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68 何か隠し事ですか?


「うん…ん?」


聞き覚えのある懐かしい音と匂いで目が覚めたセリーヌは、天蓋から下がるレースをぼんやりと見る。


「お目覚めですか?お嬢様」


懐かしい声が聞こえてきてなんだかもう一度眠りにつきたくなる。


「お嬢様は相変わらずですね。ふふっ、もう立派な淑女なのですから二度寝はいけませんよ」


「ん?」


勢いよく体を起こすと目の前には懐かしい顔がニコニコとこちらを見ている。


「ばあや!」


「はい、おはようございますお嬢様」


「どうして?私どうしてここに…」


懐かしいのもそのはず、ノエールにある実家の自室ではないか。


「昨日王太子御一行様がこちらにご到着なさって、お迎えに上がりましたらお嬢様はぐっすり眠っているではないですか。それはもうスヤスヤと」


「え?!私は確か森の中で石碑を見ていたのだけど…私…眠ったままここに帰ってきたの?」


「はい、ロナウド坊っちゃんも驚いていましたよ」


森の中で皆で石碑を前に話していたはずが、一瞬にして故郷であるノエールの屋敷にいるのだから何がなんだかわからない。


(一体何があったの…私いつの間に眠っていたのかしら…)


「さぁ、まずはお茶を飲んで目を覚ましてくださいませ」


懐かしい香りは幼い頃からばあやが入れてくれるミルクと甘い蜜入りのお茶の香りだ。


用意する音も聞き慣れたもので心地良い。


セリーヌはベッドから出て甘い香りに誘われるようにイスに腰掛ける。


ノエールでこの時期にしか取れない貴重な茶葉の爽やかな香りを感じながらゆっくりと口にする。


ミルクと蜜も合わさって優しく包まれるような心地だ。


(こうしてばあやの入れたお茶を飲むのはいつぶりかしら)


「やっぱりばあやの入れるお茶は格別ね」


「あらあら、それは嬉しいですね」


すっかり目が覚めたセリーヌは一緒に来たアルフレッド達はどうしているのかと尋ねるとほんの少しばあやの顔が曇った。


「どうしたの?皆で一緒にここへ来たのではないの?」


「ええ、皆さん一緒に来られましたよ」


「それなら来客用のお部屋にいるのかしら?」


「ええ、お泊りになっています。今朝早くにロナウド坊っちゃんと王太子殿下はクリスティア様の所へ向かいました」


「お二人だけでおばあ様の所へ向かったの?!」


「はい、私は詳しいことはわかりませんが急いでいらしたようです」


(二人だけでなんてどうして…)


「じゃあミオーネお姉様やアンネルシア様達は?」


「今は客間にお集まりになり皆さんでお話なさっていますよ」


そう聞いたセリーヌは早速客間へ行こうとするのをばあやに止められる。


「どうして止めるの?」


「お嬢様、ご自身のお姿をよくご覧ください。寝衣で皆様の所へ行かれるのですか?」


まだベッドから出ただけで何も支度をしていなかった事に気づく。


「ふふふっ、淑女としてはいけませんが、お嬢様が変わっていらっしゃらなくてばあやは少し嬉しいです」


くすくすと笑いながら手早く支度を整えてくれた。


(大人になった所を見せたかったのに)


