使命感
街をビーストが食う。そいつは体長約五十メートル、カラフルな体毛に大きな瞳孔を持っていた。ぬいぐるみにすればそれなりに可愛いのに、その巨大で鋭い爪で街のビルを薙ぎ、車を踏みしめ進む様はとても恐ろしい。点ほどの人々はビーストの進行方向と同じ方角へ大移動している。喧騒がここでも聞こえる。私はその様を俯瞰していた。
大きいビーストは面倒くさい。倒すのに時間がかかるうえ、倒しても死体を片付けるのに多くの人手を割き厄介だ。そもそもビーストが出てくること自体が厄介だ。
「……やるか」
それでも、一番ダメなのがそいつを放置することだ。重い体を動かし、ビースト目指して駆ける。右手に握りしめている身長ほどある大剣をビーストに突き立てる。ビーストは悲鳴ともいえる雄叫びを轟かし、私の存在を認知する。爪がこちらに向く。近くで見るとその爪は血でまだら模様を作っていて、お前も模様の一部になるんだよ、といった殺意をビシビシ感じる。
このくらいの大きさのビーストを倒したことは、何回かある。それでも、怖い。その巨体に押しつぶされ、死体も残らないほど無残な残骸になるのを想像してしまって、足がすくむ。そんな姿になってしまった仲間を、今まで何度も見てきた。そんな時、私を助けてくれたのが使命感だった。私はこいつを倒さないといけない。足を動かせ。
剣をビーストから抜く。ビーストはまた鳴き、爪を私に向けて振り回す。ジャンプでかわし、血で塗装された剣でビーストの目を裂き、その勢いで体を真っ二つにした。ビーストの猛進は終わった。
「……なんだ、今回はでかいだけか」
震えた手に言い聞かせながら、眼下を見る。大勢の人々は目を丸くしながらこちらを振り向き、やがてそれは笑顔に変わった。
「や……やったぞー! 魔法少女キュイエールがビーストを倒した!」
歓声が街中に広がった。今回の被害は決して小さくない。多くの人が亡くなった、街の修復や倒したビーストの回収にも時間がかかる。……それでも、この人たちを救えた。
とりあえず、魔法少女としての仕事はこれで終わった。後始末のことはひとまず帰ってから手伝おう。剣をしまって、その場を去った。