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困惑(180日目)

 ガチャガチャ音がする。『うるせぇ!今何時だよ!』時計は5時を指していた。『なんだよ!うるせぇんだよ!』とそのまま寝てしまった。

 朝10時、目が醒めた。おはよう、俺。あれ?何か大事な事忘れてる気がする。

 俺は布団からもぞもぞと這い出し、丁寧に布団をたたんだ。

 カーテンを開け、窓を開けて大きく深呼吸すると、静かに窓を閉め、カーテンも閉めた。

 押し入れを改築して作ったトイレに入り、排泄を行う。トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出た。

 テレビの前に座り、リモコンのスイッチを押す。画面にビデオ1と真っ黒な映像が映るのを確認すると、テレビ台の下に置いてあるテレビゲームのスイッチをONにした。

 画面にゲームのタイトルが、表示されコンティニューを選択してゲームを始める。1時間程やってから、朝メシを食いに行こうとゲームを止めた。

 キッチンで冷たい朝メシを食べる。『変な物食って腹壊さない代わりに、冷た過ぎて腹壊しそうだな。』と思いながらメシを平らげた。弁当箱を洗ってから自分の部屋に戻ろうと廊下に出ると、玄関の方に『ごちゃ』っと何かが積まれていた。近付いて見ると、フライパンやら鍋やらが数点と炊飯器、電子レンジ、ポットといった食卓家電製品が山積みになり、その上に手紙が添えられていた。

 【守へ。何を食べているのか大体の見当はつくけれど、そんな物ばかり食べていたらお金がいくらあっても足りないわ。なので今のあなたのお金では買えないような物を用意したから使ってね。後、今回は十万円入れておきます。これで以上金銭援助はしないので、自分で何とかしてね。じゃあね。】と書かれており、封筒の中を見ると、一万円札が十枚入ってあった。『はぁ!また訳の分かんねぇ事言いやがって!』と思った途端、今朝の事を思い出した。『そういえば朝ガチャガチャうるさかったな。これの音だったのか。くそっ、あの時ここに来てればババア捕まえられたんじゃねぇか!』途方に暮れ、山積みの荷物を見下ろしながら、座り込んでしまった。手紙を床に置いた瞬間、手紙の間から一枚の紙が覗いていた。取り上げて見てみると【新人バイト募集!】という見出しが目に飛び込んできた。内容を見てみると、【時給850円 学歴不問 フルタイムで週休二日可能な方、電話下さい。簡単な電話対応のみです。×××ー××××ー×××× 株式会社○○○引っ越しセンター】と書いてあった。

 暫く荷物とチラシを交互に眺めていたが、こうしていても何も始まらないので、とりあえずキッチンに荷物を運び込み、整理して直していった。最後に電子レンジを運び込んで、『あっ、これがあったら弁当温められんじゃねぇの?』と思ったが、【そんな物ばかり食べていたらお金がいくらあっても足りないわ。】という文面を思い出し「はあ!」と大きなため息をついた。『それにしても、何だよこの紙!俺に仕事しろってか!俺が仕事出来なくなった理由忘れたのかよ!』もう、どうしていいのか分からなくなり、頭が狂ってしまいそうだった。ひとます落ち着かないと、とだけ思ったので、部屋に戻りゲームをすることにした。パソコンを点けようかと思ったが、もうすぐ昼メシだったので、ゲームにした。『こうしてれれば、俺はよかったんだよ!なのに、どうしてだよ!どうして、こんな事になっちまったんだよ!』ゲームをしながら自問自答する。全然ゲームが面白くない。自問自答を繰り返しながら、とにかく昼メシまでの時間を潰すためにゲームをし、昼過ぎにキッチンへ降りた。

 冷蔵庫から冷たくなった弁当と惣菜を取り出す。これまでならば食事を摂るのも苦痛だったが、これからは電子レンジがあるので温かいメシが食えるとウキウキしていた。まず、取り出した弁当と惣菜を茶碗やお皿に丁寧に区分けして並べていく。冷めても食べれる物から順に温め、最後に御飯とメインのおかずを一緒に温めた。食卓に座り、目の前で美味そうに湯気を上げている昼メシを一通りざっと眺めると両手を合わせて一人で「いただきます」をして食事を摂る。温かい御飯、温かいおかず一口食べる度に夢でないかと自分に問いただす。『やっぱメシは、あったかいのが美味いねぇ』と口の中に一口ずつ入れて丁寧に味を噛み締めながら食べていった。

 食事を食べ終えると、不意に「はあぁ!」っと大きなため息が出た。なにもかも忘れて、食事に没頭したつもりだったが、心は何も忘れてはいなかった。ひとまず食べ終えた食器を丁寧に洗って水気をしっかりきってから片付ける。ゆっくりやっても、そんなに時間のかかる事ではないので、すぐに終わってしまった。食事の残りは、後三食分。明日の昼には無くなってしまう。この先無職で家にいる事を続けるには金が絶対的に必要だが、それも後十万と前回の残りのみ。自分の意思とは裏腹にどんどん家に居られなくなる現状に、ため息しか出て来なかった。

 『ふぅ』と、もう一息ついて部屋に戻った。『さぁ、どうするかな。とりあえず、この部屋から出来るだけ出なくていい方法を考えねぇと。…けどこのまみじゃ、金が無くなっちまうし。ババアの掌の上で転がされてるだけだしよ。…死なねぇ程度に死ぬ寸前までいったら、ババアも分かってくれたりしてよ。じゃねぇと、仕事かよ!それはヤベェって。あの時の俺、覚えてねぇのかよ!あのババア!ヤバいな。金無くなるまでに、考えねぇと。……いや、金無くなる前に考えとかねぇと、マジ無くなった時にまた水生活になっちまうぞ。それだけは避けねぇと…。はぁ、嫌だ。』部屋に入り、何をするでも無くテレビの前に座り込むと、腕組みをしたまま考え込んでいた。『死なねぇ程度につっても、あのババアこの前の旅行って言ってた一週間マジで来なかったしな。死なねぇ程度を目指して死んじまったらやだし。どうすっかな。あ〜!まとまんねぇ!……落ち着け!落ち着け、俺!』考えれば考える程パニック状態に陥っていった。

 ふと気が付くと辺りは真っ暗だった。頭の回転が鈍くなりいつの間にか眠ってしまっていたようだった。『晩メシ…食ってない』と思ったが、面倒なので止めにした。とりあえず身体を起こすとトイレに行った。20分経過するのを待つが、頭の中をお金の事と食事の事と仕事の事が、ぐるぐる回って嫌になりそうだった。トイレから出て、洗面台で歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認をしてから、窓際に行きカーテンを開け、窓を開けると、大きく深呼吸をして、「おやすみなさい」と空に呟くと、窓を閉め、カーテンを閉めた。

 布団をまだ敷いてなかったので、一つのシワも作らないように布団を敷き、『風呂も、もういいか』と思い、布団に潜り込んだ。

 目を閉じ、羊が一匹、羊が二匹と眠ってしまうまでひたすら数えて、今日の一日が終わりを告げた。


 金、飯、仕事……か……。



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