葛藤(179日目)
朝10時、目が醒めた。おはよう、俺。今日も一日頑張ろう。
俺は布団からもぞもぞと這い出し、丁寧に布団をたたんだ。
カーテンを開け、窓を開けて大きく深呼吸すると、静かに窓を閉め、カーテンも閉めた。
押し入れを改築して作ったトイレに入り、排泄を行う。トイレに入ってから15分経過したのを確認しトイレから出た。
テレビの前に座り、リモコンのスイッチを押す。画面にビデオ1と真っ黒な映像が映るのを確認すると、テレビ台の下に置いてあるテレビゲームのスイッチをONにした。
画面にゲームのタイトルが、表示されたところで、『ゲームなんかやってていいのか?』と疑問に思い、ゲームとテレビを消して昨日スーパーで買った弁当を一つ取り出すと、割り箸を二つに割って弁当を一口一口味わって食べた。
弁当を食べ終えると、風呂場へと向かう。風呂場は昨日入浴した状態のまま放置されていた。服を脱ぎ全裸になると、浴室に入り湯舟のお湯を抜く。そのままバスタオルや衣類を洗濯し、タオルで風呂を綺麗に掃除した。タオルとバスタオルと衣類をしっかり絞ると脱衣所で服を着用しベランダに向かう。手摺りにきちんとシワを伸ばしてそれらを干すと、部屋に戻ろうとしてふと気が付いた。
廊下や階段の床にペタペタと足型が付いている。『埃だ!』と思うと自分の足の裏を見た。足の裏は真っ黒に汚れていた。この間から俺は自分の足の裏で床掃除をしていたのかと思うと気持ちが悪くなった。ベランダまで逆戻りすると二枚のタオルの内一枚を手に取り、脱衣所へ行くとバケツの中に水を張り、タオルを濡らして家中の床や畳の上をピカピカになるまで拭き続けた。
掃除を終えると、もう昼を過ぎていた。部屋に戻るとスーパーの袋を持ってキッチンへ行った。キッチンで弁当を一つと惣菜を取り出すと残りを冷蔵庫に並べて入れ、食卓に座ると弁当と惣菜を一口一口味わってゆっくりと食べた。食事を済ませると弁当箱を流しで綺麗に洗い洗いカゴの中へ入れ放置した。
キッチンを出ると自室へ行き、トイレ掃除用ブラシを取り出しトイレへと向かう。トイレに入ってから排泄を行い、15分経過したのを確認し、トイレを洗い始める。ふと『おいおい。これじゃババアの言いなりじゃねぇか!バカバカしい!何を真面目にやってんだ俺は!』と思い、掃除を途中で放り出して、部屋に戻るとテレビの前に座りリモコンのスイッチを押した。テレビにビデオ1と真っ黒な画面が表示されると、ゲームのスイッチをONにしてコントローラーを持ったままテレビ画面をじっと見つめた。タイトルが表示されコンティニューを選択しゲームを開始したが、放り出したトイレ掃除が気になって仕方が無い。『ババアの術中にはまってはならない』と自分を説得しゲームに目をやるが、居ても立ってもいられなくなり、『しゃあねぇ、トイレだけだからな!』と言い訳じみた事を考え、テレビを点けたままトイレに向かった。長い間洗われていなかったトイレの汚れは尋常でなかった。ブラシで、擦っても擦っても黒ずみや水垢のラインが取れず悪戦苦闘しながら綺麗に磨きあげた。自室のトイレ掃除を終える頃にはもう汗だくだったが、一度始めてしまうとスト
ップが効かず、二階と一階のトイレも洗う事にした。まず二階のトイレに行き掃除をする。何故か以外と綺麗だった。調子に乗って一階のトイレに行き扉を開けた途端、気を失いそうになる程の悪臭に襲われた。咄嗟に思わず扉を閉めてしまった。『おぉうぇぇ!臭せぇ!どうなってんだここは!』そのまま放置して行こうかとふと思ったが、キッチンのほぼ隣の為放っておく事が出来ず、息を大きく吸い込むと息を止めてトイレに再度入った。『窓。窓。』まず窓を全開にし、トイレの水を流してから蓋を開けた。悪臭の原因は、便器のあちこちにこびりついた排泄物だった。『ババア!ちゃんと洗えよ!』愚痴を口にしたい勢いだったが、今息をするわけにはいかない。ぐっと堪えて便器をブラシで擦った。息苦しくなるとトイレを飛び出し大きく何度か息をして、また息を大きく吸い込むとトイレに入るを繰り返した。
