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強制的な変化(182日目)

 《ピピピピ》《ピピピピ》アラームの鳴る音が聞こえる。『ん? もう朝?』目覚まし時計を探して枕元を探る。《ピピピピ》《ピピピピ》鳴り止む事は無く、次第に大きくなっていくアラーム音に無理矢理目をこじ開けられた。

 「うるせぇ!」大声を出しガバッと布団から飛び起き、音の原因を探すと、テレビの上で見たことも無い目覚まし時計が大音量で大合唱していた。『………?? これ………誰の? ……いつから……置いてるの?』アラームの音を消すのも忘れて、じっと時計を見つめていた。時間は8時25分になるところだった。

 時計は8時30分になったところで、その大合唱を止めた。暫く呆然とテレビの上の目覚まし時計を眺めていたが、『ババア!』と正気に戻り、玄関まで走って行った。そこには、………今扉を出ようとする母親の姿があった。『………!! ババアァ!』気持ちの高揚を抑え切れず母親に掴み掛かろうとした瞬間………。ババアが振り返ってニヤッと笑った気がした………。


 朝10時、目が醒めた。『ババア! どこ行った!』布団から飛び起きると辺りを見渡すが、誰もいないいつもと変わらない我が家であった。とりあえず丁寧に布団をたたんでから、カーテンを開け、窓を開けて大きく深呼吸すると、静かに窓を閉め、カーテンも閉める。

 押し入れを改築して作ったトイレに入り、排泄を行う。トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出た。

 部屋を眺めると、いつもと違う物に目が止まった。『あっ……あれは………あれは……!』思わずテレビに駆け寄る。『な、なぜ! この時計があるんだ!』それは、今朝夢で見た目覚まし時計だった。『ババアァァ!!』気が付いた時には、もう玄関に向かって走り出していた。玄関にすぐ辿り着いたが、当然の如くそこに母親の姿は無かった。しかし、扉を開けいやらしく笑う母親の顔が頭に浮かび、靴を拾うと扉に向かって力いっぱい投げ付けた。突然辺りがシンッと静まり返ったような気がした。腹立たしさはまだ残っていたが、立ち尽くしていても仕方がないので朝メシにしようとキッチンへ向かった。朝食の弁当をレンジで温めていると、突然ジリリリリン《ジリリリリン》と電話が鳴るような音がした。突然の事に一瞬動けなくなったが、『はぁっ! 電話……あったっけ? ……』と我を取り戻し、音の鳴る方へ恐る恐る近付いて行った。《ジリリリリン》《ジリリリリン》玄関の方へ行くに連れて音は大きくなっていく。玄関にまたやって来た。辺りを見渡すと、シューズボックスの上で携帯がけたたましく鳴り続けていた。『誰………の……携……帯……?』『…

…ババアァ! ………えっ、ババア?』何だかもう訳が分からなくなってきた為、とりあえず携帯に手を伸ばした。携帯を手に取り着信ボタンを押し、ゆっくりと耳に当てた。

 「あっ! 守。やっと出た。おはよう。遅いわよ。何してるの!」聞こえてきたのは、母親の声だった。突然の事に何も言えないでいると「あのね、守。今日のお昼前位に、この前の広告覚えてる? 今日のね、お昼くらいにあそこに書いてあった引っ越し屋さんの社長さんから、その電話に電話あるからね。わかった? じゃあね。」とだけ言うと電話を切ってしまった。「おい! どういう……」文句の一つでも言おうと口を開いたが、もう電話は切れた後だった。仕方なく、とりあえずキッチンへ戻ろうとした時ある事を思い付いた。『……これ………携帯……だよな。と、いう事は電話出来んじゃねぇのか?』そう思うと、居ても立ってもいられず、携帯を手にとると、ゆっくりダイヤルをプッシュし始めた。その時だった《ジリリリリン》と携帯が鳴った。思わず落としそうになったが、《ジリリリリン》と鳴り止まない携帯に出ると、「あっ守! 言い忘れた事があるんだけど、その携帯、着信専用だから!じゃあね。」と母親の声が聞こえたと思うと一方的に電話が切れてしまった。『はぁ?』と思ったが、そう言えば俺に電話する友達なんていなかったと思い、携帯をテー

ブルの上に置いた。もう冷めてしまったメシを温める気力もなく、その冷めたメシをとりあえず食うと弁当を綺麗に洗ってから部屋に戻った。


 とりあえず携帯に電話があるというのだから、どうしようもないので、『今日は、とりあえず包丁を買わないと』とトイレに行き15分経過したのを確認してからトイレを出て、キッチンのテーブルの上に置いていた携帯をポケットに突っ込むと玄関を開け、誰もいない我が家に「行ってきます」とボソッと言うと包丁を買いに出掛けた。

