辺境騎士団、真実の物語
前半はシリアス。人が死ぬ表現があります。
後半はコメディ。男×男の表現があります。だって辺境騎士団ですもの。
銀の鱗が煌めき、鋭い牙が男を襲う。その男は魔物の攻撃を剣で薙ぎ払い、魔物の身体は勢いよく木に叩きつけられた。
「鱗が硬いな。斬る事が出来ん」
「首だ。首を狙えっ」
銀の鱗に狼に似た姿を持つ、シルバーギャルドンを峠の森の道で見かけたとの通報があったために、辺境騎士団第一隊が出動したのである。
「通報通り30匹か」
「なんの我らにかかれば、大した事はない」
20名で構成されている辺境騎士団第一隊。
第一隊隊長ガイディスは、ムキムキの大男で、皆に向かって檄を飛ばす。
「てめぇら。心してかかれ。油断は大敵だぞ」
「心得ております」
「さぁ、俺達が相手だ」
その中に、辺境騎士団へ入団して三月になるアラフと、ゴルディルがいた。
二人は親友で、金髪美男のアラフと黒髪でいかつい大男のゴルディル。
とある王国での貴族社会が嫌になり、辺境騎士団へ入団した18歳という若い二人である。
慣れぬ魔物討伐の任務には苦労しているが、やりがいのある仕事で。
このシルバーギャルドンを退治すれば、この峠の道を安心して人々が使う事が出来る。
その為にも、アラフは剣をふるい、襲い掛かって来るシルバーギャルドンの首を貫いた。
鱗で覆われているシルバーギャルドン。首筋だけは鱗が薄いのだ。
もう一頭が脇から、アラフに襲い掛かって来る。それを拳で思いっきり殴り飛ばしたのが、ゴルディル。
剣を持っているが、力の方が自信があるのだろう。
シルバーギャルドンは顎を吹っ飛ばされて、木にぶつかり、白目を剥いて失神した。
「助かった。ゴルディル」
「なんの、ほら来たぞ」
数匹に囲まれて、一斉に襲い掛かられ焦る二人。
その時、地面からウネウネと触手が伸びて、シルバーギャルドン達は触手にからめとられて、拘束される。
ギャンギャンと鳴き喚くシルバーギャルドン達。
マルクがにんまり笑いながら近づいて来て、
「拘束される獲物を見るのはそれはもう楽しくて、これが人間ならさぞかし、楽しいんだろうなぁ」
指先をウネウネと動かせれば、それに反応して触手もウネウネと動き、魔物達を締め付ける。
見かけは黒髪の好青年だが、やることがえげつない魔法使い。それがマルクだ。
そして、マルクと気が合うのか、こちらも黒髪の男、美男という訳ではない普通の容姿で、名はエダル。
マルクの肩をポンと叩いて、
「相変わらず、えげつないなぁ。お前は」
「ふん。人の楽しみを、とやかく言うな。そういうお前こそ、いまだに女々しく昔の女を思って泣いているじゃないか」
「俺はしつこい性格なんだよ」
言い争う二人にかまわず、アラフとゴルディルは拘束されている魔物達の首を剣で掻き切る。
血が噴き出し、魔物達は絶命する。
ガイディスが二人に向かって、
「ごらぁ、せっかくマルクが拘束した獲物だ。もっと効率よく、やり方があるだろうが」
血が噴き出して、血濡れになっているアラフは焦った。ゴルディルも口をぽかんと開けている。
アラフは慌てて、
「確かに、拘束されているのだし、鱗の隙間から心臓を刺して、血が飛び散らないように殺した方が良かったですね。隊長」
「そうだろう。そうだろう。お前達酷い有様だぞ」
他の団員達も集まって来て、
「全く、若いもんはまだまだ未熟だな」
「本当に。しょうがない奴らだ」
結局、三十匹、全てを始末して、毛皮や肉、売れる物を全て手際よく、解体して袋に入れ、周辺を綺麗に掃除し、任務を完了する。
街まで行って、ギルドへ持ち込んで、毛皮や肉を金に換えて、騎士団員の詰所へ戻れば全て完了である。
この任務が終われば、三日の休みが貰える。
アラフは休みの日は、もっぱら近くの村の娼館へ通った。
