水卜くるみ
変身を解いた私は、魔法少女キュイエールからただの冴えない二十六歳女性、水卜くるみに戻った。
「疲れた……」
「水卜」と書かれたネームプレートを掲げる、マンションのあるドアを開けると、大量のごみ袋が私を出迎えた。
「はあ……」
ゴミ袋の隙間を縫うように進み、空のペットボトルやポテチの残骸が転がるソファの上に寝転がる。近くにあったリモコンを手繰り寄せ、テレビの電源をつけた。
「速報です。○○市で突如発生したビーストは、魔法少女キュイエールによって無事退治された模様です――」
ニュースキャスターは淡々と今日のことを報じた。無事、という言葉が頭に引っかかった。
ビースト。その実態は多くが謎に包まれている。わかるのは、人間を襲うということ。そして、それに対抗しうるのは魔法少女だけだということ。ただの重火器などではビーストにダメージは与えられない。魔法少女の使う魔法のみが現状把握しているビーストに効く攻撃手段だ。
段々と、瞼が重くなってきた。今日は夕飯も食べていないし、お風呂も入っていないし、それに、そもそも、テレビも消していない……。していないことが、山ほどある。……しかし、そうわかっていても、とても動く気にはなれない。――やがて私は、深い夢の中へと旅立った。
夢の中、私はまた戦っていた。半ば夢だと知っていたような気がするが、構わずビーストを倒し続けた。倒しても倒しても、ビーストは何度でも甦った。
私が死ぬまで続く夢。それでもまだ、私は戦っていた。