三話:自爆
崩壊した街の果てにたどり着いた時、ベルリオーズの足は限界を超えていた。
燃え滾る地面を走り抜け、火傷でボロボロになった脚は血と煤にまみれ、立っているだけでも激痛が走る。
それでも、ベルリオーズは背中のオルレアをしっかりと抱え、簡易医療施設の入り口まで辿り着いた。
そこには、ハーモニクス天使学園とダイナミクス地獄学園の生き残りの生徒たちが慌ただしく動き回り、負傷者を手当てしていた。
「誰か! こっち!」
ベルリオーズは叫び、声を張り上げた。医療用の白衣を着た生徒が駆け寄ってくる。彼女は私の姿を見て一瞬目を丸くしたが、すぐにオルレアの状態を確認する。
「重傷だ……急いで治療室へ!」
彼女の声に急かされ、ベルリオーズはオルレアをそっと地面に下ろし、医療生徒に預けた。
オルレアの血に染まった手がベルリオーズの腕から離れる瞬間、心が締め付けられるようだった。
「私が預けたんだから、絶対に助けて」「最善を尽くします」
ベルリオーズの声は低く、命令に近い響きを帯びていた。医療生徒は頷き、オルレアを担架に乗せて施設の中へ運び込んでいく。
ベルリオーズはその背中を見送り、ほんの一瞬だけ安堵が胸をよぎった。だが、その安堵はすぐに砕け散った。
鋭い金属音と共に、空を切り裂くような軌跡が視界に飛び込んできた。ロットランチャーの弾頭だ。簡易病院を直撃するコースで飛来し、
煙と火花を引いている。
ベルリオーズは一瞬も迷わず動いた。愛銃の「破壊の宣告」を抜き、跳躍しながら銃口を構える。
(オルレアがいる場所を……壊させない!)
引き金を引き、正確無比な一発がロケット弾に命中。空中で爆発が起き、衝撃波がベルリオーズの髪を乱暴に揺らし、熱風が顔を炙った。
着地と同時に、私は周囲を見渡す。煙の向こうから、新たなテロリスト部隊が押し寄せてくるのが見えた。
テロリスト残党か、あるいは別の勢力か。いずれにせよ、彼らは簡易病院を完全に潰すつもりだった。武装した数十人の兵士が、銃を手に叫びながら迫ってくる。
「あの女を仕留めろ! 病院ごと吹き飛ばせ!」
リーダーの声が響き、銃撃が始まった。ベルリオーズは瓦礫の陰に身を隠し、深く息を吸う。
(面倒…本当に面倒。でも、ここで俺がやらなきゃ、オルレアも、他のみんなも死ぬ)
責任感がベルリオーズの心を再び締め上げる。秩序の守護者として、オルレアを守る者として、ベルリオーズはこの場を譲るわけにはいかなかった。
痛む足を無理やり動かし、ベルリオーズは戦闘態勢に入る。テロリストの一人が機関銃を乱射しながら近づいてくる。ベルリオーズは瓦礫から飛び出し、弾丸の雨を避けながら一気に距離を詰める。
「破壊の宣告」が火を噴き、敵の頭を撃ち抜く。血飛沫が飛び、兵士が倒れると同時に、ベルリオーズは次の標的へ。
ベルリオーズの機動力は彼らを圧倒し、動きを止めることなく次々と敵を仕留めていく。
「増援を呼べ!」
テロリストの一人が叫ぶが、ベルリオーズはそれを許さない。跳び上がり、空中で銃を両手で構え、連続射撃。
二人、三人と敵が倒れ、地面に血だまりが広がる。着地と同時に、私は近くの兵士に突進し、銃床で顎を砕く。彼が悲鳴を上げる間もなく、銃弾でトドメを刺した。だが、敵の数は減らない。遠くから新たなロケットランチャーが構えられるのが見えた。
ベルリオーズは歯を食いしばり、足の痛みを無視して走る。
(病院に近づけさせない………俺が守るんだ!)
