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三国志・王脩伝ー義に厚き漢ー  作者: 涼風隼人


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2/22

第2回 王脩、張奉一家を看病する

 王脩は馬に乗り、一〇日ほどで南陽郡に入った。


 日が沈みかけている。今日はこの辺りで宿をとろう、と考え、とりあえず民家を探した。


 すると、一軒、比較的大きめの民家がある。

 「ここであれば、何とかなるだろう。」


 王脩はそう思い、門を叩く。


 しばらく待っても、誰も出てこない。


 門を押してみると、簡単に開いた。


 王脩は大きな声で言う。

 「誰か、誰かおりませぬか!旅の書生の者ですが、一夜の宿のお願いをしたいのですが!」


 再びしばらく待ってみたが、誰も出てこない。

 王脩は「失礼します」と言って、そのまま中に入っていた。


 本宅と思えるところの玄関口を開けると、異臭といささか異様な雰囲気を感じたが、王脩は言う。

 「誰もおりませぬか?旅の書生で王脩と申します。差し支えなければ、一夜の宿をお願いしたいのですが。」


 やはり、誰も出てこない。返事もない。


 王脩は諦めて他の民家を探そうと思ったが、この異臭と異様な雰囲気を確かめるべきと考え、家の中に入ることにした。


 奥へ進むと、臭いがきつくなってきた。しかし、人の気配も感じる。すると、声が聞こえてきた。何を言っているのかわからないが、王脩はその声の聞こえる部屋へと向かう。


 すると、数人が苦しみの声をあげながら、横たわりもがいているのを見つけた。先ほどの声の主であろうか。この家の主と思われる男が言う。

 「旅のお方・・・。私は張奉と申します。御覧の通り、家族全員で原因はわかりませんが、今までにないような病にかかってしまいました・・・。」


 「王脩と申します。それは、大変でございます。世話をしてくれる人はいないのですか?」


 「この辺りに居を構えているのは私たちのみで、頼れる親戚縁者や近所の者はおりませぬ・・・。」


 王脩は少し考えてから言う。

 「張奉殿。この様な大変なところを目にして、私はそのまま旅をつづける気にはなりませぬ。差し支えなければ、皆さまの看病を私にお任せ頂けませぬか?」


 「なんと・・・。なんと、ありがたいお言葉でしょう。回復した後、お礼はさせて頂きます。是非、お願いいたします。」


 張奉は涙を流しながら、王脩に感謝した。


 王脩はまず台所に行った。幸い、主食である粟や黍と言った雑穀の蓄えは十分にあるようだ。王脩は、かゆを焚いて張奉一家に食事をとらせた。


 翌朝、王脩は家全体の掃除に取り掛かった。病を癒すには、衛生的な環境が大切であると思ったからである。


 そして、食事も時間を決めて、提供した。最初は皆、残す量が多かったが、日に日に食事がとれるところまで回復してきた。


 王脩は、まるで自分の家族に接するように、かいがいしく張奉一家の看病を懸命に行った。


 その努力が実り、一〇日を過ぎたあたりで、家族全員が健康を取り戻した。張奉が言う。

 「王脩殿。本当にありがとうございます。あなたのおかげで、全員健康を取り戻すことが出来ました。心より感謝を致します。少しばかりではありますが、こちらを路銀の足しとしてお使いください。」


 王脩は首を横に振って言う。

 「張奉殿。この金子は受け取れません。人として、当たり前のことをしただけでございます。」


 「・・・。そうですか・・・。では、こちらをお持ち下さい。」


 張奉は懐から書状を取り出して、王脩に渡した。


 「この書状は?」


 「この書状は、宛城で私塾を構えている“盧邦”宛のものです。私の友人ですが、中々の人物と言えます。まだ師を決めていないと伺ったので、よろしければお使いください。この書状を見せれば、すぐに会うことが出来ると思います。」


 「わかりました。こちらの書状は、ありがたく受け取らせて頂きます。」


 「王脩殿、この度は本当にお世話になりました。また是非、いらしてください。その時は、家族で歓待させて頂きますので。」


 「はい。皆さんが元気になって本当に良かった。言い方は変ですが、看病など今までしたことがありませんので、勉強になりました。」


 「私共は、いつか王脩殿の名が天下に知れ渡ることを楽しみにしております。」


 「それほどの人物になれればいいのですが・・・。それでは、名残惜しいですが、出立させて頂きます。」


 「宛城までは、それほど危険な場所などはありませんが、それでも、お気をつけて。」


 こうして、王脩は遊学のために南陽郡の郡治である宛城に向かったのである。

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