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75 アルフレッドの危機

「王子様、教会であんたにしてやられた事俺は忘れてないよ」


「そうかっ、今日も負けるのはお前だ」


2人はどちらも引かず剣を交えている。


「それはどうかなっ」


こんなに移動魔法も使っているのにマークは疲れを見せないどころか余裕の笑みを浮かべている。


(まずいな、魔力の消費がいつもより激しい…)


アルフレッドの方が徐々に息が上がってきている。何かがおかしい。


体力にも自信があり魔力量も群を抜いているアルフレッドだが、いつもの何倍も早く魔力も体力も無くなってきているのだ。


(なんだこの感覚は…)


「そろそろ気づいたか?」


ヒヒッと笑い、特別に教えてやると言いながら剣を天に突き上げた。


「この剣はね、ウォルドナー家の家宝なんだ。剣を交えた相手の魔力を吸い取る事ができるんだよ」


家宝を託された事が余程嬉しかったのだろう、自慢気に話して聞かせた。


「王子様のその魔力を沢山吸い取って今や最強の剣となったんだ」


(信じ難い話だが…この消費の仕方では恐らく本当なのだろう…)


そして、とうとうアルフレッドの片膝が地についた。


「くっ、くそっ」


剣を杖のようにして何とか体を支えているが、体力の消耗も激しく足がガタガタと微かに震えている。


「どう?俺の前で跪く気分は」


勝ち誇ったように高笑いしているマークを睨みつける。


そこへ甲高い声でアルフレッドの名を呼びながらヴィクトリアが近づいてきた。


「アルフレッド様になんて無礼な!あなたこそ跪きなさい」


アルフレッドを庇うように立ちはだかり、マークに命じる。


「はぁ、俺は貴女の事はまだ認めた訳じゃない。邪魔だからどいてよ」


良い所で水を差されたと冷めた目でヴィクトリアを見る。


「黙れ!貴様、この方はこの国の女王になるお方なのだ、平伏せ!」


執事が強い口調で言うが、目に入らないようだ。


(なんだ…こいつらは仲間ではないのか…)


