自室生活終了(174日目)【旅行4日目】
朝10時、目が醒めた。おはよう、俺。今日は忙しいぞ。
俺は布団からもぞもぞと這い出し、丁寧に布団をたたむと、部屋の外に出て、まず着替えの服を探しに行った。
昨日までの恐怖が嘘のように無くなって、何の違和感も無く部屋の外に出た。
一階に降りリビングに入るとすぐ服は見つかった。ただ違和感を覚えたのは、リビングには机だけが置かれており、その上に綺麗にたたまれた服が置いてあった。
しかし昨日の風呂場や冷蔵庫の事を考えると特に違和感も感じ無いような気がしたのですぐに服を着用し、部屋に戻った。
カーテンを開け、窓を開けて大きく深呼吸すると、静かに窓を閉め、カーテンも閉めた。
押し入れを改築して作ったトイレに入り、排泄を行う。トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出た。
テレビの前に座り、リモコンのスイッチを押す。画面にビデオ1と真っ黒な映像が映るのを確認すると、テレビ台の下に置いてあるテレビゲームのスイッチをONにした。
画面にゲームのタイトルが、表示されたところで、テレビの上のパンの袋に手を伸ばし、食パンを取る。袋を開けパンを取り出すと、パンに緑色の点々がちらほらと付いていた。『カビ?』と少し気になったが、背に腹は変えられないと一枚食べて、袋を結んでテレビの上に置いた。
ゲームをコンティニューに合わせ、スタートボタンを押した。そしてそのまま暫くの間ゲームに集中する。
昼時になり、腹が減ったので食パンに目をやった。『残り二枚。今日で終わってしまうな』と思いつつ、パンを手元に持ってきた。袋を開けると何かすっぱいような臭いがした。パンを取り出すと朝より緑の点々が増えている。『これはヤベェな』と思ったが、一枚位大丈夫だろうと、一枚食べて袋を結ぶとテレビの上に置いて、喉が渇いたので、洗面台で水を四杯飲んだ。
押し入れを改築して作ったトイレに入り、排泄を行う。トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出た。
『よし!』と気合いを入れ、今日はパソコンに近付かず、身の回りの用事をすることにした。
まず服の洗濯をすることにした。汗臭い服を丁寧にたたんで、一つに小さくまとめると、一階まで持って行く。洗濯機は大体ベランダか風呂場と相場が決まっているので、浴室へと向かった。脱衣所に辿り着くと『そういえば、ここには何も無かったな』と思い出し、二階のベランダへと向かった。
親の部屋に入ると、目の前の光景を疑った。部屋には何も無かった。箪笥等の家具だけでなく、蛍光灯も何もかも。慌ててベランダに出る。やはり洗濯機は無かった。頭がおかしくなったのかと、家中を駆けずり回り洗濯機を探したが、洗濯機どころか家具も、生活の痕跡すらも見付けることが出来なかった。
暫くリビングに座り込んでいたが、こうしていても始まらないと、浴室まで行った。
風呂場に到達すると、まず脱衣所で裸になりタオルを一枚持って浴室に入った。浴室内でシャワーを辺り一面に掛けまくる。浴槽も壁も天井も水浸しになったところで、タオルに石鹸を擦り付け濡らしたところを全て磨いていった。身体に埃が付いても泡が付いても気にすること無く磨いていった。全て磨き終わると泡をシャワーで洗い流し、昨日使ったタオル、バスタオル、汗臭い服を取りに行き、石鹸を付けて丁寧に揉み洗いした。身体もついでに洗い流し、浴室の窓を全開にした。
洗った物を持つと全裸のまま二階へ上がり、親の部屋だと思う部屋に入りベランダに出ると、物干し竿も無いので、手摺りにシワを伸ばしながら干していった。
直ぐさま自室へ戻ると、敷布団を持ってもう一度ベランダへ行き、布団も干した。
その後風呂場へ行き、服を着用しリビングに行くと一息ついた。『こんなに動いたのはいつぶりだろう』と動ける自分に酔っていたが、『それもこれも、あんのクソババアとクソジジイの性だ!』と無性に腹がたってきた。