アラフだけではない。仲の良いゴルディル、マルク、エダル。他の団員達も皆、街にも娼館があるが、村の娼館も利用している。
騎士団詰所の団員達だけではない。
近くには鉱山もあって、鉱山で働く人たちも利用している娼館だ。
この村はとても貧しくて、作物は育たず、村人たちは食べる術を持たなかった。
だから、女達は年頃になると娼館で働いて、騎士団員達や鉱山労働者の相手をし、金を稼いでいたのだ。その女達の事情が解っているからこそ、騎士団員達は村の娼館も利用するのだ。
娼館では16歳の少女。アラフはそんなメリーナがお気に入りで、よくメリーナを指名して相手をしてもらっていた。
メリーナは金の髪の幼い顔をした少女だ。
アラフが指名してくれると喜んでくれて、
「アラフ様。私を指名してくれてありがとうございます。私、アラフ様が来るのを楽しみに待っているんですよ」
と言ってくれた。
お客様に対する娼婦の言葉だとしても、アラフは嬉しかった。
母や姉達。そして幼馴染と周りはろくな女がいなかった。そのせいで女性に対して愛情が抱けなくて。
親友の為に、貴族の未亡人と関係を持って、社交界で評判を落として、自ら望んで辺境騎士団へ入った。
魔物を討伐するときはとても緊張する。まだ三月なのだ。慣れなくて、よく第一隊長ガルディスや先輩達に怒られた。
だから、時には人肌が酷く恋しくなる。
休みの日にメリーナに会って、その胸に顔を埋める時がとてもアラフにとって幸せを感じるひと時であった。
「こうしていると、とても安心する。なんでだろうな」
アラフが甘えるように言うと、メリーナは、
「アラフ様は寂しいのだと思いますよ。私でよければいくらでも甘えさせてあげますので」
「君は俺より年下だろう?何だかな。それより、ここを出たくはないのか?」
メリーナは寂しそうに、
「ここを出たって、私、生きていく術を持てません。家では両親や弟妹達が私の稼ぎを待っているのです。沢山、稼いで、家族に美味しい物を食べさせてやりたい。この村は何もないから」
「そうだな。何もない村だもんな」
メリーナの事は気の毒に思う。
だが、辺境騎士団員の自分はメリーナを引き取って、幸せにするだけの、自信も無かった。
ただただ、メリーナを相手に、甘えて、そして欲を吐き出す。
休みが終われば、魔物狩に出かけて騎士団員としての仕事に精を出す。
街へ行けば、美味しいお菓子が売っている。
とある時は、メリーナの為に土産でもっていったりすれば、喜ばれた。
メリーナは、箱を大事そうに抱えて、
「店のお姉さんたちと一緒に食べますね。あ、私の分は弟と妹のお土産にします。喜ぶだろうな」
「そんなに嬉しいのなら、また、来るときに買ってくるよ」
「わぁ、嬉しい。有難うございますっ」
こんな時が永遠に続くとそう思っていた。
ゴルディルと一緒に、アラフが娼館へ来たとある日、
「今日は貸し切りなんですよ。すみませんね」
顔馴染の娼館の主に断られた。
ゴルディルが食ってかかる。
「貸し切り?俺達はよく来る上客だろう?俺なんて3人はまとめて買うぞ」
すっかり、娼館にはまり、娼婦を纏めて三人相手をするなんて事も珍しくないゴルディル。
ゴルディルも、断られた事に不満なのだろう。
アラフは聞いてみる。
「貸し切りって。金持ちが来ているのか?」
「勇者様一行ですよ。異世界から召喚されたとか言う」
この辺境騎士団がある王国の国王陛下が勇者となる人物を、異世界から魔法を使って、呼び出したという噂はここまで届いていた。
勇者が倒さなければならない魔王が現れたわけではない。
ただ、いざという時の為に勇者という者を呼びよせておいた方がいいだろう。
そんな安易な考えから、勇者を召喚したのである。
勇者は5人いて、皆、男性だった。
その18歳前後の若者たちは、やりたい放題で。
力をつける為とか言って、騎士団と共に旅をしていると聞いていた。
だからこの村にもやってきたのか?