アルフレッドは何とか体制を保ってはいるがもう殆ど力が入らない。


「アルフレッド様、私が貴方をお守りします。そして貴方を洗脳から救い出して見せますわ」


「なっ…何を言っている…」


言い終わらない内にヴィクトリアは小瓶の中身を口に含んだかと思うと、振り返りアルフレッドに口付けた。


「っ…んんっ」


口の中に何かを流し込まれたが、咄嗟に顔を背け吐き出した。


しかし微量であっても苦みが口の中に広がっていく。


「うっ…かはっ…はっ…」


体が、頭が熱くなる。心臓がバクバクと破裂しそうなほどだ。


「アルフレッド様っ…」


いつの間にか近くまで来ていたセリーヌの姿が朧げに見えたが、アルフレッドは段々と意識が遠くなる。


「セリーヌ…」


その視界を遮るようにヴィクトリアが倒れゆくアルフレッドを抱きかかえる。


「アルフレッド様は私がお助けするのよ。貴女の洗脳からね」


ヴィクトリアには小瓶のそれは効いてないようだ。


「今…なに…を…」


セリーヌは目の前の光景が信じられず、ドンドンと心臓が打ち鳴らされ、息が止まりそうだ。


ヴィクトリアがアルフレッドに口付けている姿が目に焼き付いて離れない。


「セリーヌ、しっかりするのよ!」


「ヴィクトリア嬢!アルフレッド殿に何を飲ませた!!」


ミオーネとアンネルシアの声が遠くに聞こえる。


セリーヌは震える手を伸ばしアルフレッドに近づいていく。もう少しで届くという所で手を払われた。


「穢らわしい魔女がアルフレッド様に触らないで!殿下の為にはこの薬が必要なのよ」


アルフレッドを更に抱え込むようにしてヴィクトリアが二人を阻む。


離れた所から司教の高笑いが響いている。


「よくやった、ヴィクトリア!これで私達の願いが叶う時が来た!あぁ女神様!」


そう叫んだ司教は女神像を倒し、呪文を唱え始めた。


穏やかだった湖が少しずつ波打ち始める。


「アルフレッド様、これで貴方は救われます。これからは私がお支えしますわ」


ヴィクトリアがアルフレッドを抱きしめるがピクリとも動かない。


「ア…アル…フレッド…様…」


セリーヌは膝から崩れ落ちる。


ミオーネもアンネルシアもその場に座り込み呆然とこの光景を見ている。


「どうして…どうして…」


強く握り過ぎて血がにじむ拳を地面につけ、セリーヌの目からポタポタと絶望の涙が落ちる。


『セリーヌ、皆を助けたいなら覚悟を決めよ』


頭の中に女神の声が響いた。


『お前の役目はなんだ?この者たちを、この世界を救えるのはお前だけなのだ』


覚悟はしていたはずなのに、いざ目の前に突きつけられると動けない。


その時だった。


セリーヌの手を、ヒンヤリと冷たいが覚えのある感覚が包みこんだ。


目を上げると、ヴィクトリアを押しのけてアルフレッドの手が弱々しくもセリーヌの手に重ねられている。


息も荒く苦しそうに、でも強い眼差しがセリーヌを捕らえている。


「アルフレッド様!」


冷めたくなったその手を、両手で包み強く握り返す。


ヴィクトリアはどうしてと、信じられない様子で唇を震わせアルフレッドを見ている。


「セリーヌ…大丈夫…だ…君が犠牲に…なる必要はない」


気を抜けば何かに支配されそうになる。しかしそれに抗いながら正気を保っているアルフレッドの精神力は並大抵のものではない。


「女神様に…何か言われているのだろう?」


セリーヌの事はなんだってわかると笑ってみせる。


そしてセリーヌの中にいる女神に訴える。


「女神様、セリーヌも一人の人間です…守られるべき…この国の民でもあります。そしてなりより、私の愛する人を奪わないで頂きたい」


その優しく強い眼差しにセリーヌの心は震えた。


(あぁ…やっぱりアルフレッド様はアルフレッド様ね)


そしてセリーヌの心は決まった。


「アルフレッド様…ありがとうございます。私は本当に幸せです。だからアルフレッド様にも幸せになって欲しい…おばあ様にもまだまだ元気でいて欲しい」


「セリーヌ…」


「本当に本当に、大好きです」


穏やかな笑顔で目の前のアルフレッドの頬にそっと手を添えて唇を重ねた。


そしてニコリと微笑むと、セリーヌは目を閉じた。


『ようやく覚悟が決まったようだな』


そして目を開けた時、そこにいるのはもうセリーヌではなくなっていた。


「セリー…ヌ」


アルフレッドはセリーヌの名を呼ぶが、目の前の女神は無表情に体を起こし立ち上がった。


『聖女たち、ここまでご苦労だった。後はあの湖底の呪いを封じ込めるだけだ』


淡々とセリーヌの口から語られる。


「お待ち下さい、女神様…セリーヌは器ではありません、どうか…セリーヌをお返しください」


息も絶え絶えアルフレッドは懇願する。


『お前に何ができると言うのだ。人間は脆い。だからこそ、お前達人間とこの世界を守る為に呪いを封じ込めねばならぬのだ』


「…仰る通り、私達人間は脆い。しかし、一人では何も出来ずとも皆が力を合わせれば出来ることもございます。どうか、私達を信じて頂けないでしょうか」


いつまでも女神様に頼ってばかりいては人は強くなれないのだと強く訴える。


『お前に何か策があるというのか』


「はい」


力強く真っ直ぐに女神と目を合わせ答える。


『ほう、しかしそれが失敗に終われば、この国の人間は皆あやつらの傀儡となり助ける機会を永遠に失うのだぞ』


「…はい、承知しております」


『それほどまでにこの器を手に入れたいのか』


「何度も申し上げますが、セリーヌは物ではありません。そして…私はセリーヌの為ならどんな事でもやってみせます」


気がつけば、ミオーネもアンネルシアもアルフレッドの後ろに控えており、命をかけて力を尽くすと女神に誓った。


大地の怒りの如く、地面が轟き始める。


『我も甘くなったものよ。では、お前達がこの世界を守ってみせよ。ただし、一度きりやり直しはきかぬぞ』


「はい、必ず守ってみせます」


女神は一つため息を付き、セリーヌの髪に挿してあった薔薇の髪飾りを手に取った。


ここに来る途中に立ち寄った街でアルフレッドがセリーヌに贈ったあの髪飾りだ。


『これを作れる者がまだいたとはな。これもまた運命か』


ふと表情が和らいだように見えたが、それもほんの一瞬だった。


『お前たちが箱から溢れ出す禍々しき穢れを抑え込め。そしてすでに流れ出た物は浄化するのだ。それができなければ終わりだ』


左胸に手を当て皆が恭しく頭を下げる。


女神がアルフレッドを指差したかと思うと、先程までの苦しさが無くなり、魔力が戻った。


『我が湖底でこれを持って箱を封じ込める。このの体から離れたらその後はお前たちでこの者を引き上げろ。こやつを助けたいのならそれしかあるまい』


全てはお前にかかっているのだとアルフレッドに釘を刺す。


「この命に変えても必ず守ります」


アルフレッドは立ち上がり、女神と共に湖へと歩みを進めた。

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