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困惑2(181日目)

 朝10時、目が醒めた。『はぁ』いきなりため息が出た。

 俺は布団からもぞもぞと這い出し、丁寧に布団をたたんだ。カーテンを開け、窓を開けて大きく深呼吸すると、静かに窓を閉め、カーテンも閉めた。

 押し入れを改築して作ったトイレに入り、排泄を行う。トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出た。

 『腹減った』と、キッチンへ行き弁当を冷蔵庫から取り出した。弁当は後二食分だ。取り出した弁当を皿に盛りつけてからレンジで温める。温まった弁当は、もはや弁当ではなく立派な朝食だった。「いただきます」と両手を合わせて言った後、ゆっくりと食べ始める。『この後どうしよっか。まずメシは絶対的に必要だろ。仕事は………まぁそのうち考えるとして、金に限度があるから、ババアの言う通り自炊しねぇといけねぇか。という事は、俺、料理なんてした事ねぇから本が必要だな。材料は、本を見てからか? でも、創作料理ってのもあるしな、自分で考えてって手もあるか。いや………自分でって……それは不安一杯だな。何にせよ、まず明日からのメシの確保が最優先。金の確保については、また後々だな。仕事………か……。簡単な電話対応ってどんな事すんだろ? 給料は月末払いだろうから、近々考えねぇと金が無くなってからじゃヤベェよな。まぁメシ食ったら買い物だな』メシを食いながら考えて、食べ終わった食器を片付けた後、部屋に戻ると懐かしい財布に全財産を放り込み、鍵を小銭入れの中に入れると買い物に出発しようとしたが、前回トイレで嫌な思

いをした事を思い出し、トイレに行き15分経過したのを確認してからトイレを出て買い物に出発した。

 スーパーまでの道程はたやすいものだった。すれ違う人も、遠くに見える人も別段恐怖を感じる事はなかった。『俺って以外と順応性があるのかも』と思うと知らずの内にニヤニヤしてしまい、咄嗟に真顔に戻した。通り過ぎる人、行きゆく町並み、住宅街、高層ビル、全て少し前まで自分とはもう全く関係無いと思っていたのに、こんなに近くに存在している。そんな事を考えながらスーパーへ辿り着いた。

 まずは本屋へ向かう。料理の本と探していると、いろいろとあり『簡単レシピ』とか『百円で出来る……』とかを適当に持つとレジに行った。が、ちょっと写真が映っているだけで値段が格段に上がるため、数冊返し二冊のみ購入した。そのまま食料品売り場へ向かう。先程購入した本から適当なページを開いて、料理に必要な物をカゴへ入れていく。『なんだよこれ! 一つ買うだけで百円以上かかんじゃねぇか! どこが百円レシピなんだよ!』本を床に投げ付けたい衝動に駆られながら、買い物を続ける。ページをめくりながら、とにかく安い物で出来る物を探していたが、ふとある事に気が付いた。『なんだこれ。殆どの料理に砂糖とか塩、酒、味噌や酢、油とか書いてあるじゃねぇか。料理って野菜や肉があれば出来んじゃねぇのか。マジでぇ! じゃあ、材料よりもこっちの調味料ってヤツ揃えねぇといけねぇじゃん。あ〜! うぜぇ! マジうぜぇ! 金足りんのか? ヤベぇんじゃねぇの?』頭がもう混乱して訳が分からなかった。とりあえず本の中のよく見る調味料をカゴに入れていく。『これ、こんなに買ってたら弁当買ってる方が安いんじゃねぇ?』等考えながら買

い物をし、レジでお金を払うとカゴの中には、各種調味料と少しの野菜、あと二日分程度の弁当が入っていた。

 とりあえず今日はそのまま帰ろうかと思ったが、ふとフードコートが目に入り立ち寄って、ソフトクリーム一個とコーラを一杯飲食した。『うめぇ! これ家で作れねぇのか? ヤベェ!ヤバイ位うめェ!』と至福を感じながらスーパーを後にした。

 家に帰ると何かドッと疲れが出たような気がした。もうそのまま倒れ込みたいような衝動に駆られたが、とりあえず買ってきた物を冷蔵庫やコンロの棚に直した。メシを作ってみようかと考えたが、なんだかかなり面倒に思えたので、メシ作りは明日から行うことにして、今日は弁当を食べることにした。ひとまずちょっと勉強しとこうかと本を開いた。買ってきた野菜だけで出来そうな料理を探す………。『おぉ! これなら簡単そうじゃん!』と作り方に目をやると、『うわぁ! そうだった! やっちまった! 俺バカだ。大バカだ! 包丁無かったらどうやって切るんだよ!』頭を抱え込みたくなった。が、『やっぱヤメ!うぜぇし、面倒臭ぇからヤメだ! あ〜鬱陶しい!』と本を閉じキッチンのテーブルの上に置いたまま部屋へと戻った。

 『あ〜! くそっ! 結局ババアの言いなりじゃねぇか!』納得いかない気持ちと、何もまともに出来ず不甲斐無い自己嫌悪から部屋の真ん中で、ごろんと横になって悪態をつくしか無かった。【言われた事しか出来ない。自分からすすんで何も出来ない。会社にとって損失。家庭にとって損失。世界にとって損失】上司に言われた事と自意識の喪失によって生まれた自虐的な思いが入り交じって頭の中を交差し続けた。随分前に失われた『消えてしまいたい』という思い、それがまた出てきそうになったが、やはり死ぬのは嫌だった。例えようの無い喪失感と嫌悪感、虚無感と脱力感に苛まれながら意識を失った。

 『ん? 最近このパターン多いな』気が付くと夜だった。『今日は風呂入らねぇと……』ふらふらと立ち上がるとベランダから服やタオル類を持って風呂へ向かった。

 身体を流し、湯舟に入ってボーッとする。『あ〜! やってらんねぇ! ……けど、やるしかねぇ! あ〜嫌だ! 嫌だぁ!』くだらない愚痴が頭の中を回る。『料……理……か。以外と…難しいんだな……。明日、包丁買いに行かねぇと…な。あ〜ぁ、しんど。あ! そういや、今日トイレ洗ってねぇ! ……今日はもう面倒臭いし……明日やるか』重い頭と身体を無理矢理動かし、風呂から出ると風呂の中を軽く洗ってから服とタオルを洗い、ベランダに寄ってから部屋に戻った。

 まず布団を丁寧に敷き伸ばしてからトイレに行く。トイレに入ってから20分経過したのを確認してからトイレを出て歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認をしてから、窓際に行きカーテンを開け、窓を開けると、大きく深呼吸をして、「おやすみなさい」と空に呟くと、窓を閉め、カーテンを閉めた。

 布団に潜り込み目を閉じ、羊が一匹、羊が二匹と眠ってしまうまでひたすら数えて、今日の一日が終わりを告げた。


 この調子で金使ってたら、すぐに無くなっちまうかな。……仕事しねぇといけねぇのか? ……料理も難しいしよ。あ〜! もういい! 寝る! もう、うぜぇ!



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