トイレ掃除を終えると身体中に臭いが染み付いたような感覚に襲われ、気持ち悪くなったので、まだ夕方にもなっていなかったが風呂に入ることにした。臭いが染み付いたまま家の中を歩くことに躊躇し、そのまま風呂まで行った。風呂場でお湯を浴びると身体の疲れが飛んで無くなるような気になったが、『うぜぇ!どうして俺がこんな事しなきゃいけねぇんだ!ババア!どこ行きやがった!』無性に腹が立ってきた。
風呂を出るとバスタオルも何も無い事に気が付いた。とりあえず今まで着ていた服を風呂場で洗うと、シャツをタオル替わりに使用し、もう一度洗って風呂を出た。服をベランダに干して乾いた服を持って部屋に行き、部屋で服を着用した。
『くそっ!何で俺が!あ〜、もうやってられっか!』とテレビの前に座ると、そのままコントローラーを持ちゲームをやり始めた。暫くゲームに集中していると気持ちが何だか落ち着いてきた。そのまま続けていてもよかったのだが、『そろそろ晩飯だな』と思い、ゲームとテレビを消して部屋を後にした。
キッチンに着いて冷蔵庫を開けると弁当と惣菜を取り出した。『さあ、晩飯だ』と思い弁当箱を開けるとカチカチに御飯が固まっていた。『嘘ぉ!なんじゃこりゃ!』弁当の中は、御飯だけでなくおかずまでもが、当たり前だが冷たくなり、固まっていた。『こんなのどうやって食べんだよ!』考えて見たが、よい方法が浮かばずそのまま食べることにした。『冷た過ぎてまじぃ!あ〜〜〜〜!!くそっ!マジで嫌だ!あ〜!』頭の中でぶつぶつと言いながらとにかく口の中に放り込んだ。
夕食を食べ終わると、もうどうでもいいような気がしてきた。『金くれんだから、必要分だけメシ買って、今まで通り過ごせばいいじゃねぇか。あぁ、うぜぇ!あの冷たいメシどうしよう。』と少し考えたが考えても仕方が無いので、とりあえず置いておく事にした。
今日は、もう風呂にも入り夕食も摂ったので、もうする事が無いと部屋に戻り、パソコンの電源をONにした。暫く待ってメイン画面が表れると、『友達』のボックスをダブルクリックし放置する。画面の中の女性は、まだいなかった。『今風呂中か?』と、ぼ〜っと画面に写るその部屋の中を眺めていた。『あれ?』ふと女性の部屋の中の机の上に目が止まった。『いつも同じ物食ってんのか?』今まで気にならなかったが、スナック菓子の袋がいつも同じような気がした。暫く見ていると女性が身体にバスタオルを巻きテレビの前に歩いて来た。濡れた髪をドライアーで乾かし、バスタオルを取ると、全裸の身体に下着を着け、パジャマを着用する。『やっぱり同じ事をやってるように見える。どうなってんだ?』と、今日は時間もあるので、もう暫く見ている事にした。少ししてから女性は突然パジャマを脱ぎ始めた。何が始まるのかと期待して見る。すると女性は服に着替え座るとテレビを見ながらスナック菓子を食べ始めた。『この光景どっかで見たぞ』と思っていると、突然画面が真っ黒になり、【本日の放映時間終了】という文字が表れた。『なんだよ放映時間って!リアル
タイム画像じゃねぇのかよ!』と言えない文句を考えながらパソコンをシャットダウンして敷布団にシワが出来ないように布団を敷いた。
その後トイレに行き、トイレに入って20分経過したのを確認してから、洗面台で歯を磨く。右奥を30回、右奥の内側を30回、左奥を30回、左奥の内側を30回、前歯を30回、前歯の裏を30回数えて磨き、コップに塩水をいれ一回一分を5回ゆすぐ。袋の中に息を吹き入れ、中の臭いを嗅いで口臭の確認をしてから、窓際に行きカーテンを開け、窓を開けると、大きく深呼吸をして、「おやすみなさい」と空に呟くと、窓を閉め、カーテンを閉めて布団に入る。
目を閉じ、羊が一匹、羊が二匹と眠ってしまうまでひたすら数えて、今日の一日が終わりを告げた。
俺の生活どうなっちまうんだ?メシだけは、なんとか確保しねぇとな。