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77 幸せな未来へ

「セリーヌ、とても綺麗だ。まるで女神様のようだよ」


手の甲に口付ける。


「もう、言い過ぎです。アルフレッド様の方が美しいではありませんか」


「美しいという言葉は君の為にある」


「アルフレッド様の宝石の様な瞳には誰も敵いませんわ」


手を取り合ってお互いに褒めあい譲らない様子に、またかと言わんばかりにシモンがため息をつき、苦笑しながらサイラスがお茶を淹れる。


アルフレッドの執務室でウォルドナー司教とあの執事の行方について報告していたはずなのだが。


結婚式の準備の為にセリーヌは夜会用のドレス選びをしていたのだが、アルフレッドから呼び出されたのでついでに見てもらおうと、試着中のまま城の中を歩き執務室を訪れた。


あれから一年が経つというのに、お転婆な所は健在だ。


シモンは呆れていたが、アルフレッドは嬉しそうだ。


「全く、氷の王子様はどこへやら」


シモンの皮肉も聞こえているのはサイラスのみだ。


「殿下、セリーヌ様に早くお話して差し上げた方がよろしいかと」


さすが有能な執事は主の扱いも心得ている。


「そうだな、着飾っているセリーヌをもっと見ていたいが」


やっと本題に入れるようだとシモンは背筋を伸ばした。


「セリーヌ、ウォルドナー司教の居場所がわかった。司教はウォルドナー教会の墓地に埋葬されている」


やはりというべきか、クリスティアの呪いが解けたということはあの司教へ呪いが返ったということ。


「そうですか…ではあの執事の方は」


「執事の行方はまだわかっていないが…」


視線を反らし苦い表情に変わる。


「実は侯爵家で幽閉されていたヴィクトリアが何者かに拐われた」


「えっ」


予想外の事に思考が止まる。


「あの執事はヴィクトリアに心酔していたからな…まだ女王にしようと何か企んでいるかもしれない」


シモンの調べた情報によると、南海を航る貿易船に二人に似た人物の目撃情報があるという。


「夫婦だと言っていたらしいが、二人の様子は夫婦と言うより主従関係に見えたようだよ」


「そう…」


国外へ渡ったのならば、戻ってきたとしても入国審査を厳しくしておけば動きはわかるから心配はないと、アルフレッドが続ける。


「いつかまたこの国に戻って来るかもしれませんね」


純粋にアルフレッドを慕っていただけだったはずなのに、ヴィクトリアは司教と執事に勝手に担ぎ上げられた被害者と言っても良いと、極刑は回避して欲しいというセリーヌの願いが聞き入れられ、侯爵家で幽閉という処分が下ったのである。


