笑みでこちらを見てくる星埜先輩に、俺の頭の中はこんがらがる一方だ。
「…そうだな、物は試しだ。宮ノ内行って来い!」
何故か遠山先輩までもが俺に行って来いと言う。
本当にわけが分からん。
「遠山先輩まで…」
「ほら、先輩命令」
先輩命令とまで言われてしまえば断れない。
俺はあからさまに肩を落とした。
俺のこの気持ちが2人に伝わってくれればと思いながらのパフォーマンスだが…きっとスルーされるんだろうな…。
全てが虚しくなりそうだ。
「…じゃあ、駄目もとで行ってきますよ」
「おう」
先輩2人に見守られて、輪の中心に入っていく。
彼女を取り囲んでいた外側の生徒たちが俺に気付いたのか、道を開けてくれる。
なかなか気がきいている1年生たちだなと感心する。
どうも今年の1年生たちは当たりのようだ。
そんな場合じゃないと思いながらも、ついつい見定めようとしてしまう。
悪い癖だ。
「高知」
「皇。お前も来たのか?彼女が触れられたくないらしくて…な」
「…ちょっといいか?」
彼女に近づこうとする俺を何故か高知が邪魔をするように前を塞ぐ。
「無理だって」
俺を彼女に近づけさせたくないようだ。
俺はだれかれ構わずナンパすることもないし、触ったからといって感染しないぞ。
…俺は女たらしではないし、そして、ばい菌でもない。
高知の俺への認識はどうなっているんだ?
高知に物申したい気持ちでいっぱいになったが、こんな人が沢山いるところでする話でもない。
諦めよう…。
(…今はそんなところじゃないだろう。それもお前の彼女じゃないだろが…)
そうはいっても、心の中の声までは抑えることは出来なかった。
彼女に近づけず、どうしたもんかと悩んでいると、それを見かねた星埜先輩が高知にどくように言ってくれた。
ナイスですよ!先輩!!
さっきのはチャラにしておきます!
「星埜先輩なんで…」
「はいはい、いいーからいいから。これ以上時間を延ばすのは得策じゃないでしょ」
「…」
高知が押し黙る。
星埜先輩は苦笑して、俺を促す。
俺は頷いて、彼女に近づいた。