revenge26 勇者
穴を抜けると、世界が歪み、元に戻る。
どこかの村の前だった。
「旅人さんかい? ここはトーラスの村だべ」
いかにも村人といった風貌の男が言った。
「トーラス村。ティナの故郷だな」
「じゃあ、ここは、ティナの夢の世界?」
「うむ。おそらくな」
「トーラス村? 待って。ティナの生まれ故郷って、トーラス村なの!?」
「そうだよ~。エルミア、どうかしたの~?」
エルミアの顔が険しくなる。
「トーラス村は、数ヶ月前、魔物の襲撃で滅ぼされたわ」
「!? それって⋯⋯」
「ええ。今、あたしたちが見ているのは、ティナの夢。つまり――」
「滅ぼされる前のトーラス村、か。くくく、なるほど。ティナが我をトーラス村に招待しようとした理由がわかったぞ」
「え? そのりゆうは?」
「ティナは、現実を越えようとしたのだ。自分の村が滅ぼされた現実をな。そうなる前に、夢に囚われることとなった」
「行きましょう。ティナが心配だわ」
村人にティナの家を聞き、家を訪ねる。
母親に来訪を伝えると、家の中に通された。
「あっ、アレン様!? トノカちゃんにエルミアさんまで!?」
驚くティナだったが、すぐに笑顔になる。
「今、お茶をご用意いたしますね。少々お待ちください―――」
「ティナ様。お話がございます。聞いて、頂けますか?」
「はい。あらたまって、何でしょう?」
エルミアが少しだけ間を置いて言った。
「ここは、ティナ様の夢の世界のトーラス村。現実のトーラス村は、もうすでに滅びております」
「⋯⋯はい、存じています」
「!? では、なぜ!?」
「これは、わたしが守りたかった、守れなかった夢。その夢の中で、いつまでも微睡んでいたいと思うのは、いけないことなのでしょうか?」
「ティナ様⋯⋯」
「本当は、わかっているんです。もう、お父さんもお母さんも村の人もいない。でも、少しだけ、現実で夢を見てしまいました。トノカちゃんのお母さんをアレン様が生き返らせた時、もしかしたら、村の皆も生き返せるのだろうかと」
ティナが我を見る。
首を横に振って、言った。
「ファニアの場合は、魂が肉体を離れる前に蘇生することが出来た。すでに魂も肉体も滅びた者を蘇らせることは、今の我では出来ぬ」
「夢は、夢のままで終わるのですね。なら、わたしは、この夢の中で―――」
「それが、ティナの願いか?」
「え? はい。わたし、どうしても諦められません。お父さんもお母さんも、村の人達も、失った命を、取り戻したい」
「何故、諦める必要がある? ティナは、勇者なのであろう? 勇者とは、諦めの悪い厄介な者のことを言うのだぞ?」
「でも……」
「ティナ」
「はい」
優しく笑いかけながら、言った。
「我がいる。何を迷うことがあろう。ティナのその望み、我が叶えてやる。だから、諦めるなどと言うな」
「でも、今のアレン様でも、出来ないと⋯⋯」
「不可能など、承知の上。それを何とかするのが、魔王なのだ。我を、信じてくれぬか?」
「アレン様⋯⋯」
うつむくティナ。
やがて顔をあげ、言った。
「信じたい、アレン様を。でも、恐いんです」
「夢が、夢のままで終わることが、か?」
「はい⋯⋯」
「ティナ」
「はい」
「おいで」
腕を広げる。
「はい、失礼します」
ティナが我の胸に収まる。
「う、うぅ~~~っ!!」
ティナが声を押し殺すように泣いた。
泣き止むと、顔を上げ、我を見つめるティナ。
まだ、不安で瞳が揺れていた。
「ふははははは! 勇者よ! なにゆえもがき生きるのか? あがきこそわがよろこび。生き抜く者こそ美しい。さあ わがうでの中で幸せになるがよい!」
「アレン様?」
「失礼するぞ、ティナ」
「? アレン様? んっ!?」
ティナに口付ける。
伝承法。
『おれは、ゆうしゃになる! そして、こまっているひとたちをたすけるんだ!』
『勇者とは、決して諦めない者のことだ! 喰らえ、ホーリィライトニング!!』
『アンタが、勇者? ふ~ん、強そうじゃん。いいよ、アンタの魔王退治、アタシも付き合ってやるよ』
『アレンさん、破廉恥はいけません、いけませんよ。ええ、わたし、神に仕える者ですから。そこは、厳しくいかせていただきます』
『うぃ~っ! アレン! またあたしの魔法薬の実験体になれ~! 嫌だとは言わせないぞ~! ひっく』
『やった! 魔王を倒したぞ! これで、世界に平和を取り戻せるんだ!』
『どうしてだ⋯⋯。どうして、俺が狙われるんだ。俺が人の敵でしかないのなら、俺は⋯⋯』
『どうだいアレン? ボクの勇者として、ボクの理想に協力してくれないかい?』
『魔王アガリア。俺は、勇者として、お前の理想に力を貸そう』
『これは、ボクが編み出した秘術。キミには、生きていてほしいからね。どうか、受け取ってほしい』
『我が名は魔王アレン。生きとし生けるもの達の、可能性を追求する者なり』
『世界を変えるのは、世界の仕組みの変更ではなく、個の意識の改革。個の可能性を超えれば、世界は変わる。くくく、ならば、我がすべきことは―――』
『アレン。お前、パーティから抜けろ』
『勇者とは、けっしてあきらめない者のことです!』
『はい! 勇者ティナ・アイオライト、あなたのギルドに加入いたします!』
『そういうことだから。トノカ、あの人についていくね』
『……ふんっ、ばーか』
『ボクは、アガリア』
『これは、わたしが守りたかった、守れなかった夢。その夢の中で、いつまでも微睡んでいたいと思うのは、いけないことなのでしょうか?』
『わたし、どうしても諦められません。お父さんもお母さんも、村の人達も。失った命を、取り戻したい』
『何故、諦める必要がある? ティナは、勇者なのであろう? 勇者とは、諦めの悪い厄介な者のことを言うのだぞ?』
『不可能など、承知の上。それを何とかするのが、魔王なのだ。我を、信じてくれぬか?』
『ティナ。我が勇者よ。我は、汝に随分救われたのだぞ? 個の可能性、勇者の可能性を諦めかけていた我が、汝を見て、生き物の可能性も、まだそこまで捨てたものではないと思えたのだ。ならば、今度は、我の可能性をティナに示そう。ティナの望みは、必ず叶える。だから、伝わってほしい。我の想いを』
口づけから伝わる、温かい力と記憶。
アレン様の想い。
そうか。
あの温かい男の人の声は、勇者アレン様の。
ううん。
今の、アレン様の声。
唇が、離れた。
涙を拭う。
アレン様。
優しく笑っている。
今なら、信じられる。
これまでのアレン様の記憶。
何度打ちのめされても、その度に、アレン様はその悲しみを超えてきた。
だから、信じられる。
「アレン様。わたし、信じます。アレン様が、わたしを救ってくださると」
アレン様が頷く。
「そして、受け継ぎます。勇者アレン様の、力と記憶を」
アレン様が苦笑する。
「アレン様の勇者として、このティナ・アイオライト、全力でアレン様をお守りいたします!」
世界に、ヒビが入りはじめる。
「またね、お父さん、お母さん、村のみんな」
瞼を、開けた。
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魔王アレン Lv951眠→Lv651
勇者ティナ Lv80眠→Lv380
竜人トノカ Lv296眠→Lv296
聖女エルミア Lv99眠→Lv99




