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四話:戦況確認



 病室に響く微かな機械音の中で、ベルリオーズは重い瞼をゆっくりと開けた。


 視界がぼやけ、頭に鈍い痛みが走る。体を動かそうとした瞬間、全身を貫く鋭い痛みに顔をしかめ、思わず息を詰まらせた。


「動かないでください、まだ安静が必要です」


 穏やかだが落ち着いた声が耳に届き、ベルリオーズは視線をそちらへ向けた。ベッドの横に立つのは看護師のマグノリアだった。


 彼女の手にはカルテが握られ、疲労の色が濃い目元がベルリオーズの状態を心配そうに見つめている。


「マグノリア……ここは……?」


 ベルリオーズの声は掠れていたが、意識がはっきりするにつれ、周囲の状況を把握しようと頭を働かせ始めた。


「ハーモニクス天使学園の医療施設です。あなたはグローバルコーテックス平和条約締結式典での襲撃で重傷を負いました。よく生きて戻ってこられましたね」


 マグノリアの言葉には安堵が滲んでいたが、その背後には言い尽くせない緊迫感が隠されていた。


 ベルリオーズは目を閉じ、記憶を掘り起こした。式典の華やかな光景が一瞬にして崩れ去り、テロリストの襲撃が始まった瞬間。爆発と銃声の中、オルレアが倒れる姿。


 そして、彼女を庇うために自ら敵の前に立ちはだかった自分自身の姿が、断片的に脳裏に蘇る。


「オルレアは……?」


 ベルリオーズの問いに、マグノリアは一瞬口をつぐんだ後、静かに答えた。


「彼女もここにいます。昏睡状態ですが、命は取り留めました。あなたが助けたおかげです」


 マグノリアはカルテを閉じ、ベルリオーズに状況を説明し始めた。


「グローバルコーテックス平和条約式典を襲ったテロリスト勢力は、こちらの予想以上の規模でした。ハーモニクス天使学園とダイナミクス地獄学園は壊滅的な打撃を受けましたが、彼らは一時的に撤退。救助活動が行われた間に、驚くべきことが起きました」


 ベルリオーズは眉を寄せ、続きを待った。


「あなたがオルレアを助けた事実がハーモニクス天使学園側に伝わり、それがきっかけで両校の間に一時的な共同戦線が設立されたんです。グローバルコーテックス平和条約の締結どころか、今は『グローバルコーテックス同盟』とでも呼ぶべき状況ですよ」


 ベルリオーズは言葉を失った。ハーモニクス天使学園とダイナミクス地獄学園——長年の確執を抱える両者が手を組むなど、想像もしていなかった展開だ。だが、オルレアを救うために動いた自分の行動が、こんな結果を生んだのだと知り、胸に複雑な感情が広がった。


「皮肉だな」


 ベルリオーズは小さく呟き、苦笑を浮かべた。マグノリアはそんな彼女を静かに見つめ、こう付け加えた。


「皮肉でも何でも、あなたが動かなければオルレアはここにいなかった。それだけは確かです」


 窓の外では、風が穏やかに木々を揺らしていた。戦いの爪痕が残る世界で、グローバルコーテックス同盟という新たな希望が、細い糸のように繋がり始めていた。


 ベルリオーズはベッドの上で体を起こそうとしたが、傷の痛みに耐えきれず、再び枕に凭れた。


 マグノリアが去った後、病室に残された静寂の中で、彼女の頭は冷徹に動き始めていた。


 テロリストへの報復——あの襲撃を引き起こした者たちをこの手で叩き潰す方法を考えずにはいられなかった。


「奴らは必ず戻ってくる……その前にこちらから仕掛けるべきだ」


 頭の中で戦略が組み立てられていく。ダイナミクス地獄学園の戦力を再編し、グローバルコーテックス同盟を活用して敵の拠点を特定、殲滅する。だが、今の彼女には動く力がない。苛立ちと焦燥が胸を締め付けた。


