表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/31

自室生活171日目【旅行1日目】

 朝10時、目が醒めた。おはよう、俺。今日も一日頑張ろう。『腹が減った。』と心の中で呟いた。

 俺は布団からもぞもぞと這い出ると、丁寧に布団をたたんでから、服を脱ぎカゴの中に入れようとしたが、パジャマではなく服を着たままであったことに気が付き、もう一度服を着用した。

 カーテンを開け、窓を開けて大きく深呼吸すると、『はぁ』とため息をついて、静かに窓を閉め、カーテンも閉めた。

 押し入れを改築して作ったトイレに入り、排泄を行う。トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出た。

 テレビの前に座り、リモコンのスイッチを押す。画面にビデオ1と真っ黒な映像が映るのを確認すると、テレビ台の下に置いてあるテレビゲームのスイッチをONにした。

 画面にゲームのタイトルが、表示されたところで、ドアの方に目をやるが、もちろんの如く朝食は無かった。

 苛立ちが再度込み上げてきて、『うわあぁ~~!!!』と大声で叫びたい心境にかられたが、叫んだところで何も変わらないので、ドアに向かって枕を力いっぱい投げ付けると、ゲームをコンティニューに合わせ、スタートボタンを押した。

 ゲームが始まると、ゲームに集中出来ると思っていたのだが、腹が減ってゲームに集中出来ない。腹の虫が『ぐぅ。ぐうぅ。』と鳴き止まない。空腹と旅行に行ったジジイとババアに怒りを感じながら、ゲームの手を止め、ドアの方へ近付いた。

 キッチンまで行けば何か食べるものがあるはずだと思いドアノブに手をかけるが、ノブを回すことが出来ない。頭の中では腹が減ったから食べ物を欲しているのに、身体は部屋の外に出ようとはしなかった。

 ドアノブを握り締めたまま、立ち尽くしていたが、このままでは埒があかないと、気合いを入れてノブを回し部屋の外に出ようとした。

 途端、頭の中が車や船に酔った時のように、ぐらぐらとし始め吐き気をもよおした為直ぐさま部屋の中に倒れ込んだ。

 暫くすると、吐き気も酔ったような感覚も薄らいできたので、腹の虫も治まらないから、もう一度部屋の外に出ようとした。

 しかし、またノブを回しドアを開けた途端、吐き気が胃の奥から込み上げ、何も無いはずの胃から黄色液体が上がってきた。

 腹の虫は治まらないが、部屋を出ようとすると体調が悪くなる為、食事は諦め床にゴロンと横になると何も考えず、じっとすることにした。

 昼時になると、腹の虫はより一層激しさを増し、腹の奥から響いていたような音は耳でもしっかり聞き取れる程になっていた。床に横たわったままじっとしていると、下の階から何か音や声が聞こえてきたような気がした。

 『あのクソババアァ!旅行に行った振りをして、実はいやがるんだな!』と思うと、空腹も忘れ、苛立ちが込み上げてきた。

 ふっとテレビの方を見ると、ゲームを点けっぱなしだったことに気が付き、ゲームのデータをセーブし、ゲームの電源をOFFにして、テレビのリモコンのスイッチを押してテレビを消すと、腹の虫の音を聞きながら、ババアへの小言をぶつぶつと言った後、パソコンの前に移動し、パソコンの電源をONにした。

 ぼ~とパソコンの画面を眺めていると、メイン画面になった。

 メイン画面に現れた『友達』と書かれたBOXをダブルクリックし、トイレに行き、トイレに入って15分経過したのを確認しトイレを出ると、机に戻りじっとパソコンのモニターを眺めた。

 モニターの中では、毎日同じように一人の女性がじっとテレビを見ている。テレビがチカチカと明るくなったり暗くなったりを繰り返しているだけなので、やはり何を見ているかまでは分からない。女性はテレビを見ながら、スナック菓子を食べたり、飲み物を飲んだりしている。女性が飲み食いしているのを見て一層空腹を感じながら、モニターの向こうの女性に得も知れぬ苛立ちを覚えた。女性は、いつもと変わらず時折立ち上がると、暫くして手をタオルで拭きながら戻ってくる。

 そんな光景を、ただただ眺めていた。女性が、テレビを消して立ち上がると、もう一度床に耳を当てて下の階の音を聞いてみた。【ジー】と音にならない音だけが聞こえる。それ以外の物音は全くせず、『やはり本当にいないのか。』と思った。

 昨日の朝食べたきり何も食べてない事に苛立ちを感じ、ドアへ近付いた。

 ノブに手を持っていこうとして昼間の吐き気を思い出し、身体の動きが止まる。しかし腹は減っているし、昨日も身体を洗っていない。今までに無い空腹と、身体の気持ち悪さに押されるようにノブに手をかけたが、呼吸が荒くなり、鼓動が激しく高鳴り、吐き気をもよおしてきたので、『明日メシを食って、風呂に入ればいいや』と自分に言い聞かせドアから離れた。

 パソコンの前に座り、モニターを見ると、既に女性は濡れた髪をドライアーで乾かしていた。その後、バスタオルを取ると、全裸の身体に下着を着け、パジャマを着用し始めた。

 『くそっ!テメェだけ気持ち良さそうにしやがって!』と、またモニターの向こうの女性に無性に腹がたち、女性が全てのパジャマを着用する前に『友達』のBOXを閉じると、パソコンをシャットダウンし、パソコンの画面が消え、機械音がしなくなるのを確認してから、テレビの前に移動した。


 テレビを点ける前に、ドアの方を確認する。当たり前だがやはり何もない。

 仕方が無いのでトイレに行き、トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出ると、とりあえず着替えだけでも行おうと服を脱いだが、『だから着替えも無いんだよ!』と自分に怒りをぶつけ、もう一度今脱いだ服を着用した。

 『はぁ~』と、大きくため息をついてテレビの前に座り、リモコンのスイッチを押した。テレビにビデオ1と真っ黒な映像が映るのを確認してから、テレビ台の下のゲームのスイッチをONにした。

 ゲームのタイトルが画面に表示されると、コンティニューにカーソールを合わせ、スタートボタンを押す。ゲームが始まると、部屋の明かりを消し、ストーリーを進めるでもなく、同じフィールドで戦闘を繰り返す。今日は時間が余っているが、腹が減って集中することも出来ないので、1時間程ゲームに集中し、データをセーブする。

 ゲームのスイッチをOFFにし、リモコンのスイッチを押してテレビを消すと、コントローラーをテレビ台の下に直し、布団を敷く。敷布団にシワが出来ないようにのばすと、トイレに行き、トイレに入って20分経過したのを確認してから、洗面台で歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認する。

 何か臭いような気がして、もう一度右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぎ、袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認する。やはり何か臭いような気がしたが、すぐに自分の体臭であることに気が付いた。


 窓際に行きカーテンを開け、窓を開けると、大きく深呼吸をして、「おやすみなさい」と空に呟くと、暫くぼ~っと空を眺め、窓を閉めて、カーテンを閉めて布団に入る。

 目を閉じ、羊が一匹、羊が二匹と眠ってしまうまでひたすら数えた。

 羊が九千九百九十九匹まで数え、『寝れない!腹が減って、身体が臭いし痒いし、寝れない!』と一度身体を起こした。

 もう一度、布団のシワをのばすと、カーテンと窓を開け、「今度こそ本当におやすみなさい」と空に呟くと、窓とカーテンを静かに閉めて、布団に入った。

 もう一度、羊の数を一匹目から数え直し、今日の一日が終わりを告げた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