何もない辺鄙な村だ。遊ぶところもないので、娼館を貸し切りにしたのか。
アラフは怒るゴルディルを宥めて、
「仕方ない。今日は帰ろう。酒でもおごるから。街で遊んでいるはずのマルクとエダルを誘って、酒でも飲もう」
「仕方ないなぁ。俺の性欲を、猛るこの身体をどうしてくれるんだ」
ゴルディルは不満を言っていたのだけれども、アラフはゴルディルを引っ張って、街へと移動した。
街はちょっと離れた所にあるが、村と比べると大きくて賑わっている。
そこで、マルクとエダルを見つけて、一緒に飲んだ。
街にも娼館があり、ゴルディルはしばらく飲んでいたが、そちらへ行くと言って出て行った。アラフは行く気がしなかった。
メリーナに会いたかったな。
あの胸に顔を埋めたい。
メリーナの傍で寝ると安心するのはなんでだろう。
ぼんやり酒を片手に物思いにふけっていると、エダルが声をかけてきた。
「なんだ?恋煩いか?」
「お前みたいに過去の女をずっと思っている訳ではない」
「酷いなぁ。俺は執念深いんだ。っていっても、付きまとう気もないけどね。
ただ、忘れられないんだ……」
「そうか?俺なんて過去は忘れたい方だけどな」
エダルと酒を片手に語り合っていると、マルクが、
「俺は触手の研究、いや、魔法の研究をしている方が楽しいがな。娼館はただ、気晴らしに行くだけだ。娼婦たちの話を聞くのは面白い」
爽やかな顔をして、しれっと触手がどうのこうの言うマルクは変わり者だとアラフは思う。
エダルはマルクの肩をポンポンと叩き、
「そうだな。触手に名前をつけているのはお前位なものだからな。ヨシヨシ」
頭を撫でていた。
酒を飲んで、皆と共に騎士団詰所へ戻って、その日はおとなしく酔いつぶれるように、ベッドで寝たアラフ。
まさか、勇者達が娼館に来た事が、あのような事になるとは思わなかった。
あれから3日後、メリーナに会ったら、メリーナが文句を言っていて、
「勇者様一行って酷いのよ。やりたい放題。お金も思いっきり値切っていって。私達、皆、文句を言っているの。本当に酷い人達。アリアなんて、殴られて、怪我させられたのよ」
仲間の娼婦が怪我をさせられて、酷い酷いと嘆いていたメリーナ。
アラフはそんなメリーナを慰めて、
「大変だったな。ほんとに、国王陛下は何を考えて勇者なんて召喚したんだか」
アラフはそう言って、メリーナを抱いた。
そして、すっかり、勇者の事は忘れた。
いつも通りのなんて事はない日々。魔物を狩って、休みになれば、メリーナを抱いて。
そんな一月程、経った頃、
村の娼館が休業になった。そう聞いて、心配になってアラフはゴルディルと一緒に、暇を見て、娼館を訪ねた。
ドアを叩いても誰も出てこない。
何があったんだ?