ロケットが発射される瞬間、ベルリオーズは再び跳躍し、空中で迎撃射撃。爆発が起き、破片が私の腕をかすめて血を引くが、私は止まらない。
テロリスト部隊が病院に迫る中、ベルリオーズは一人で立ちはだかる。炎と煙の中で、ベルリオーズの銀髪が風に揺れ、紫の瞳が冷たく光る。
(俺がやらなきゃいけない。オルレアを……みんなを守るのが、俺の責任だ。見捨ててしまった、犠牲になった者たちに報いる為に)
銃を握り直し、ベルリオーズは押し寄せる敵に立ち向かう。足は限界を超え、身体は傷だらけだったが、ベルリオーズの心は折れなかった。
簡易病院を守るため、オルレアを守るため、ベルリオーズは戦い続ける。簡易病院の前で、ベルリオーズは一人、押し寄せるテロリスト部隊と対峙していた。
炎と煙が視界を覆い、崩壊した街の残響が耳を聾する中、敵の銃声と爆発音が絶え間なく響く。
ベルリオーズは「破壊の宣告」を手に、病院を守る最後の盾として立ち続けていた。
オルレアがそこにいる。それだけで、ベルリオーズには止まる選択肢がなかった。最初の数分、敵の銃弾がベルリオーズの肩をかすめ、血が制服を染めた。
ベルリオーズは痛みを無視し、跳躍して射撃。機関銃を構えたテロリストの頭を撃ち抜き、その場に崩れ落ちさせる。
だが、次の瞬間、手榴弾がベルリオーズの足元で爆発。衝撃波がベルリオーズを吹き飛ばし、瓦礫に叩きつけられた。
耳鳴りが響き、全身が熱と痛みに焼かれる。ベルリオーズは歯を食いしばり、立ち上がる。
「多いな、奥の手。使うか」
戦闘開始から10分が経過。
敵の数は減らない。ロケットランチャーの弾頭が再び飛来し、ベルリオーズは迎撃を試みるが、間に合わず近くで爆発。
破片が私の腕と脚に突き刺さり、血が地面に滴る。私の銀髪は煤と血で黒ずみ、紫の瞳は煙で霞む。
それでも、ベルリオーズは走る。病院に近づく敵を仕留めるため、自らの腕を切り落として、敵のほうへ投げ飛ばす。
瞬間、ベルリオーズの腕が爆発した。敵が纏めて粉砕される。再生される腕の様子を確かめながら、次の的に目をやる。
(俺が止まったら、オルレアが死ぬ。俺が守らなきゃ……愛してるから)
戦闘開始から15分。ベルリオーズの身体は限界を超えていた。銃弾が左腕を貫き、骨に当た鈍い音が響く。痛みで視界が揺れ、膝が折れそうになる。だが、オルレアの笑顔が頭をよぎる。
庭園での穏やかな時間、彼女の優しい声。それを失う恐怖が、ベルリオーズの心を再び燃やした。
(オルレア……あなたのために、俺ら耐えられる)
ベルリオーズは叫び声を上げ、敵に突進。銃弾を浴びながらも、至近距離で敵の喉を撃ち抜く。
「自爆」
その敵を盾にして敵に突進して、自爆する。全身がバラバラになって、同時に破壊の嵐が巻き起こる。
傷ごと再生されたベルリオーズは、改めて別の敵に向けて駆ける。
戦闘開始から20分。
爆発がベルリオーズのすぐ横で起き、全身が熱風に炙られる。皮膚が焼け、服が焦げ、血が蒸発するような感覚が襲う。
私はよろめきながらも、病院の入り口を見据える。テロリストがロケットを構えるのが見えた瞬間、ベルリオーズは最後の力を振り絞って跳ぶ。
空中で銃を撃ち、ロケットを爆破。衝撃で再び地面に叩きつけられ、肋骨が軋む音がした。
(まだだ……まだ終わらない。私が守るんだ)
爆発が近くで起き、全身が熱風に炙られた時、自責の念が押し寄せる。身体が限界を超える。腹部をかすめた銃弾が内臓に響き、吐き気が襲う。
(ま、だだ。まだ)
絶望が心を覆う。だが、オルレアの微かな息遣いを思い出す。彼女が病院で治療を受けている姿を想像する。
(オルレア……お前が生きてるなら、俺には意味がある。愛してるから、俺は死ねない)
愛がベルリオーズを突き動かす。痛みも、恐怖も、オルレアへの想いが全てを上書きする。
「自爆ッ!!」
包囲された瞬間に爆発して、高重力エネルギーが凝縮され、敵を纏めて粉砕する。再生された身体で、再び戦闘意欲を猛々しく燃やした。
戦闘開始より25分。ベルリオーズの身体はボロボロだった。右脚は火傷と銃創で動かず、左腕は力が入らない。
敵の弾丸が腹部をかすめ、内臓に響く痛みが意識を奪いそうになる。肋骨が折れる音がして、息が詰まる。
(俺がここで死んだら、誰がオルレアを守る? 誰が病院を守る? 動け……動くんだ。今が頑張る時だ)
責任感と愛が交錯し、ベルリオーズ の心を二つに引き裂く。
(他の生徒を見捨てた罪も、俺が背負う。でも、オルレアだけは…絶対に守りたい)
涙が滲む。痛みか、罪悪感か、それとも愛か。自分にも分からない。それでも、ベルリオーズは立ち上がる。