暫くして気持ちが落ち着いてくると、メシの事が気になり始めた。『あのパン、カビってたな食えんのか?…って言っても後一枚だし…どうする?……そうだ!金!金はどこにあんだよ!金があれば、メシ買えんじゃん!』と思ったが家の中の事を思い出した。
『この家誰が住んでんだ。…いや、俺は住んでんな。じゃなくてよ、あのババアどもはどこで生活してんだよ!駄目だ。何かを考えると、あの馬鹿どもの事を考えちまう。』とリビングを後にし、玄関まで行ってみた。
ふと足元に目をやると、見慣れた靴が玄関に置いてある。何も考えず靴に足を入れてみた。『ん?足の裏に何かが当たる』と靴を脱ぎ、靴の中に手を入れると中から一万円札が一枚出てきた。『金だ!!金があった!クソババアァ!こんなトコに隠すんじゃねぇよ!』と思い、しわくちゃになった一万円札を丁寧に伸ばすと、また丁寧に四つ折にして、ズボンのポケットの中に入れた。
『メシだ!メシを買いに行ける!』と天にも昇る気持ちで勢いよく、靴を履くと玄関の扉を開け外に飛び出した。
外に出た途端、大きな地震がきたかのように足元がグラグラと揺れ、地面に倒れ込んだと思うと、激しい吐き気に襲われ息絶え絶えに家の中に転がり込んだ。
玄関で暫くじっとする。今にも何かが出てきそうな吐き気と、外まで聞こえるのではないかと思う程の鼓動音。それが落ち着くまでじっとしていた。
『まだパンは一枚あるし、あのグリーンチーズやカマンベールチーズだってカビを食ってんだから大丈夫さ。』と無理矢理自分を説得し、自室へと戻った。
部屋でごろんと横になり、天井を眺めながらぼ~とした。ちらっとパソコンの方へ目をやったが、『今日は疲れたので明日にしよう』とすぐ目を反らした。
暫く横になっていると腹が減ってきた。時間を見ると、もう夕飯時だったので、テレビに近付くと食パンの袋を取った。最後のパンを袋から取り出すと、パンは白い部分の方が少ない位に緑色になっていた。『ヤベェ!これは絶対ヤベェ!』と思ったが、明日メシを買いに行ける保障はどこにも無かったので、洗面台まで行くと、コップに水を入れ、パンを流し込むように水を飲みながら食べた。
そのまますぐトイレに行き、トイレに入って15分経過したのを確認しトイレを出た。
『それじゃあ風呂にでも行こうか』と、ベランダまで行くとタオルやバスタオル、服一式を取った。『ヤベェ少し湿ってやがる』と思ったが、ここは我慢我慢とそのまま風呂へ行った。
風呂は、やはりお湯が出なかったが、昼間色々と動いたので気にせず水で身体を洗った。身体を洗い終わると、身体を洗ったタオルで浴室内を綺麗に掃除した。バスタオルで身体を拭くと、バスタオルとタオル、今まで着ていた服一式を丁寧に揉み洗いし、少し湿った服を着用してから、真っ暗になった廊下を手探りで歩きながらベランダまで行くと、先程と同じようにシワを丁寧に伸ばして手摺りに干し掛けた。そしてそのまま布団を抱えると自室まで慎重に歩いて行った。
自室に着くと、敷布団にシワが出来ないように布団を敷いた。テレビの前に座り、扇風機の風で頭と湿った服を乾かす。『明日メシ買いに行けるかな。食わねぇと死ぬしな。くそっ!それもこれも、あのババアどもの性だ!早く帰ってきやがれ!』暇ができると愚痴しか出てこないので、ゲームでもしようかと思ったが、今日は流石に疲れたので少し早いような気もしたが寝ることにした。
トイレに行き、トイレに入って20分経過したのを確認してから、洗面台で歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認する。
窓際に行きカーテンを開け、窓を開けると、大きく深呼吸をして、「おやすみなさい」と空に呟くと、窓を閉めて、カーテンを閉めて布団に入る。
目を閉じ、羊が一匹、羊が二匹と眠ってしまうまでひたすら数えた。そして今日の一日が終わりを告げた。
『明日メシ買いに行けるかな。じゃねぇよ!行かねぇと食い物ねぇじゃんか!』