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八話:外からの侵入者2




ベルリオーズはマリス・スフィアの言葉を聞いていなかった。彼女の耳に届くのは、オルレアの声だけだった。

 フェアな戦いも、儀式の試練も、ベルリオーズにとってはどうでもよかった。彼の心を突き動かすのは、オルレアを救うための一途な愛だけだ。


「フェア? 試練? そんなもの知らないな! オルレアを取り戻すためなら、何だってする! 過程なんて気にする必要はない!! 結果だけ残れば良い!!」


 ベルリオーズの叫びが祭壇に響き、彼はエネルギーシールドを展開して、強化された腕で黒い影を殴り飛ばし、エネルギーレーザービームを連射しながらマリス・スフィアに肉迫した。


 千切った指が爆発して祭壇の周囲を炎に包む。ベルリオーズの攻撃は必死で、フェアさとは程遠い乱暴な猛攻だった。


 マリス・スフィアはベルリオーズの無秩序な攻撃を見下ろし、僅かに眉をひそめた。


「人の話を聞いていないね、ベルリオーズ。君のその感情的な足掻きは、試練に値しないよ。しかし……その執念は、フェアな戦いを引き出す価値があるのも確か」


 彼が指を鳴らすと、「魔力」の力が膨張し、光と闇の奔流がベルリオーズを押し返した。だが、ベルリオーズは歯を食いしばり、限界を超えて再び突進した。

 その愛のエネルギー砲撃は、マリス・スフィアに大きなダメージを与えた。全身から蒸気を上げながら、マリス・スフィアは笑う。


「面白い。貴方の愛は、フェアさを超えた力を持つとは。なら、私も本気で試そう」


 彼が両手を広げると、「魔力」が完全な形を取り始めた。それは無数の色が混ざり合う奔流となり、祭壇全体を包み込んだ。


 儀式が頂点に達する。

 マリス・スフィアはベルリオーズに宣言した。


「フェアな戦いをここで始めましょう。貴方が私を倒せば、オルレアの力を返す。だが、私が勝てば、君の全てを『魔力』に捧げて、凌辱する」


 ベルリオーズは息を荒げながら、銃を握り直した。マリス・スフィアの固執するフェアな試練など、彼女には関係なかった。


 オルレアを取り戻すためなら、どんな手段でも構わない——その一心が、ベルリオーズを突き動かしているのだから。


「魔力、始動」


 その場は魔力の力に支配されていた。光と闇が混ざり合う奔流が空間を満たし、マリス・スフィアはその中心で冷徹な王のように君臨していた。


 彼が呼び出した「魔力」の性質は、魔力汚染——ダメージを無傷に変え、攻撃の威力を無効化する力だった。


マリス・スフィアの周囲に不可侵の領域を作り出していた。


 ベルリオーズはエネルギー収束率を高めた光の剣と、連射性能を高めたスナイパーライフルからのエネルギーレーザービームが連続で火を噴く。


 その全てが魔力に触れた瞬間、魔力汚染した。銃弾は空気を切り裂く力を失い、爆発は静かに消え、ベルリオーズの拳さえも柔らかな風に変わってしまった。


 マリス・スフィアは冷たく笑い、ベルリオーズを見下ろした。


「無駄かな、ベルリオーズ。魔力は全てを汚染させる。君の攻撃は私に届かない。君に勝ち目がない」


 ベルリオーズの愚直な火力。

 ベルリオーズは歯を食いしばり、愛のエネルギー出力をさらに引き上げた。全身がが悲鳴を上げ、精神が限界を超えて火力を増強する。


 彼の戦法は愚直だった。

 自爆と再生。そして自爆。

 魔力汚染を打破するために、純粋な火力を高め続けること。


「魔力汚染するなら、魔力汚染をリセットして、高火力のエネルギーをぶつけてぶつけて倒す!」


 ベルリオーズの叫びと共に、銃弾の連射が祭壇を埋め尽くした。千切った指が連続して炸裂し、祭壇の石壁が砕け散るほどの衝撃を生み出した。


 彼の攻撃は理屈を超え、ただひたすらにマリス・スフィアを圧倒しようとする執念だった。だが、「魔力」はその全てを魔力汚染させた。爆発の炎は冷たい霧に変わり、エネルギーは無力な光となって地面に落ちた。


