revenge03 村娘
「いやあああーっ!! 助けてー!!」
「早く逃げるんだ! すぐそこまで魔物が迫っているぞ!!」
「お母さん、どこ? お母さ⋯⋯あっ!?」
逃げ惑う街の人達。
その流れに逆らうように歩いていた幼い女の子が、そばで倒れた。
「大丈夫?」
しゃがみ、声をかけた。
「うん。でも、お母さん⋯⋯」
抱き起こし、眼を見て言った。
「心配しないで。きっと大丈夫。あなたのお母さんは、わたしが助けます」
「ほんと?」
「うん。だから、あなたは他の大人の人と一緒に逃げて」
「わかった。おねえちゃん、約束だよ?」
「うん、約束。ほら、早く」
にこりと笑いかけると、街の人と一緒に北へ走る女の子。
まだ、北へ逃げる人々が大勢いた。
逃げ惑う人を避けながら、南へ駆ける。
しばらく駆けると、不意に人並みが無くなった。
正面。
恐怖で動けなくなっている女性に、斧を突きつけている漆黒の鎧の騎士。
「鎧の魔物! その女性に乱暴は許しません!」
「ククク、ようやく、少しは活きの良い人間が来たようだな。そろそろ、木偶狩りにも飽いていた頃だ」
騎馬に乗った、首なしの鎧の騎士。
左手の盾に描かれた顔が、喜びに歪んだ。
「わたしが、お相手します」
剣を抜いて、構えた。
「ククク、魔王軍親衛隊のこのダラハン様に、剣の構えも知らぬような小娘が挑むか。いいだろう、他の人間が来るまでの暇つぶしだ。ゆっくりなぶり殺してくれる!」
騎馬。
近づいてくる。
眼の前。
振り上げられた斧。
かわし、馬の股の潜り、剣で馬の腹を斬りつける。
「っ!?」
キンッと馬の馬甲に剣が弾かれる。
構わず、すれ違いながら、女性に駆け寄る。
「あの魔物は、わたしが引き付けます。今のうちに、逃げてください」
「あ、ありがとうございます!」
よろよろと立ち上がり、街並みの中へ消えていく女性。
きっと、大丈夫なはず。
「⋯⋯よし」
魔物の騎士に向けて、両手で剣を構え直す。
力を入れないと、切っ先が下がってしまいそうだった。
さきほどの攻撃は、寸前のところで避けられた。
次は、避けられないかもしれない。
わたしの力では、馬の馬甲すら貫けない。
弱点がわからない今、勝てる見込みはほぼ無い。
「⋯⋯」
一度、大きく隙を作る。
その隙に逃げる。
「⋯⋯いえ」
それでは、さきほどの女性に危険が及ぶ。
討伐隊が来るまで、あの魔物を引き付ける。
「なら、わたしがするべきことは」
走り出す。
魔物。
向かってくる。
蹄をかわし、馬に向けて下段から剣を振り上げる。
「!?」
「ククク、見え見えだ」
盾。
受けられていた。
剣。
弾かれる。
横薙ぎの斧。
かわせず、寸前のところで、剣で受ける。
受けきれず、民家の壁に叩きつけられた。
「くっ!?」
立ち上がろうとすると、右のお腹から何かが流れているのを感じた。
手で触れると、ぬるっとした感触。
自分の血を見たのは、何年ぶりだろう。
「脆い、脆いぞ人間。せめて、オレのために哭け」
髪を掴まれ、無造作に投げられる。
「ぐあっ!?」
受け身も取れず、地面に叩きつけられる。
「くっ⋯⋯!」
立ち上がろうとした。
体に、力が入らない。
呼吸が、できない。
肺に、血が溜まっているのがわかる。
仰向けで、空を見上げた。
満月。
あの日も、こんな満月だった。
「ごめんね、村のみんな」
薄れゆく視界の端に、魔物の斧が見えた。
「ククク、一度では殺さぬ。右足。次は左。手足を一本ずつ切り落として死を実感させて―――――ぬわぁーーーーーーっ!?」
直後、人差し指に弾かれた鎧の魔物が、勢いよく吹き飛ばされていくのが見えた。
「やれやれ。我としたことが、耄碌したものだ。幼女に、道を訊くことになるとはな」
黒い法衣に黒いマントを翻しながら、長身の男の人が立っていた。
「ぬ? 少女よ、怪我をしているではないか。どれ、我が回復してやろう!!」
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