 それでも、ベルリオーズの心を最も強く引っ張っていたのは、オルレアの存在だった。


 彼女が無事かどうか、自分の目で確かめなければ気が済まない。マグノリアの言葉を信じつつも、オルレアの顔を見なければ、この胸のざわめきは収まらないだろう。


 ベルリオーズは意を決し、痛む体を無理やり動かした。看護師に見つからないよう、静かにベッドを抜け出し、壁に手を突きながら廊下を進んだ。


 足取りは重く、汗が額を伝ったが、オルレアの病室へと向かう意志は揺るがなかった。


 オルレアの病室の扉を開けた瞬間、ベルリオーズの息が止まった。そこには、静かに眠るオルレアの姿があった。包帯に覆われた体、微かに上下する胸。生きている——その事実に、ベルリオーズの心は一瞬安堵に包まれた。だが、すぐにその安堵は別の感情に塗り潰された。


「こんな目に遭わせた奴らを……絶対に許さない」


 ベルリオーズの声は低く、抑えきれぬ怒りが滲んでいた。彼女はオルレアのベッド脇に近づき、そっと椅子に腰を下ろした。


 昏睡状態のオルレアは反応を示さないが、その穏やかな寝顔に、ベルリオーズは一瞬だけ目を細めた。


「お前をこんな目に遭わせたのは、俺の責任でもある。だから……俺が必ず終わらせる」


 それはオルレアへの誓いであり、自分自身への命令でもあった。窓の外では、夕陽が赤く空を染めていた。


 ベルリオーズの瞳には、報復の炎が静かに燃え上がりつつあった。テロリストを追い詰める計画が具体性を帯びていく中、彼女はオルレアの手を握り、こう呟いた。


「目を覚ましたら、一緒に戦ってくれ……オルレア」


 病室に響くのは、オルレアの微かな呼吸音だけだった。だが、その音がベルリオーズに力を与えていた。グローバルコーテックス同盟の未来と、テロリストへの報復——その全てが、この小さな病室から始まろうとしていた。


 グローバルコーテックス同盟は、元々「グローバルコーテックス」としてハーモニクス天使学園とダイナミクス地獄学園が結ぼうとしていた協定が、式典でのテロリスト襲撃をきっかけに急遽再編された形で誕生した。


 条約の目的であった「両校間の和平と協力」は、襲撃による危機的状況を経て、より実践的かつ緊急性の高い「共同戦線」へと進化した。


 この同盟は、テロリスト勢力への対抗を最優先としつつ、両校の存続と隔離都市全体の安定を目指している。


 グローバルコーテックス式典でのテロリスト襲撃は、ハーモニクス天使学園とダイナミクス地獄学園双方に壊滅的な被害をもたらした。


 多くの生徒が負傷し、施設は壊滅、両校の指導層は混乱に陥った。しかし、ベルリオーズが桐藤オルレアを命がけで救った出来事が、ハーモニクス天使学園側に強い印象を与えた。


 この行為が「敵対を超えた絆」の象徴となり、両校の間で一時的な休戦と協力の機運が高まった。


 襲撃後、テロリスト勢力が一時撤退した隙に救助活動が展開され、その過程で両校の生徒たちが互いに助け合う姿が目撃された。


 これが、グローバルコーテックス同盟設立の精神的土壌となった。グローバルコーテックス同盟は、ハーモニクス天使学園とダイナミクス地獄学園の代表者による「臨時合同司令部」を中心に運営されている。

主要なメンバーは以下の通り。


【ベルリオーズ】

 ダイナミクス地獄学園・秩序の守護者。

 同盟の事実上のリーダー格。重傷を負いながらも復讐心と責任感から指揮を執る。ダイナミクス地獄学園の戦闘力を統括し、テロリストへの攻撃計画を主導。


【オルレア】


 ハーモニクス天使学園・ティーパーティー

 昏睡状態にあるが、彼女を救ったベルリオーズの行動が同盟成立のきっかけとなったため、象徴的存在。回復後は重要な意思決定に関与する可能性が高い。


【メーテルリンク】

(ハーモニクス天使学園・武力担当)

