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第一章 「最悪だと思った席替え」

修学旅行の座席表を見て、思わずため息をついた主人公。


隣になったのは、クラスでもほとんど話したことのない地味な女子・白石栞でした。


「三日間、気まずいだけだろう。」


そう思っていた二人の距離が、少しずつ変わり始めます。


それでは第一章をお楽しみください。

「終わった……」


修学旅行当日の朝。


昇降口に貼り出されたバスの座席表を見た俺は、小さくため息をついた。


隣の席。


二年三組 白石栞。


……誰だっけ。


もちろん名前くらいは知っている。


同じクラスなのだから当たり前だ。


けれど、まともに話した記憶がない。


教室の窓際、一番後ろ。


昼休みになると文庫本を開き、誰かと騒ぐこともなく静かにページをめくる。


体育祭でも文化祭でも前には出ない。


クラス写真では端っこ。


良く言えば落ち着いた子。


悪く言えば存在感が薄い。


男子の間で名前が話題になることもほとんどない。


だからこそ俺は思った。


三日間、気まずいな。


「おーい、拓海!」


親友の健吾が笑いながら肩を叩いてきた。


「俺なんて女子三人組の真ん中だぞ。助けてくれ。」


「自業自得だろ。」


「いや、俺は人気者だから。」


「はいはい。」


くだらないやり取りをしながらバスへ向かう。


車内はすでに修学旅行特有の浮ついた空気に包まれていた。


「ここだ。」


窓側に座っていた彼女は、小さく立ち上がる。


「お、おはよう。」


「……おはようございます。」


控えめな声。


近くで見ると、黒縁眼鏡の奥にある瞳は思っていたより澄んでいた。


「よろしく。」


「よろしくお願いします。」


それだけ。


会話は終わる。


……やっぱり気まずい。


バスが動き出す。


前の席ではトランプ。


後ろでは恋バナ。


先生が「静かにしろー」と言っても誰も聞いていない。


そんな中、俺たちだけが妙に静かだった。


何か話そう。


そう思う。


でも話題が浮かばない。


趣味も知らない。


好きな食べ物も知らない。


「……」


「……」


沈黙。


この沈黙だけで目的地まで行くのか。


そう覚悟した頃だった。


「橘くん。」


「え?」


「酔いやすいですか?」


突然の質問に驚く。


「どうして?」


「さっきから窓の外ばかり見ています。」


言われて初めて気付く。


確かに少し気持ち悪い。


「実は少し……。」


彼女は慌てる様子もなくバッグを開けた。


小さな缶。


中から包み紙に包まれた飴を一つ取り出す。


「生姜の飴です。」


「効くの?」


「祖父がいつも持ち歩いているので。」


半信半疑で口に入れる。


甘さの後から、生姜の爽やかな刺激が広がった。


数分すると、不思議なくらい吐き気が引いていく。


「本当だ。」


「良かった。」


彼女は自分のことのように安心した笑顔を浮かべた。


その笑顔を見て、俺は少し驚く。


クラスでは一度も見たことがない笑顔だった。


柔らかくて、どこか安心する。


「ありがとう。」


「いえ。」


また静かになる。


でも、さっきまでとは違う静けさだった。


気まずい沈黙ではない。


不思議と居心地の悪くない時間。


窓から差し込む朝日が、彼女の横顔を照らしていた。


俺はその時まだ知らなかった。


この修学旅行が終わる頃には、俺の高校生活そのものが少しだけ変わっていることを。


(第二章へ続く)

第一章をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は主人公と栞が出会い直すような、物語の始まりを描きました。


次回は京都での班別行動を通して、二人の距離がさらに縮まっていきます。教室では見られない栞の意外な一面や、主人公が少しずつ惹かれていく様子にも注目していただけると嬉しいです。


引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

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