「マークさんと、ショウキさんはどうなったのです?」


「彼らは罪を重ねすぎた。しかし、二人の母親はエストルネ国王の妹姫だった事がわかって、エストルネの方で処分を決めかねているらしい」


司教はどこまでも王族にこだわったのだ。


エストルネ国で降嫁したとはいえ、王族の血を継ぐ姫を拐ったのである。そのお腹にはショウキッドがいたのだが、教会に隠されそこで産み落とされたらしい。


本当の父親は司教の手にかけられてもうこの世にはいない。


そしてその後産まれたマークは司教と姫の子供なのだ。


「本当にひどいわ…」


セリーヌによって呪いが返された後も、二人の母親はまだ生きていたのだ。


しかし、苦しみから解放してあげると言い司教がとどめを刺したとマクベスが証言している。


そして、ショウキッドの怒りの矛先をセリーヌに向けさせたのである。


王族になる為にどれだけの人を手に掛けてきたのだろうか。そんな司教の思惑が現実にならなくて良かったと心から安堵した。


「クリスティア殿の呪いも、王太后の呪いもこれで心配の種は一切無くなった。それを早く伝えたかったんだ」


セリーヌは目を閉じ一つ大きく息をついてから、アルフレッドを真っ直ぐに見た。


「アルフレッド様、何もかも本当にありがとうございます」


左胸に手を当て恭しく頭を下げる。


「愛する君の為なら僕はなんだってできるよ」


満面の笑みで答える。


今にも口づけそうになる横でシモンが割って入った。


「じゃあ、そろそろ行こうかしら」


シモンがいた事を思い出して視線を移す。


「シモン、これからエストルネ国へ行くの?」


「そうよ、これでも結構忙しいの。これからエストルネの精鋭部隊に入ってまた一から修行よ」


シモンが立ち上がると同時にセリーヌも立ち上がった。


「そんな顔しないで、今生の別れじゃないんだから」


「そうだけど…」


「あなた達の結婚式には必ず出席するから、心配しないで」


「ええ、絶対によ!」


「はいはい」


宥めるように肩をポンポンと叩く。


「アンネルシア様と仲良くね」


と何気なく言ったのだが。


「はっ?!何であんな男みたいなじゃじゃ馬姫とあたしが?!」


シモンが急にあたふたと落ち着きがなくなった。


「…え?」


「え?…あっ、えーっと、ええ、そうね同じ騎士としてね、そうねっ」


慌てた様子でじゃあねと手を挙げてそそくさと退室した。


アルフレッドと顔を見合わせ、シモンの幸せを願った。


「今日は庭園の薔薇が見頃だそうですよ」


それだけ言ってサイラスも退室した。


「サイラスがああ言ってるんだ、少し見に行かないか?」


「はい!あっ、でも私試着中のドレスのままですので」


残念そうに戻ろうとしたセリーヌを引き寄せて、アルフレッドはいたずらっ子のような顔をする。


「移動魔法で行くから少しくらい平気だ。それにそのドレス似合ってるからそのまま着たらいい」


そう言って有無を言わさず庭園へと移動した。


「まぁ!綺麗…満開ですわね」


「あぁ、さすがサイラスだな」


二人の思い出の薔薇を王城でも見たいと、マルグリット邸の薔薇園から株を分けてもらい見事に咲かせる事ができた。


「庭師には報償を出そうか」


そう言ってアルフレッドは満足そうに頷いた。


「ぜひそうなさって下さい」


庭師の喜ぶ顔を思い浮かべて嬉しくなる。


「懐かしいな、この薔薇を見ると初めてセリーヌに口付けたあの時を思い出すよ」


ほんのり顔を赤らめたセリーヌは、あの時より少し大人になったようだ。


「私も昨日の事のように思い出せますわ」


優しく微笑むとアルフレッドの顔が近づいてきて唇が重なった。


ダニエルとミオーネが駆け落ちをした時は、婚約者に逃げられた者同士こんな幸せが待っていようとは誰が予想できただろうか。


一度は家を捨てて二人で生きようとしていたダニエルはフォンテーヌ公爵家に婿入し、将来は公爵となる。


そしてミオーネのお腹には新しい命が。


公爵夫人はミオーネに出来なかった分、思い切り孫を甘やかしたいと言って、今か今かと心待ちにしているようだ。


「お母様が極端過ぎて心配だわ」


とミオーネは今から心配しているようだ。


そして、ランドール侯爵家はというとシモンが継ぐことになった。


父親に疎まれていると思っていたようだが、セリーヌ達と共に国を救った事で英雄の一人となったのだから、男だろうと女だろうと誰も文句は言えまいとその一言で治まったらしい。


あの事件からエストルネ国との絆は強くなった。そして関係をより深める為にも、何年かはシモンがエストルネ国の精鋭部隊の一員として入る事になったのだ。


そしてセリーヌがもう一人の姉と慕う侍女のリリアンは、セリーヌの専属侍女として城に入る。


マルグリット家の男二人はというと、酒を飲むと未だにセリーヌの花嫁姿を見たくないとゴネ始めるようだが、キャサリンに一喝されて大人しくなる。


結婚式当日は二人共寝込んでしまわないかと少々心配ではあるが、母が一番強い事を知っているから大丈夫であろう。


花の香に包まれる中、皆の顔を思い浮かべて幸せを胸いっぱいに感じながら、二人は寄り添い咲き誇る薔薇を眺めていたのだった。

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