歩いている村人を見つけて、聞いてみた。
「ああ、娼婦たちが具合が悪くなって、皆、寝込んでしまった。だから、娼館が営業出来ないんだそうだ」
「メリーナの家はどこだ?」
アラフは心配になって、村人に聞いてみた。
「メリーナ?ああ、あのメリーナか。右に行って道を上ったところに家はあるよ」
「行ってみる」
アラフは急ぎ足で、家に向かった。
「メリーナに何があったんだ?」
ゴルディルが慰めるように、
「皆、風邪にでもかかったんだろうよ。ちょっと見舞ったら帰ろう。大した事はないに違いない」
「そうだといいんだが」
小さなボロボロの家があって、そこの扉を叩いたら、一人の中年の女性が出てきた。
「辺境騎士団のアラフと言うものだ。メリーナが心配で、隣は仲間のゴルディル。メリーナに会わせて欲しい」
その女性はアラフの手を取って、
「あの子はとても苦しがっていて。あの子だけではありません。あの娼館で働いていた娘たちは皆同様の症状で」
「医者は?何故、医者に見せない?」
「私達はとても貧しいのです。稼いだお金も領主さまに収める税でほとんど消えます。医者に見せるお金さえありません」
「俺が払う。いや、医者を街から連れてくる。メリーナにともかく会わせてくれっ」
強引に、メリーナが寝ているという部屋へ押し掛けた。
メリーナは苦しそうで、ベッドで真っ青な顔をして、それでも瞼を開けて、アラフを見て嬉しそうに、
「アラフ様。来て下さったんですね」
「医者を連れてくる。メリーナ。待っていてくれ。すぐに楽にしてあげるから」
「いいんです。苦しくて苦しくて。はぁはぁ。私、とても幸せだったな。アラフ様に会えて」
「馬鹿言うんじゃない」
「沢山の男の人に抱かれたけど、アラフ様に会えた時が一番幸せだった……私の事、忘れないで。ううん。忘れてくれていいの……忘れて……」
「メリーナっ」
メリーナは力尽きたように、瞼を瞑った。
そして息をしていなかった。
メリーナの弟妹達が駆け込んできて、
「お姉ちゃんっ。しっかりしてっ」
「お姉ちゃんっ。お姉ちゃんっ」
メリーナの両親も部屋に飛びこんで来て、
亡くなったメリーナを見て、ベッドに縋って、二人とも大声で泣いていた。
アラフは涙を流しながら、
「メリーナの他にも苦しんでいる人はいるんだ。医者をっ。街へ行って医者を連れてくるっ」
「ああ、行こうっ」
二人は街へ行って、医者を強引に村へ引っ張って来て、
娼婦達は20人いたが、皆、手遅れで、医者が診た時にはもう息をしていなかった。
娼婦が一気に20人、亡くなってしまったのだ。
領主と相談して、辺境騎士団長は今回の件を一任され、王都に頼んで特別に調査員を派遣してもらう事にした。
調査員は亡くなった娼婦たちの身体を、連れてきた医者達と共に調べに調べた。
そして、一つの結論に達した。
辺境騎士団長に、調査員は、
「勇者達から悪い病気を貰ったのでしょうね。異世界から来た勇者とか言っていましたでしょう?こちらの人間ではとてもではないが、免疫もないそんな病気を。その病気が発症して亡くなったのでしょう。大事な事をいいましょう。この病気はどうも女性だけ発症するようです。あの村の娼館で、勇者たちが来た後に訪れた男達も感染している可能性があります。彼らを検査して感染しているならば、女性と接触させないように。女性がかかれば確実に死にますから」
騎士団長は頭を抱えた。
あの村の娼館へは、辺境騎士団員、全員が行っているといっていい。
現在、第一隊、第二隊。計40名しかいない辺境騎士団員。全員が独身で、男盛りで、村の娼館はお気に入りだった。
鉱山で働いている労働者達も感染者はいるだろう。
鉱山を経営している領主に掛け合って、女性と接触禁止にしなければならないだろう。
頭が痛い。
だが、やらないと、娼婦たちが亡くなった病気が蔓延してしまう。そうなると、罪のない女性達が次々と死ぬのだ。
辺境騎士団長は、騎士団員を全員呼んだ。