まだまだ所々あどけなさが抜けないようだ。


ばあやのおかげであっという間に支度を終えて今度こそと客間へと向かった。


「おはようございます!」


元気よく挨拶をしながら入っていくと一瞬皆がはっとしたような顔をしたが、すぐにミオーネが駆け寄ってきた。


「セリーヌ目が覚めたのね!」


何やら重苦しい空気だったような気がしたが、セリーヌを見るなりミオーネは花が咲いたように笑顔になった。


「おはようございますお姉様!私いつの間にか眠ってしまっていたのですね」


「ええ、驚いたけれどあなた本当に気持ちよさそうに寝ているものだからそのままこちらに来たのよ」


「全く相変わらず人騒がせよね、セリーヌは」


そう言いながらもシモンの顔も嬉しそうだ。


「皆さん本当にご迷惑をおかけしました」


「いや、そのおかげで久しぶりにノエールの屋敷でゆっくりできて嬉しいよ」


ダニエルも穏やかな優しい眼差しでセリーヌを見る。


「それにしても、ここに来るまで馬車の中でもずっとアルフレッド殿がセリーヌを抱きしめて離さなかったのだから、本当に愛されてるね」


少々呆れているようだが、アンネルシアの放った言葉に、一気に体中の血が駆け巡るのがわかるほどセリーヌは真っ赤になった。


「うふふ、ものすごく愛されてるわね」


ミオーネにからかわれて恥ずかしさに拍車がかかる。


熱くなった顔を冷まそうとパタパタと手で扇いでいる。


しかし、何気ない会話だけれどなんとなく違和感を覚えた。


何と言えるものはないが、どことなく皆の様子が固くなっているようなそんな雰囲気なのだ。


何か隠し事があるのではないかとほんの少し不安になるが、そんな思いを悟られまいと心の声を押し殺した。


「皆様、朝食の準備ができましたのでご案内致します」


タイミングよくリリアンが入ってきたので本心を悟られることはなく、皆で朝食の席へとついた。


「リリアンにも心配かけたわね」


今回は皆の世話係なので忙しく動き回っていたリリアンの顔をようやく見れて安堵する。


「お嬢様のお世話を侍女長にお任せしてしまって申し訳ございません」


申し訳無さそうに頭を下げるリリアンの顔が泣きそうに見える。


いくらセリーヌの専属侍女とはいえ、今回は皆のお世話をするのが役目なのだからそこまで気にする事ではない。


ましてや、いつものリリアンなら笑っていつまで寝ているのだと小言の一つもいいそうなところなのに。


「そんなに謝ることではないわ。皆さんのお世話をここに来るまで一人でやってくれてありがとう」


リリアンは今にも涙が零れ落ちそうなのを堪えながら、朝食の準備があると言って厨房へと下った。


(やっぱり何かあるのね…)


口元は口角を上げたまま、少しうつむき目を合わせないように下に視線を落とす。


(お兄様とアルフレッド様お二人でおばあさまの所へ行かれたのもおかしいわ。私が眠っている間に何があったのかしら…)


しかし皆が何かを必死に隠そうとしているのを無理やり聞く事もできず、他愛のない会話をしながら朝食を済ませた。




*****



「お前たちにこれから大事なことを話さねばならない」


司教はマクベスとショウキッド二人を教会の十字架の前に跪かせ、誰一人教会に近寄らせないよう結界を張った。


「これは我が先祖達から代々司教になったものに教えられる事。よく頭に刻み込むのだ」


ゴクリとつばを飲み込みマクベスは少し緊張している。


ショウキッドはというと、マクベスとは反対に怖いほど落ち着き払い目がギラギラと歪な光を放っている。


「これからこの国を我が一族の手に戻す時が来た。しかし、いつの時代にも必ず邪魔が入る。それはお前達も知っての通りあの偽の女神だ。お前達の母親を殺し、祖母をあのような状態にした憎き者」


ショウキッドは思い出したようにワナワナと拳を震わせている。


「北山の山頂にある湖の底に沈む神聖な箱が開くとき、それは我が一族がこの国の王となる時」


「あの湖の底に何か箱があるのですか?」


マクベスが前のめりになる。


「あぁ、災の箱と言われているが、それはあの偽女神が私達一族の邪魔をする為に嘘の話を流しているのだ」


「その箱の本当の中身は何なのですか?」


「それは開けばわかる。その物が湖から川に流れ出し、ルカニア国とエストルネ国に流れて行く。この2つの国は元々一つの大国だったのだが、その昔分裂してしまったのだ。しかし箱が開けばまた統一することができ、その大国の王として我らが君臨するのだ」


恍惚とした表情で語る司教を見て、マクベスの瞳にも希望の光が灯る。


「お前達の母親はそれを願っていたからこそ、命懸けで偽の女神と戦ったのだ。その願いをお前達が叶えてやりたいとは思わないか?」


ショウキッドは視線を上げその目には怒りが籠もっている。


「俺はそんな難しいことには興味はありません。でも、母さんの仇は必ず取ります」


「そうか、やってくれるか」


「俺ももちろんやります」


「頼んだよ、私の可愛い息子達」


二人の肩に手を置き、その顔は相変わらず口元だけが笑っていた。




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