あとがき
正直、俺は最近の教育も嫌いだ。
叱らない教育。
褒めて伸ばす。
怒鳴るな。
体罰は絶対悪。
そういう綺麗な言葉ばかり並べた教育論を見ると、正直かなり違和感がある。
現実はそんな綺麗じゃない。
人間は理不尽だし、暴力的だし、弱い。
学校だってそうだ。
社会だってそうだ。
結局、綺麗事だけでは回らない。
だから最近の、
「優しくしてれば全部解決します」
みたいな空気は、俺は嫌いだ。
◇
だが同時に。
昔ながらの、
「男は耐えろ」
「長男だから我慢しろ」
「殴られて覚えろ」
みたいな教育も、俺は肯定出来ない。
何故か?
俺自身が、それで壊れたからだ。
◇
もちろん。
俺の家庭環境や学校環境が、どこまで特殊だったのかは分からない。
昔はこんなものだったのかもしれない。
実際、
「自分も殴られて育った」
みたいな人間はかなりいる。
だから親も教師も、
「普通」
だと思っていた可能性は高い。
そこに悪意は無かったのかもしれない。
◇
だが。
結果として俺は壊れた。
◇
不眠。
フラッシュバック。
暴力衝動。
人間不信。
慢性的な怒り。
安心出来ない感覚。
全部残った。
◇
しかも厄介なのは。
俺自身、暴力への抵抗がかなり薄くなっている事だ。
普通の人間なら、
「そこまでやらない」
所まで頭が飛ぶ。
口論。
挑発。
理不尽。
そういう物があると、一瞬で
「殴る」
「投げる」
「制圧する」
まで進む。
普通じゃない。
自分でも分かっている。
◇
だが、そういう人間になった。
長年、暴力と理不尽の中へ放り込まれ続けた結果だ。
◇
特にキツかったのは、
「逃げ場が無かった事」
だと思う。
◇
学校でやられる。
家へ帰る。
だが家も安全地帯じゃない。
長男だから。
男だから。
耐えろ。
守れ。
我慢しろ。
そういう空気だった。
◇
だから常に戦闘状態みたいになっていた。
ずっと気を張る。
ずっと耐える。
ずっと怒りを飲み込む。
そして限界が来る。
◇
多分、人間って。
外で傷付いても、
「帰れば安全」
があると、まだ耐えられるんだと思う。
だが俺には、それが無かった。
◇
しかも厄介なのは。
周囲の大人達に悪意の自覚が薄い事だ。
◇
本気で、
「厳しく育てた」
「男らしくした」
「根性を付けた」
くらいに思っている。
だから謝罪も無い。
多分、今後も無い。
◇
そして俺自身も、かなり歪んだ。
被害者であり、加害者側でもある。
喧嘩もした。
人も投げた。
怒鳴った。
危ない事もかなりやった。
しかも当時は、
「そこまで悪い事」
とも思っていなかった。
◇
何故か?
暴力が近過ぎたからだ。
◇
教師も暴力。
学校も暴力。
強い奴が偉い。
やり返せば止まる。
そんな世界だった。
だから脳が、
「暴力は特別な物じゃない」
と覚えてしまった。
◇
その結果。
俺は普通になれなかった。
◇
結婚したい。
子供欲しい。
普通の家庭も、本当は欲しい。
だが同時に怖い。
俺みたいな人間が親になっていいのか分からない。
また同じ事を繰り返すんじゃないか。
そう思う。
◇
だから俺が言いたいのは、
「甘やかせ」
ではない。
◇
人間社会に厳しさは必要だと思う。
我慢も必要だ。
怒られる経験も必要だと思う。
だが。
逃げ場まで奪うな。
◇
子供を、
暴力と理不尽の中へ閉じ込めるな。
長男だから。
男だから。
兄だから。
そういう理由で、
「耐えて当然」
にするな。
◇
耐えられる奴もいる。
それで強くなる奴もいる。
だが壊れる奴もいる。
そして一度壊れると、簡単には戻らない。
◇
俺みたいにな。
◇
今でも俺は、普通じゃない。
不眠もある。
怒りも消えていない。
フラッシュバックも来る。
暴力衝動も残っている。
いつ全部どうでも良くなるか、自分でも分からない。
◇
もしかしたら。
明日、暴れて捕まるのかもしれない。
全部面倒になって死ぬのかもしれない。
逆に普通に生きてるのかもしれない。
正直、俺自身にも分からない。
◇
だが少なくとも。
子供を壊すような環境だけは、
「昔は普通だった」
で流すべきじゃないと思う。
◇
モンスターは、最初からモンスターじゃない。
普通の子供だった物が、
壊れて変わっていく。
ただ、それだけだ。
◇
そして壊れた人間は。
いつ誰へ牙を剥くか、自分でも分からなくなる。