病院の入り口に迫る敵を睨み、片手で銃を構える。
(オルレア…あなたが生きてるなら、俺にはこれでいい。愛してるから、止まらない)
ベルリオーズの声は出ず、心の中でだけ叫んでいた。
戦闘開始より30分が経過した時、敵の動きが変わった。私の周囲には、数百人のテロリストの死体が散乱していた。血と硝煙が漂う中、生き残ったリーダーが叫ぶ。
「撤退だ! この怪物は殺せない!」
ベルリオーズの姿を見て、彼らは恐怖に駆られていたのかもしれない。全身に銃弾と爆発の傷を負い、血まみれで立つベルリオーズは、もはや人間を超えた何かだったのだろう。
敵が後退し、遠くへ消えていく。ベルリオーズはその場に膝をつき、「破壊の宣告」を地面に落とした。
息が荒く、全身が震え、視界が暗くなる。だが、病院は無事だった。オルレアがいる場所は守られた。全身が血と傷にまみれ、呼吸すらままならない。
(やれた……オルレア、俺はやれたよ。お前を守れた)
オルレアが生きてるなら、それでいい。ベルリオーズの責任と愛は、彼女に全て捧げたのだ。
愛のために、ベルリオーズは30分間戦い抜いた。倒れそうになる身体を支え、私は病院の入り口を見つめる。
オルレアが助かるなら、この傷も、この痛みも、全て受け入れる覚悟があった。ベルリオーズは秩序の守護者として、そしてオルレアを愛する者として、最後まで責任を果たしたのだ。
敵が撤退し、静寂が崩壊した街に訪れた瞬間、ベルリオーズの身体は限界を超えていた。
簡易病院の前で、ベルリオーズは膝をつき、「破壊の宣告」が地面に落ちる乾いた音が響いた。
ベルリオーズの銀髪は血と煤で黒ずみ、かつての輝きは失われている。紫の瞳は煙と涙で霞み、焦点が定まらない。
全身が震え、意識が薄れそうになる中、ベルリオーズは病院の入り口を見つめた。オルレアがそこにいる。
それだけが、ベルリオーズを立たせていた。ベルリオーズの左腕は力なく垂れ下がり、銃弾が貫いた傷口から血が流れ続けている。骨が砕けたような鈍い痛みが脈打ち、指一本動かすこともできない。
右腕も爆発の破片で切り裂かれ、赤黒い傷が幾筋も走っている。血が袖を濡らし、地面に滴って小さな水たまりを作っていた。
「ごふっ、げはっ」
肋骨は折れ、呼吸するたびに鋭い痛みが胸を刺す。息を吸うたび、肺が焼けるような感覚が広がり、咳き込むと血の味が口に広がった。
脚はもっと酷い。火傷で皮膚が溶け、赤黒く変色した肉が露出している。右脚は銃創で膝から下がほとんど感覚を失い、立っているのが奇跡だった。
「はは、随分と酷い有様だな」
左脚は焼けた地面を踏み続けたせいで、靴底が溶けて皮膚に張り付き、剥がれた肉が血と混じってぐちゃぐちゃになっている。
歩くたび、焼けた神経が悲鳴を上げ、膝が折れそうになる。なのに、ベルリオーズは倒れない。倒れるわけにはいかない。
ベルリオーズの制服はボロボロだった。秩序の守護者である黒いジャケットは焦げて破れ、腹部をかすめた銃弾の跡が赤く染まっている。
背中はオルレアを背負った時の血と、爆発の熱で焼け焦げ、皮膚が剥がれた部分が露出していた。
全身が血と汗と煤にまみれ、もはや秩序の守護者委員長としての威厳はどこにもない。それでも、ベルリオーズの心は折れていなかった。
(痛い……身体がバラバラになりそうだ。でも、オルレアが……)
頭の中が霞む。意識が遠のきそうになるたび、オルレアの顔が浮かぶ。彼女が治療を受けている姿を想像するだけで、痛みが少しだけ遠のく。
(俺がこんな状態でも、オルレアが生きてるなら、それでいい。俺が守ったんだ)
ベルリオーズの唇が微かに動くが、声は出ない。血の味が喉に絡み、息が詰まる。病院の入り口から、医療生徒の一人が駆け寄ってくるのが見えた。
「ベルリオーズ様! 大丈夫ですか!?」
彼女の声が遠くに聞こえる。私は首を振る力もなく、ただ視線で病院を指す。
(オルレア……彼女を頼む。俺にはもう……)
言葉にならない思いが胸を締め付ける。ベルリオーズの身体は重傷で、立っていることすら奇跡だった。でも、オルレアが助かるなら、この傷は受け入れられる。
ベルリオーズはよろめきながらも立ち上がり、病院の入り口に一歩近づく。足が震え、膝が崩れそうになる。血が地面に滴り、視界が暗くなる。それでも、ベルリオーズは倒れない。
(オルレアに会いたい。彼女が生きてるか、確かめたい)
ベルリオーズの心は、愛と責任感でかろうじて繋がられている。重傷の身体が悲鳴を上げても、ベルリオーズはオルレアのために動き続けた。




