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孤独(187日目)

 朝6ピピピピ《ピピピピ》アラームの鳴る音が聞こえる。『ん? もう朝?』目覚まし時計を探して枕元を探る。俺は布団からもぞもぞと這い出し、目覚まし時計を止めると、丁寧に布団をたたんだ。

 カーテンを開け、窓を開けて大きく深呼吸すると、静かに窓を閉め、カーテンも閉めた。

 押し入れを改築して作ったトイレに入り、排泄を行う。トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出た。トイレから出ると洗面所で髭を剃り、歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認をしてから、スーツに着替えた。

 朝メシを食べにキッチンへ行く。料理を作るのは楽しいが、朝から面倒だったので、昨日の残り御飯を電子レンジで温めて食べた。

 何も特に持ち物は無いので、ズボンのポケットの中に財布が入っているか確認すると、誰もいない我が家に向かって「行ってきます」と言い、仕事に向かった。

 職場まで歩いて来たが、始業30分前に到着。部屋に入り愕然とした。部屋の中には机と椅子、そして1台の電話がポツンと置いてあるだけだった。『中川先輩は……』と思っていると突然背後から「おはよう!」と元気な声が聞こえた為、びっくりして後ろを振り向くと、社長がいつもと変わらない笑顔で立っていた。「あの……、中川……先輩は……?」と怖ず怖ずと尋ねると「あぁ中川君。彼女は昨日で契約期間が終了したので、昨日で終わったよ。今日からここは君一人だ。頑張ってくれよ!」と背中をポンと叩かれた。『中川先輩が……終わり?』と頭の中が少し混乱気味のところへ社長が「あぁ、そうそう。コレ渡しとかないといけないな」と携帯電話を取り出した。「コレは転送用の携帯電話だ。君も丸一日ここにいないだろう。でも君のいない時に電話がきたら困るじゃないか。だから、君がいない時は、5回コールがなっても電話に出なければ、この携帯電話に転送されるから、いつも通り対応してくれよ」と携帯電話を手渡された。

 普段と変わりなくボ〜と電話を眺めながら椅子に座る。中川先輩とはたいして話もしなかったが、居るのと居ないのでは大違いだった。ポケットに手を入れ転送用携帯電話を眺めていると『俺、ここに居なくてもいいんじゃないか?』とも思えたが、コレは緊急用だとポケットにしまい込んだ。そしてそのままボ〜と時が流れ去るのを待ち続けた。昼メシ時になり、扉の方へ目を向けると、普段と同じように四角いお盆に乗った、まるで給食のような昼メシが運ばれてきた。御飯に焼き魚、味噌汁とサラダという組み合わせ。とりあえず、両手を合わせて「いただきます」と小声で言い、ゆっくりよく噛んで食べる。食べ終えると「ごちそうさまでした」と両手を合わせて小声で言うと席を立ちトイレに向かった。

 トイレに入って15分経過するのを待つ。やはりここのトイレは、誰も使っていないのかと思う程静かだった。その時だった《ピリリリリ》《ピリリリリ》と携帯電話の着信音が鳴った。急いで転送用携帯電話を取り出し、通話ボタンを押し耳に当てて「只今係の者は外出しております。御要件は後程再度お電話下さい」と言い相手の反応を待った。暫くして「そうですか。分かりました」と男の声が聞こえた途端ブッと電話は切れてしまった。

 部屋に戻ると、昼メシの食器が無くなっていた。行う作業もなく、電話も鳴らない為、ボ〜とする。そして一人寂しく椅子に座り、電話を眺め続けて今日の仕事が終わった。

 今日は家に食材もある為、スーパーに寄らずにそのまま帰る事にした。家の中に入ると、まずベランダに行き普段着とワイシャツ、タオル類と雑巾を取り込むと部屋に戻りスーツを脱ぎワイシャツとスーツをハンガーに掛け、今朝脱いだ服を持って風呂へ向かった。湯舟にお湯を少しずつ入れ、洗濯機に洗剤を入れると、脱いだワイシャツや下着と靴下を放り込みスイッチをONにする。浴室に入ると、雑巾を絞って家の中を全裸のまま拭いて回った。掃除を終えると風呂に入って身体を丁寧に洗って湯舟に入った。

 風呂から出ると、そのままキッチンへ向かう。『今日は何を作ろうかな』とレシピ本をパラパラとめくって適当なところで止めると材料の確認をしてから料理に取り掛かった。「ふんふふん」と鼻歌を歌いながら料理を作る。料理の最中に洗濯機が止まる音が聞こえたが、気にしない事にした。御飯が炊け、おかずをお皿に盛ると、椅子に座って「いただきます」と両手を合わせ小声で言ってから、よく噛んでゆっくり食べた。夕食を食べ終えると「ごちそうさまでした」と両手を合わせて小声で呟いて、食器と調理器具を片付けると、脱衣所から洗濯済みの衣類をベランダへ干しに行ってから自室へと戻った。

 『今日も一日よく頑張った。もう寝るか』と布団を敷く。敷布団にシワが出来ないようにのばすと、トイレに行き、トイレに入って20分経過したのを確認してから、洗面台で歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認をしてから、窓際に行きカーテンを開け、窓を開けると、大きく深呼吸をして、「おやすみなさい」と空に呟くと、窓を閉め、カーテンを閉めて布団に入る。

 目を閉じ、羊が一匹、羊が二匹と眠ってしまうまでひたすら数えて、今日の一日が終わりを告げた。


 一人か……。俺、あそこに居なくちゃいけないのか?転送用携帯電話もあるんだし……。



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