「お前達、皆、村の娼館へこの一月の間に出かけたな」
「はい。出かけました」
「皆、亡くなってしまうとは」
「我らは悲しくて悲しくて」
「娼婦たちは異世界の勇者たちにタチの悪い病をうつされていた。その病は女性だけ発症する病だ。お前達全員が感染している。だから命じる。これから先の人生、女性と接触する事は禁じる」
「「「えええええっーーーーっ」」」
皆、真っ青になった。
魔物を退治した後に、娼館で欲を発散させるのは楽しみの一つだったのだ。
中には、いずれ辺境騎士団をやめて、女と結婚してもっと危なくない職業につきたいなぁって思っている者もいた。
それが、全て、幻となってしまった。
女性と交わったら、それだけで女性を殺してしまう。
アラフだって絶望した。
ゴルディルだってもっと絶望した。せっかく娼婦たちに、
「ゴルディル様って強いのね」
「本当に素敵。ゴルディル様なら、もう、何をされてもいいわぁ」
「ゴルディル様。愛してますわ」
だなんて、言われて男として自信がついていたのだ。
そして、この事が、アラフの身に危険を及ぼすとは、この時、思ってもみなかった。
辺境騎士団長の報告を受けた、国王陛下は、すぐに勇者達を騎士団員達に拘束させ、牢に入れさせた。
調べた結果、事態は大変な事になっており、王国の娼婦達が120人感染して、亡くなっていた。
更に感染した男性から感染をうつされた女性達が多く亡くなり、この勇者がもたらした、激震は王国全土を大いに震わせることとなる。
勇者と仲間達は、結局、国王の命令で公開処刑された。
「俺は悪くないっ。俺は悪くないっ」
最後まで勇者達はそう喚き続けていたと言われている。
メリーナが亡くなってしまって……
魔物を退治した後に、街のギルドへ行って、獲物を買い取ってもらって、
いつも通りのそんな昼下がり、
アラフはギルドから仲間達と出てきながら、空を見上げた。
「メリーナに土産を買っていかないとな」
とふと、思い浮かべて、メリーナがもういない事に、寂しさを覚える。
あの胸に顔を埋めて、たまった欲を発散させて、メリーナにうんと甘えさせてもらった。愚痴も沢山聞いて貰えた。
もう、メリーナはいないのだ。
背後から視線を感じた。
「アラフ。ヤらせろ」
「ああ、お前は綺麗な男だからな。俺の触手を試してみたい」
「三日三晩。可愛がってやりたい」
ゴルディルやマルク、エダルの言う事がおかしい。
アラフは慌てて、
「俺達は友だろう?」
ゴルディルが、
「お前、貴族の未亡人といい仲だった時に、こんな噂を聞いたんだ。未亡人の周りにいる男達とも出来ていたってな」
じりじりと迫って来る三人、アラフは慌てて逃げ出した。
こういう時は騎士団長に頼るに限る。
ガルディス第一隊長は、あてにならない。あの人は魔物を倒す事以外、駄目な人だからな。
騎士団長室へノックもしないで飛び込めば、騎士団長は不機嫌に書類仕事をしていた。
騎士団長はちゃんと結婚して妻がいたが、妻が亡くなってから、機嫌が悪いのだ。
髭がダンディな騎士団長。
アラフを見るなり、
「何用だ?ノックはしろと、第一隊長に言われなかったか?」
「俺の貞操の危機ですっ」
「そりゃ、一生、女を抱けないとなると、危機だろうがな。俺は忙しい。そう言う系の相談は第一隊長にしろ。直接の上司だ」
「違うんです。後ろの危機っ」
「後ろの危機?」
「そうです。後ろが危ない。皆、飢えていますっ」
「それ位、自分でなんとかしろ」
「何とか出来ないから相談しているんです」
廊下で怒鳴り声がした。
エダルが誰かとやり合っているようだ。
ドアを開けて思わず見れば、美しい若い男達が、エダルと言い争っていた。
騎士団長が、アラフの後ろから部屋から出て来て、
「ああ、某王国の元王子を押し付けられた。後、高位貴族の令息達も。奴らは婚約者の令嬢達をないがしろにし、一人の男爵令嬢に浮気をした挙句、冤罪を公爵令嬢に押し付けて、処刑しようとした罪人だ。廃籍したからこちらで面倒見ろと。断ったんだがな」
