鬼門除け
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
あの子の星回りは生まれながら修羅と決まっていてね。波乱万丈なんだよ。どう頑張っても安らかな毎日が送れるとは思えない。それは字画からも手相からも分かる事だ。
でも皮肉にも、あの子は常にこう言ってる。
――平穏無事な生活を送りたいって願うのは、そんなにも罪な事なんですか。そんなにも、過ぎたる願いなんですか。
だから私達がしてあげられる事は、決まっていた。
私の身内には気狂いが一人いる。常識が欠如した、頭のおかしい人間が一人いる。その程度がどれ程かと言うと、自己顕示欲を満たす為だけに親族を無理矢理延命させ、通夜の際には親戚一同に香典が少ないとせびる。火葬中に出された料理が質素だからとバイキングに行こうと宣言する。それ程までに、人に敬意を払わない人だった。
それでも思うがままに毒を吐くと、運気が低迷するから何も考えないようにしていた。話しちゃ駄目駄目、考えるのも駄目。あの人の事でなんで私が気分を悪くしなければいけないのだ。
そんなある時、神社で鮮やかな黒髪の麗人に会った。彼はにこやかな笑みを一つ浮かべると、まったりとした足取りで此方に近付いて来た。
「良い子だね。考えないようにするなんて」
「……馬鹿みたいじゃないですか。なんで気狂いの事を考えて私が不幸にならなきゃいけないんですか。嫌な者からは距離をとる。これ鉄板です」
初めて会う御仁なのに、何故かスルスルと言葉が出た。彼はそんな私に対しても特段気狂い扱いせずに、静かに聞いていた。
それから瞬きを一つすると、少し考えた様に小首を傾げた。
「じゃあお近付きの印に、縁を紡いであげよう。君は厄と鬼門に縁があるようだから、それを排してくれるような場所、方々に」
それから、偶見付けた朱色の社に何となく惹かれて鳥居を潜った。先程の麗人とは似ても似つかぬ様な、荒々しい御仁が待っていた。雰囲気が真っ赤な御仁だった。
「なんだお前、何も知らされてねぇのか。此処は鬼門除けの神社。そして俺の御利益は厄落とし。分かったら、駄賃な」
人選、間違っておいでではないですか? でもそれ以降、その気狂いとの縁はバッサリと切れた。出会う事は愚か、連絡される事は無かった。今一度、挨拶に行く事にしよう。
最初の冒頭分である『平穏無事な~』というのは、口に出している訳ではなく、心の中で延々と繰り返している言葉。
良い事、嫌な事、些細な御礼、愚痴であっても、拾って命運を分かつのが神様かと。
実際それで縁結びを執行されているので。
だから油断はしない方が良いです。
ずっとは無理でも気は引き締めていた方が宜しいかと。
だから不変を願うなら、きっと何も思わないのが正解なんだと思います。