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新たな生活(184日目)

 朝6ピピピピ《ピピピピ》アラームの鳴る音が聞こえる。『ん? もう朝?』目覚まし時計を探して枕元を探る。俺は布団からもぞもぞと這い出し、目覚まし時計を止めると、丁寧に布団をたたんだ。

 カーテンを開け、窓を開けて大きく深呼吸すると、静かに窓を閉め、カーテンも閉めた。

 押し入れを改築して作ったトイレに入り、排泄を行う。トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出た。トイレから出ると洗面所で髭を剃り、歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認をしてから、スーツに着替えた。

 キッチンへ行き、弁当を箱のまま温める。少し早い目に取り出し、両手を合わせて「いただきます」と小声で言った後、しっかり噛みながら朝食を摂った。弁当箱の形が少し歪んでしまったが、それでもやはり丁寧に洗い、洗いカゴに入れておいた。

 何も特に持ち物は無いので、ズボンのポケットの中に財布が入っているか確認すると、誰もいない我が家に向かって「行ってきます」と言い、仕事に向かった。

 職場まで歩いて来たが、始業30分前に到着。部屋に入り椅子に座ってぼ〜っとする。中川先輩はまだ来ていない。しばらくすると『ガチャ』っと扉が開く音がしたので見ると「おはよう。さすが、真面目だね」と爽やかに社長が入って来た。「おはようございます!」と立ち上がり、出来るだけ元気に挨拶した。その後を「おはようございます」と今にも倒れ込みそうな勢いで中川先輩が入って来ると、椅子に座ってぼ〜っとし始めた。『社長の前だぞ!』と少し腹が立ったが、自分は自分と社長の方をもう一度見た。が、もう社長は何処にもいなかった。

 仕事が始まると、ぼ〜っとしているだけで何の会話も無い。『この人はこれまで、こんな所に一人でいたのだろうか?』と疑問に思ったが、聞かない事にした。ぼ〜っとしたまま時間だけが過ぎていく。しばらくすると中川先輩が扉の方を指差している。『メシか』と、自分も扉へと目をやる。

 昨日と同じように四角いお盆の上に、御飯と味噌汁、唐揚げとサラダが乗っていた。どうせ電話は鳴らないのだからと、ゆっくり味わって食べる。ふと唐揚げを食べながら思った。『この唐揚げ、前にも食った事が……』そう思ったが、ここへ来たのは今日で二日目だし、そんな事あるわけ無いと思いを振り払った。

 結局、予想通りメシの最中に電話は鳴らなかった。お盆が下げられて行くと無性にトイレに行きたくなった。中川先輩に「トイレ行ってもいいですか?」と尋ねると、目も合わせず頷いた。重ねて「長くなってもいいですか?」と尋ねると、早く行けとばかりに扉の方を指差した。俺はそのまま立ち上がるとトイレまで歩いて行き、排泄を済ませた。トイレに入って15分経過するのを待つ。ここのトイレは誰も使っていないのかと思う位静かだった。

 トイレから戻り椅子に座った途端、突然電話が鳴った。3回コールするのを待ち電話に出た。やはり電話の相手は無言だった。『どうせまた社長だろう』と思いながら、とりあえず「只今係の者は外出しております。御要件は後程再度お電話下さい」と言うと、「そうですか。ではまた後程」と女性の声が聞こえ切れてしまった。『社長以外からも本当にかかってくるんだ』と、思うと『いつまでもぼ〜っとしていられないな』と考えた。しかしその後、どれだけ構えて待っていても結局電話は鳴らなかった。

 退社の時間になり、席を立つ。帰りにスーパーに寄って帰る事にした。ついこの前、始業したばかりだというのに明日と明後日は休みだそうなので、先日やろうと思っていた料理に明日と明後日挑戦してみる事にした。食料品売り場へやって来ると、財布の中身は気にせず、買い物を行う。とりあえず『これだけあれば十分か』と思う量だけカゴに入れると、ついでに今日の夕食と明日の朝食分の弁当を買って帰る事にした。

 レジに並んでいると目の前を中川先輩が通り過ぎて行った。いつものダラけた印象など微塵も感じさせないスッとした姿勢で歩いて行った。咄嗟に声を掛けようかと迷ったが、その時には既に姿は見えなくなっていた。


 家に帰り、スーツを脱いで、そのまま風呂に行く事にした。まずベランダに行き、タオル類と服を取ると風呂場へ行った。脱衣所で服を脱ぎ洗濯機の中に脱いだ物を入れる。全て入れ終えたところで洗濯用洗剤を探すも何処にも無い。『ババア! 洗剤無しでどうやって洗濯……』と腹が立ったがとりあえず無い物は無いので、靴下を水で濡らし、そこに風呂場の石鹸を付けて洗濯機の電源をONにした。

 『ふうっ』と一息ついて風呂に入る身体を洗い、湯舟でボ〜とする。そして風呂場から出る時気が付いた。『タオルも一緒に洗えば良かった』後悔しても仕方が無いのは分かっていても風呂場無いでタオル類を洗いながら何度も溜息をついた。脱衣所に出て服を着用する。全ての服を着用して暫くしてから洗濯機は止まった。『遅ぇなこいつ! 風呂場で手洗いした方が速ぇんじゃねぇの!』と思ったが、『旧式だから仕方ねぇか』と諦めた。

 風呂場を出て、ベランダに洗った物を干すと乾いた物を取り入れて部屋に放り込んでからキッチンまで行きメシに食べにいった。とりあえず、今日は弁当を温める。お皿に小分けにし冷めても良い物から順に温める。全て温め終えると、テーブルの上に並べ両手を合わせて『いただきます』と呟いてから、一口一口ゆっくりとしっかり噛んで食事を摂った。

 食事が終わると、いつも通り器や皿を丁寧に洗い、水気を切ってから棚にしまった。その後すぐ部屋に戻り先程放り込んだ服を丁寧にたたむ。『今日はもう寝るか』と思い、布団を敷く事にした。敷布団にシワが出来ないようにのばすと、トイレに行き、トイレに入って20分経過したのを確認してから、洗面台で歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認をしてから、窓際に行きカーテンを開け、窓を開けると、大きく深呼吸をして、「おやすみなさい」と空に呟くと、窓を閉め、カーテンを閉めて布団に入る。

 目を閉じ、羊が一匹、羊が二匹と眠ってしまうまでひたすら数えて、今日の一日が終わりを告げた。


 明日は料理頑張ってみようかな。『それにしても、あんのババア! あれ以来、音沙汰ないじゃねぇか! ふざけんなよ! はぁあ、元の生活に戻りたい……』



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