孤独2(188日目)
朝6時《ピピピピ》アラームの鳴る音が聞こえる。『はあ。もう朝か』ため息と同時に目覚まし時計を探して枕元を探る。俺は布団からもぞもぞと這い出し、目覚まし時計を止めると、丁寧に布団をたたんだ。
カーテンを開け、窓を開けて大きく深呼吸すると、静かに窓を閉め、カーテンも閉めた。
押し入れを改築して作ったトイレに入り、排泄を行う。トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出た。トイレから出ると洗面所で髭を剃り、歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認をしてから、スーツに着替えた。
朝メシを食べにキッチンへ行く。今日も、料理を朝から作るのは面倒だったので、昨日の残り御飯を電子レンジで温めて食べた。
何も特に持ち物は無いので、ズボンのポケットの中に財布が入っているか確認すると、誰もいない我が家に向かって「行ってきます」と言い、仕事に向かった。
職場まで歩いて来たが、始業30分前に到着。部屋に入るとやはり、部屋の中には机と椅子、そして1台の電話がポツンと置いてあるだけだった。『中川先輩は……いないんだったな』と思い普段と変わりなくボ〜と電話を眺めながら椅子に座った。「おはよう」と社長がいつもと変わらない笑顔で入口から声を掛けてきた。「おはようございます」と立ち上がり一礼する。「じゃあ今日もコレ渡しておくからね」と転送用携帯電話を手渡された。
社長が部屋から去って行くと電話を眺めながらボ〜とする。と、突然電話が鳴った。3回コールしたのを確認し受話器を上げる。相手が黙ったままなので「只今係の者は外出しております。御要件は後程再度お電話下さい」と告げると電話の相手は何も言わずに電話を切ってしまった。『なんだよ!』と少し腹が立ったが、気にしない事にしてまた、電話を眺めながらボ〜としようとした途端《ジリリリリン》と、また電話が鳴った。『なんだよ今日は!』と思いながら3回コールしてから受話器を上げる。「あの、すみません」と電話の相手の女性が声を出した為「只今係の者は外出しております。御要件は後程再度お電話下さい」と言うと「そうですか」と電話を切ってしまった。『中川先輩……』と、居ない人の事を考える。『今日は電話が多いですよ』と思っていると《ジリリリリン》と、また電話が鳴った。途端『本当にコレ、転送用の電話なのか?』と疑問に思い、5回コールが鳴るのを待った。その瞬間、携帯電話が《ピリリリリ》《ピリリリリ》と鳴りだした。慌てて通話ボタンを押すと「転送用だって言っただろう」と社長の声が聞こえてきた。思わず「すみません」と言い、社長が電話を切るのを待って、携帯電話を切った。『ふぅ! 冷や汗が出た』と思いながら、また電話を眺め始めた。そしてそのままボ〜と時が流れ去るのを待ち続けた。昼メシ時になり、扉の方へ目を向けると、普段と同じように四角いお盆に乗った、給食のような昼メシが運ばれてきた。御飯に焼鳥、すまし汁とサラダという組み合わせ。とりあえず、両手を合わせて「いただきます」と小声で言い、ゆっくりよく噛んで食べる。食べ終えると「ごちそうさまでした」と両手を合わせて小声で言うと席を立ちトイレに向かった。
トイレに入って15分経過するのを待つ。やはりここのトイレは、誰も使っていないのかと思う程静かだった。《ピリリリリ》《ピリリリリ》と携帯電話の着信音がまた鳴りだした。急いで転送用携帯電話を取り出し、通話ボタンを押し耳に当てて、相手の様子を伺う。相手は黙ったままなので「只今係の者は外出しております。御要件は後程再度お電話下さい」と言うと「そうですか。分かりました」と女の声が聞こえた途端、電話は切れてしまった。
部屋に戻るとすぐ電話が鳴った。『何なんだよ!』と思いつつも3回コールするのを待って受話器を上げる。すぐさま「只今係の者は外出しております。御要件は後程再度お電話下さい」と言うと電話は無言で切れてしまった。「ふぅ」とため息をついて椅子に座って電話を眺めたが、今日はそれ以来電話が鳴る事はなく仕事が終わった。
今日も家に食材がある為、スーパーに寄らずにそのまま帰る事にした。家の中に入ると、まずベランダに行き普段着とワイシャツ、タオル類とを取り込むと部屋に戻りスーツを脱ぎワイシャツとスーツをハンガーに掛け、今朝脱いだ服を持って風呂へ向かった。湯舟にお湯を少しずつ入れ、洗濯機に洗剤を入れると、脱いだワイシャツや下着と靴下を放り込みスイッチをONにする。全裸のまま、トイレ掃除を行う。自室、2階、1階と順に終えると風呂に入って身体を丁寧に洗って湯舟に入った。
風呂から出ると、そのままキッチンへ向かう。『今日は何を作ろうかな』とレシピ本をパラパラとめくって適当なところで止めると材料の確認をしてから料理に取り掛かった。料理の最中に洗濯機が止まる音が聞こえたが、気にしない事にした。御飯が炊け、おかずをお皿に盛ると、椅子に座って「いただきます」と両手を合わせ小声で言ってから、よく噛んでゆっくり食べた。夕食を食べ終えると「ごちそうさまでした」と両手を合わせて小声で呟いて、食器と調理器具を片付けると、脱衣所から洗濯済みの衣類をベランダへ干しに行ってから自室へと戻った。
『今日は何なんだよ! 電話無茶苦茶多かったな』と思い『疲れた。もう寝よう』と、布団を敷く。敷布団にシワが出来ないようにのばすと、トイレに行き、トイレに入って20分経過したのを確認してから、洗面台で歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認をしてから、窓際に行きカーテンを開け、窓を開けると、大きく深呼吸をして、「おやすみなさい」と空に呟くと、窓を閉め、カーテンを閉めて布団に入る。
目を閉じ、羊が一匹、羊が二匹と眠ってしまうまでひたすら数えて、今日の一日が終わりを告げた。
電話……多かったな。明日はどうなるんだろう。はぁ、同じ事言うだけだけど、なんだか嫌だな。中川先輩……何処行ったのですか。