あの日あの時の桜
桜の季節。
それは、別れの季節。
ふとした瞬間思い出す、あなたのことを。
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「理人くん、お花見楽しいね!私、この日をずーっと楽しみにしていたの!」
最近は仕事が忙しく、予定が合わない日が続いていた。
だから、久しぶりに会えることが嬉しすぎる。
私は、にやけてしまった顔を手で戻す。
きっと理人くんも楽しみにしていたはず!
「……そうだね……」
彼は、悲しそうにどこか遠くを見つめている。
「……もしかして……楽しみじゃなかった? ご、ごめんね?」
私だけ浮かれていた。
なんて浅はかなんだろう。
「……………」
「……………」
気まずい沈黙が流れる。
聞こえてくるのは、他の人の楽しそうな声ばかり。
「……ごめん、綾音。もう別れよ?」
「なんで?理由を教えてよ!」
目から溢れ出そうな涙を抑える。
「だって綾音はいつも仕事ばかり優先するじゃん! 俺が会いたいって連絡した時、断ったでしょ? それも! 何度も!」
「それは! 大事な仕事だったからで…」
「俺は? どうでもいいってこと?」
そんなこと全然思ってない。
そう伝えたいのに、涙を我慢するので精一杯で言葉が出てこない。
「あのね、俺、思うんだ。綾音のためにも別れた方がいいと思う。……好きでしょ? 仕事が。俺がいたら邪魔になっちゃう」
彼は、悲しそうな笑みを浮かべ、去ろうとする。
仕事よりも理人を優先したら良かったのかな……?
背中が少しづつ遠のいていく。
「待って!」
私はつい、引き止めようとしてしまう。
彼は少しだけ振り向いた後、こう言った。
「またね」
もう会えないのに。
またね、なんて……ずるいよ。
心にぽっかりと大きな穴が空いた気がした。