 ハーモニクス天使学園側の代表として参加。実践的な戦闘力と正義感を持ち、ベルリオーズと協力して前線を支える。その他

両校から選抜された生徒たちが、戦闘、情報収集、後方支援の役割を分担。目的と活動テロリスト勢力の殲滅


 式典を襲った正体不明のテロリスト集団を追跡・壊滅させることが最優先課題。情報収集班が敵の拠点を特定し、ベルリオーズ主導の攻撃部隊が報復を計画中。


 【両校の再建】

 壊滅した施設や組織の復旧を進め、隔離都市内での影響力を維持。ハーモニクス天使学園の技術力とダイナミクス地獄学園の武力を組み合わせた効率的な再建が期待されている。


 【長期的な和平の模索】

 当初のグローバルコーテックスが目指した和平は棚上げ状態だが、同盟を通じて築かれた信頼関係が、将来的な和解の礎となる可能性がある。


 【現状と課題】

グローバルコーテックス同盟は設立間もないため、内部の統制は不安定だ。ハーモニクス天使学園とダイナミクス地獄学園の生徒間には依然として不信感が残り、些細な衝突も発生している。特に、ベルリオーズの強硬な報復姿勢に対し、ハーモニクス天使学園の一部生徒が「和平優先」を主張し、意見が対立している。また、テロリスト勢力の全貌が未だ不明であり、敵の次の動きを予測することが難しい状況だ。



【テロリストの目的】

グローバルコーテックス式典を襲撃したテロリスト勢力の主な目的は、ハーモニクス天使学園とダイナミクス地獄学園の間に結ぼれようとしていた「グローバルコーテックス」を破壊し、両校の和平プロセスを妨害することだと考えられる。


 この条約は、隔離都市全体の安定と協力を目指すものであり、テロリストにとっては既存の権力構造や学園間の均衡を維持する障壁となる存在。彼らの行動は、混乱と分裂を意図的に引き起こし、自らの影響力を拡大する、あるいは別の勢力の意図を代行する形で実行された可能性が高い。


 具体的には、オルレアやベルリオーズのような主要人物を標的にした攻撃から、彼らが指導層の排除を通じて両校の統治能力を弱体化させようとした意図が伺える。


 また、単なる破壊を超えて、隔離都市の学園社会に恐怖を植え付け、同盟や協力関係の構築を阻止する心理的効果を狙ったとも解釈できた。


 このテロ行為が一過性のものではなく、後の報復や再襲撃を予期させる撤退パターンから、長期的かつ計画的な策略の一部である可能性も示唆される。



【テロリストの規模】

テロリスト勢力の規模は、式典を壊滅させるほどの戦闘能力を持つ大規模な集団であることが確認できる。ハーモニクス天使学園とダイナミクス地獄学園の双方に「壊滅的な打撃」を与えたことから、数百人数千人規模の武装勢力、あるいは高度な兵器と訓練を受けた精鋭部隊で構成されていると推測される。彼らは単なる無法者集団ではなく、組織的な指揮系統と補給線を持つことが、襲撃の精度と撤退の迅速さから見て取れた。


 戦力としては、銃器や爆発物を用いただけでなく、式典会場を瞬時に制圧するほどの機動力と連携能力を備えていました。さらに、両校の生徒たちの抵抗にもかかわらず、一定の成果を上げて撤退に成功したことから、戦術的な訓練を受けた兵士や傭兵クラスの戦闘員が含まれていた可能性がある。


 規模の具体的な人数は明示できないが、少なくとも数十人から百人を超える集団で、支援部隊や後方拠点を持つネットワーク型組織であると想像できる。


【テロリストの拠点】

テロリストの拠点については、状況から推測する形になる。襲撃後、彼らが「一時的に撤退」したことから、隔離都市近郊のどこかに隠れ家や補給基地を有している可能性が高い。


 隔離都市の広大な学園都市の外縁部、たとえばサイレントラインのような荒廃した地域や、監視の薄い地下施設、放棄された学園区画などが候補として考えられる。特に、サイレントラインは過去に異端審問騎士団が暗躍した場所として知られており、テロリストがその既存のインフラや隠し施設を利用している可能性がある。また、撤退の迅速さを考えると、移動手段としてヘリコプターや高速車両を保有し、拠点へのアクセスが容易な場所に根を張っていると推測できる。


 彼らの拠点は単一ではなく、複数の隠れ家や移動式基地からなるネットワークである可能性もあり、追跡を困難にするための分散戦略を取っているかもしれない。



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