 マリス・スフィアは手を軽く振るだけで、ベルリオーズの努力を嘲笑うように無効化した。


「分からないというのは悲しいね、ベルリオーズ。君は何も出来ない。何も守ることは出来ない。なのに何故戦うのです?」


 彼の声は冷たく、ベルリオーズの心を切り裂く刃のようだった。祭壇の魔法陣が輝きを増す。


 ベルリオーズは息を荒げながら、マリス・スフィアに叫び返した。


「勝てるから戦うんじゃない。勝たなきゃいけないから、戦うんだよ!」


 その言葉は、オルレアへの愛から生まれたものだった。オルレアの目が見えず、体が動かない姿が脳裏に焼き付き、ベルリオーズに戦う理由を与えていた。


 彼は最後の力を振り絞り、マリス・スフィアに肉迫した。銃を捨て、素手で魔力の奔流を突き破ろうと拳を振り上げた。


 マリス・スフィアの瞳が一瞬驚きに揺れた。だが、すぐに冷徹な笑みに戻り、彼は魔力の力を集中させた。


「愚かだね。だけど責めるまい、ベルリオーズ」


 その瞬間、魔力がベルリオーズの体を包み込んだ。彼の拳が届く前に、マリス・スフィアの手がベルリオーズの胸に伸びた。冷たい指がスーツを貫き、心臓を掴んだ。


「終わりだ」


 マリス・スフィアの声と共に、ベルリオーズの胸に穴が開いた。血が祭壇に飛び散り、彼の体が膝をついた。エネルギーが機能を停止した。

 ベルリオーズは血を吐きながら、祭壇の床に倒れ込んだ。視界がぼやけ、オルレアの顔が浮かんだ。

 マリス・スフィアはベルリオーズを見下ろし、冷たく呟いた。


「君の愛は立派だったよ。でも、それだけでは秩序を作る者にはなれない」


 魔力が完全に顕現し、祭壇全体が光に包まれ、ベルリオーズの意識は闇に沈んでいった。


 そこは魔力の奔流に支配されていた。 


 マリス・スフィアは冷徹な王のごとく立ち、魔法陣に血を滴らせていた。上位存在ともいうべき魔力は、自由意志を尊重する性質を持っていた。


 マリス・スフィアは自らの意志で秩序を作る者となる力を求め、魔力を掌握しようとした。そして、彼女の執念に応え、魔力はその力を与えていた。


「…………まだ、だ」


 ベルリオーズの自由意志に、魔力が感応した。

 『オルレアを救いたい』という純粋な願いが、彼の魂を震わせた。


 魔力は、自由意志を尊重する。

 それはマリス・スフィアだけでなく、ベルリオーズの意志にも反応した。


 尊き血によって呼び出された魔力という上位存在は、自由意志を尊重する性質を持っているのだから、願いがあれば感応するのは道理であった。


 マリス・スフィアが力を求めたように、ベルリオーズが全身全霊でオルレアを救う力を求めた瞬間、魔力は必然的に彼にも力を与えた。


 ベルリオーズの胸の穴が塞がり、血が体に戻った。停止していた心臓が再び鼓動を刻み、エネルギーシールドが再起動した。魔力の奔流が彼女を包み込み、彼の体は祭壇の中心で立ち上がった。


 魂が共鳴し、ベルリオーズの意志が魔力を動かしていた。


「オルレアを救う……初志貫徹だ」


 ベルリオーズの声が祭壇に響き、魔力の光が彼女を中心に渦巻いた。マリス・スフィアが驚愕の表情を浮かべた。


「そ、そんなことが……? 『魔力』が君にも力を与えるだと? そんなはずは……!」


 彼女が制御を試みたが、魔力はベルリオーズの意志を尊重し、マリス・スフィアの命令を無視した。


 ベルリオーズは両手を広げ、魔力の力を引き出した。それはマリス・スフィアに与えたのと同じ力が、ベルリオーズにも与えられた必然の結果だった。


 彼の瞳にはオルレアへの愛が燃えていた。


「全ての不幸を背負って、無限に詫び続けろ」


 ベルリオーズの叫びと共に、光の奔流が祭壇を貫いた。「魔力」が彼女の意志に呼応し、純粋な破壊力となってマリス・スフィアを襲った。


「この俺と共に!! 最大質量の大自爆だッ!!」


 マリス・スフィアは最後の抵抗を試みる。「魔力」を魔力汚染させ、攻撃を無効化しようとしたが、ベルリオーズの意志がそれを上回った。


「凄いな、こんな筈は……予想外だ。ふざけてる」


 彼の言葉は途中で途切れ、光に飲み込まれた。マリス・スフィアの体は「魔力」に溶け込み、消し飛んだ。


 ベルリオーズの意志が「魔力」を動かし、マリス・スフィアを討ち滅ぼしたのだ。


 祭壇が静寂に包まれた。ベルリオーズは息を整え、「魔力」の残響が消えていくのを感じた。


 彼の体に宿った力は、オルレアの奪われた視覚と運動機能を取り戻した感覚を知覚していた。


 魔力はベルリオーズの意志を尊重し、彼女の願いを叶えたのだ。


「オルレア……すぐに戻る」


 ベルリオーズは祭壇を後にし、オルレアの待つ病室へと向かった。マリス・スフィアは滅び、「魔力」はその役目を終え消滅する。


 ベルリオーズの愛と自由意志が、必然の勝利を導いた瞬間だった。

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