男の俺が出産することになった件〜ポリコレ改革で婚約させられた相手が筋肉姫でした〜
「こちらが姫です。わが国一番の可憐な花です」
大臣から紹介されたのは、惚れ惚れするような小麦色の肌。
短髪で筋骨隆々、口の周りに密生する髭。
可愛らしいフリルのドレスを身につけているが、出るところはどこも出ていない。
「え?」
俺は呆気にとられた。いや、見惚れた。そのはちきれんばかりの胸筋に。
俺の疑問符に対し、大臣は当たり前のように言い放つ。
「彼女は姫ですが、生物学上は男性です」
頭がおかしいのだろうか、この大臣。いや俺か、俺がおかしいのか?
「いや、あの、彼女? ……と、どうしろと?」
大臣はじろりと俺を睨む。
「婚約に決まっているでしょう」
「は?」
「一年間の婚約期間の後、結婚。世継ぎを産んでもらいます」
いや、俺、男だってば……不実告知で無効だよね? クーリングオフしてもいいよね?
大臣はコホンと咳払いした。
「あなたもご存知でしょう? ポリコレ。我が国でも真剣に取り組むことにしたんです。先進国たるもの、手本を見せなくてはいけませんからな」
俺はすがるように姫? を見た。頼むからこいつを止めてくれ。
姫はペコリとお辞儀して一言。とても低い声で。
「女性にだけ子供を産ますのは、差別だと思いませんか?」
「いや、真っ向から神に歯向かわないでくださいよ……」
「……ですよねー。私もこのことにつきましては、差別だとは思……コホン。しがらみが大変なんです。察して下さい」
聞く耳を……持たないのか? いや、持てないのか?
「……ちなみに拒否権は、建前上はあります。使った者はいませんけどね♪」
姫は俺にウィンクした。なんだろう、ゾクゾクした。風邪かな?
大臣は誇らしげに胸を張った。
「はっきり言いましょう。男性が子供を産めないのは差別です。そこで、我が国では、男性にも子供を産んでもらうよう法律を制定しました」
そして、大臣はどこかドヤ顔である。ナンカムカツク。
「ペアレンツ・トランスフォーム・アクション。略してPTA!」
「一千万歩下がって、法制定は分かりました。でもどうやって男同士で子供を産むんですか?」
大臣はずいと顔を寄せた。近いよ、おっさん。
「あなたが産むんです」
「は?」
「あ・な・たが産むんです!」
俺は自覚した。キョドっていると。
「……あの、思ったんですけど、それだと姫いらなくない?」
その言葉に姫はそのうっとりとした目を大きく見開く。そして、おもむろに取り出したハンカチを――ビーフジャーキーのように噛みちぎった。え、もしかして乗り気だったの?
大臣は大臣で、アンガー大魔神のような顔でカっと目を見開いた。
怖いよ、おっさん。変なビーム出しそうだし。
「ポリコレの精神を叩き込む必要がありますな」
大臣の有無を言わせない波状攻撃。俺は最後の抵抗を試みた。
「物理的に無理でしょう?」
「無理ではありませんよ。姫と手をつないで寝室でキャッキャウフフして下さい」
姫が心なしか顔を赤らめている。「職務ですので……」とか寝言言いながら。
この人、十円玉を人差し指と親指だけでペキってできそうなんだけど。
……もうなんだかろくでもない予感しかしない。
「それで?」
「ポリコレに配慮してくださった、書かざる(を得ない)手さまがあなたを身ごもらせますから」
いやまて、ちょっと待て、ご都合主義通り越して反則だろそれ、誰得だよまじやめてくれ、いや、やめてください。
俺の貞操――誰か守ってください。