 道中は、もう何の違和感も感じない。町並みを眺めつつスーパーを目指す。途中で百円均一の店を発見した。『こんな店あったっけ?』と思いつつ中に入ってみた。とりあえず『包丁あるかな』と思い、『包丁、包丁』と心の中で呟きながら店内をうろうろする。『けっこう何でもあるんだな』と思いながら店内をうろついていると、包丁を発見した。『あるじゃん。ラッキー得した』と包丁を一本手に取るとレジに向かった。レジで、包丁一本と百円玉一枚を置くと、店員から「すいません。五円足りません」と言われた。『はぁ? 百円均一だろ!』と思いつつ十円追加する。五円のお釣りを貰うと、もう一度店の外から店を見る。大きな文字で百円均一と書いてある。『くそぉ! あの店員に騙された! と店内に入ろうとした時だった。《ジリリリリン》と突然、携帯が鳴りだした。慌てて着信ボタンを押すと「あ〜もしもし、○○○引っ越しセンターの山口と申しますが、守君ですか?」と見知らぬ男の声が聞こえてきた。突然の出来事に「はぁ」と答えると見知らぬ男は「今どこにいてる? 家? それとも外?」と立て続けに質問してきた。『そういえば今朝あのババアが社

長さんから電話があるとか言ってたな』と思い出し、「外です。百円均一の前」と答えると「いやぁ奇遇だなぁ。私も今、百均にいるんだよ。前か、わかった。すぐ行くから切らないでね」と言った途端、目の前の自動ドアが開いたと同時に中年のオッサンが出てきた。オッサンは外に出るなり携帯に「守君?」と言った為に「はい!」と言ってしまった。


 「はっはっは。なるほどね。百均だから全部百円だと思った……ね。そりゃそうだ。そうおもうよね。なるほど聞いていた以上に真面目なのかな」とオッサンはおかしそうに笑っている。ここは近くのファミレスの座敷部屋。昼は? と聞かれたので「まだです」と答えると、「そうか、じゃメシでも食べながら話そうか」と連れて来られたのだった。と気が付くと「守君。はい、これが履歴書。形だけでも書いておいてね」と手渡された。「まだ働くとは……」と言いかけたが、このオッサン人の話など聞く耳持たずで、「君のお母さんから、話しはよく聞いているよ。真面目なんだってねぇ。明日からはうちでその真面目さを発揮してもらおうか」ともう勝手に話を進めていた。メシを食べている時間よりもオッサンの話は長かった。「明日は朝迎えに行くから、それまでにそれ書いておいてね」と言って伝票を持つと「さあ、今日は帰ろうか」と席を立った。「あの……仕事内容……」と軽く言ったが、「明日説明するから。なぁに簡単。簡単」とあしらわれてしまった。


 結局、その後家の前まで車で送ってもらい、家に帰った。家に着いたのは午後七時『あのオッサンどれだけ話すんだ』と思いつつも、もう夕食も面倒だったので、風呂に入る事にした。

 風呂用セットを持って風呂場へ行くと湯舟にお湯をはりながら服を脱いだ。風呂の中で丁寧に身体を洗う。『それにしても、メシ旨かったなぁ』と昼メシ、タダメシの事を思い出していた。湯舟に浸かると『明日から仕事か……』とサラリーマン時代を思い出す。嫌な想い出ばかり頭を過ぎる。『明日、明日』と頭を切り換え風呂を出るとベランダに服とタオル類を干し部屋に戻った。


 部屋に戻ると今日の疲れがどっと出たので、今日はもう寝る事にしたが、履歴書を書かないといけない事を思い出し、パソコンの机に座ると書ける範囲で履歴書を埋めた。『写真ねぇな』と思ったが、『明日でいいか』と、まず布団を丁寧に敷き伸ばしてからトイレに行く。トイレに入ってから20分経過したのを確認してからトイレを出て歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認をしてから、窓際に行きカーテンを開け、窓を開けると、大きく深呼吸をして、「おやすみなさい」と空に呟くと、窓を閉め、カーテンを閉めた。

 布団に潜り込み目を閉じ、羊が一匹、羊が二匹と眠ってしまうまでひたすら数えて、今日の一日が終わりを告げた。


 はぁ、明日から……仕事……か。どうなるのだろう……。



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