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男の俺が出産することになった件〜ポリコレ改革で婚約させられた相手が筋肉姫でした〜

作者:
掲載日:2026/05/01

 「こちらが姫です。わが国一番の可憐な花です」

 大臣から紹介されたのは、惚れ惚れするような小麦色の肌。

 短髪で筋骨隆々、口の周りに密生する髭。

 可愛らしいフリルのドレスを身につけているが、出るところはどこも出ていない。


 「え?」

 俺は呆気にとられた。いや、見惚れた。そのはちきれんばかりの胸筋に。

 俺の疑問符に対し、大臣は当たり前のように言い放つ。

 「彼女は姫ですが、生物学上は男性です」


 頭がおかしいのだろうか、この大臣。いや俺か、俺がおかしいのか?

 「いや、あの、彼女? ……と、どうしろと?」


 大臣はじろりと俺を睨む。

 「婚約に決まっているでしょう」

 「は?」

 「一年間の婚約期間の後、結婚。世継ぎを産んでもらいます」

 いや、俺、男だってば……不実告知で無効だよね? クーリングオフしてもいいよね?


 大臣はコホンと咳払いした。

 「あなたもご存知でしょう? ポリコレ。我が国でも真剣に取り組むことにしたんです。先進国たるもの、手本を見せなくてはいけませんからな」


 俺はすがるように姫? を見た。頼むからこいつを止めてくれ。

 姫はペコリとお辞儀して一言。とても低い声で。

 「女性にだけ子供を産ますのは、差別だと思いませんか?」

 「いや、真っ向から神に歯向かわないでくださいよ……」

 「……ですよねー。私もこのことにつきましては、差別だとは思……コホン。しがらみが大変なんです。察して下さい」


 聞く耳を……持たないのか? いや、持てないのか?

 「……ちなみに拒否権は、建前上はあります。使った者はいませんけどね♪」

 姫は俺にウィンクした。なんだろう、ゾクゾクした。風邪かな?


 大臣は誇らしげに胸を張った。

 「はっきり言いましょう。男性が子供を産めないのは差別です。そこで、我が国では、男性にも子供を産んでもらうよう法律を制定しました」


 そして、大臣はどこかドヤ顔である。ナンカムカツク。

 「ペアレンツ・トランスフォーム・アクション。略してPTA!」

 「一千万歩下がって、法制定は分かりました。でもどうやって男同士で子供を産むんですか?」


 大臣はずいと顔を寄せた。近いよ、おっさん。

 「あなたが産むんです」

 「は?」

 「あ・な・たが産むんです!」

 俺は自覚した。キョドっていると。


 「……あの、思ったんですけど、それだと姫いらなくない?」

 その言葉に姫はそのうっとりとした目を大きく見開く。そして、おもむろに取り出したハンカチを――ビーフジャーキーのように噛みちぎった。え、もしかして乗り気だったの?


 大臣は大臣で、アンガー大魔神のような顔でカっと目を見開いた。

 怖いよ、おっさん。変なビーム出しそうだし。

 「ポリコレの精神を叩き込む必要がありますな」


 大臣の有無を言わせない波状攻撃。俺は最後の抵抗を試みた。

 「物理的に無理でしょう?」

 「無理ではありませんよ。姫と手をつないで寝室でキャッキャウフフして下さい」


 姫が心なしか顔を赤らめている。「職務ですので……」とか寝言言いながら。

 この人、十円玉を人差し指と親指だけでペキってできそうなんだけど。


 ……もうなんだかろくでもない予感しかしない。

 「それで?」

 「ポリコレに配慮してくださった、書かざる(を得ない)手さまがあなたを身ごもらせますから」

 いやまて、ちょっと待て、ご都合主義通り越して反則だろそれ、誰得だよまじやめてくれ、いや、やめてください。


 俺の貞操――誰か守ってください。

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