元王子とやらは、それはもう美しい容姿で、エダルに向かって、
「私は王子だ。その私に向かってこのような態度はなんだ?」
「王子様だって?」
「ああ、そんな私がなぜ、真実の愛を貫こうとしただけで、こんな所へ来なければならないっ。早く王国へ戻せっ」
他の二人の令息達も、
「家に帰りたいっ。早くここから帰らせてくれっ」
「私がいないと、私は将来重要な人物になるはずだ。だからっ」
辺境騎士団長は、
「あいつらは簀巻きにされて、ここへ連れてこられたから、まだ事態を把握していない」
アラフは騎士団長の手を両手で握り締めて、
「正義を教えましょう。正義をっ」
「えっ?正義か?」
「我が騎士団において、愛を持って正義を教えるのですっ」
「愛を持ってか?いや、徹底的にその根性を鍛えて」
「鍛えて、その根性が治りますか?」
「いや、その為に」
「治りません」
アラフは必死だった。
「私が責任者になります。ゴルディルとエダル、マルクと共に、元王子達の教育の責任者です」
辺境騎士団長は、頷いて、
「お前達が責任をもって、教育をしてくれると言うのなら、誰に任せようか考えていたところだからな」
「責任をもって教育致しますっ」
アラフはエダルをとっ捕まえて、
「エダル。良い話をしようか?ゴルディルとマルクも呼んできてくれ」
「あ、ああ」
元王子達を、部屋に閉じ込めて、
アラフは三人に力説した。
「愛を持って、正義を説けば、彼らはきっと反省する」
ゴルディルが考えこむように、
「そうか?そんなもんか?」
エダルもうううん、と考え込んで、
「で、どう愛を説けばいいんだ?」
マルクがにんまりと笑って、
「触手の出番だな」
アラフはマルクの手を両手で握り締め、
「そうだ。マルク。お前の触手の出番だ。元王子達をうんと教育して、うんと反省させてやれ。愛を持って、愛を持ってだ」
ともかく、必死だった。
ゴルディルが目をきらきらさせて、
「そうだな。屑には仕置きが必要だ」
エダルも大きく頷いて、
「仕置きはしつこい方がいいな」
マルクはアラフの手を握り返して、
「友よ。我らの使命は決まった。まずはあの元王子達をしっかりと教育しよう。しっかりと反省させよう」
三人は、それはもう機嫌よく、元王子達の部屋へ入っていった。
翌日、すっきりした顔のゴルディルとマルク。それを見た、他の団員達が理由を聞いて、目をキラキラさせ、入れ替わりに入って行った。
元王子の相手をしているらしい、エダルは三日三晩出てこなかった……
第一隊長、第二隊長にアラフは、屑達を仕置きしている話をしたら、二人は大いに賛同して。
「魔物退治は本業に。だが、屑達を更生させるのも我ら騎士団の仕事にしたらどうだろうか」
「そうだな。それがいい。愛を持って教育を。ああ、そうだ。諜報部隊を作ろう。彼らに美しい屑達の情報を探らせるのだ」
アラフは男泣きに泣いた。
苦労が実ったのだ。
これで矛先が自分に向く事は無いだろう。
後は獲物を。
おおおっと、美しい屑達を調達してくるだけの話だ。
騎士団長が気が付いた時は、それはもう変態騎士団として名がある程度、各国に知れ渡っていた。
とある公爵令嬢の依頼で、美しい屑男を辺境騎士団へ拉致したり、酒場のマスターや客を演じて、屑男を捕まえてきたり、送られてきた屑男達を調教したりと忙しい日々を送る辺境騎士団。
騎士団長もついには開き直って、
「我らは愛を教える辺境騎士団。今日も屑男達に愛を教える事を一番目に、二番目は魔物を討伐して、人々が安心して暮らせる世にする為に、頑張ろう」
と演説するようになった。
そして、現在、
情熱の南風アラフ。北の夜の帝王ゴルディル。東の魔手マルク。三日三晩の西のエダル。
と呼ばれ、四人は辺境騎士団四天王として、名を馳せている。
彼らは、辺境騎士団騎士団長の教えに感動し(た事にし)、仲間達と共に騎士団の為に命を捧げたと、記録に残っている。