64 野薔薇のプロポーズ?
すっかり意気投合したセリーヌ達はお互いの幼い頃の話や好きな食べ物、顔を赤らめながら恋の話で盛り上がっていた。
気づけば王都からずいぶん離れたが、それでもまだ目的地へは遠い。
徐々に日が沈みかけてきたので、この辺りで宿を取ろうと小さな街に立ち寄りこの日はここに留まり明日また移動することにした。
皆目立たぬようにできる限り地味な服装を選び、セリーヌとミオーネもほとんどお化粧をせずにいる。
しかし、どんなに地味な装いにして貧相に見せようとしてもその美しく高貴な風格は隠せない。
皆で歩いているともの凄く目立ってしまうということで二手に分かれて行動することにした。
「ダニエル、ミオーネ、アンネルシア殿、シモンで宿を探してくれ。僕とセリーヌとリリアンで食事が出来るところを探そう」
アルフレッドは髪の色も目立つのでフードを被りできるだけ顔も見られないように隠した。
ダニエル達と分かれセリーヌとリリアンと共に皆で食事が出来そうなところを探す。
いつの間にかアルフレッドの上を王家の鷹が飛んでいる。
連絡手段としてサイラスが寄越してくれたらしく途中馬車に追いついたようだ。相変わらずのサイラスの仕事ぶりにセリーヌが感心する。
「サイラス様はいつもながら本当に細かな所まで手が行き届く素晴らしい執事ですわね」
セリーヌの言葉にリリアンも何度も頷く。
アルフレッドにとって、サイラスは生まれた時からいつも側にいたのだ。
優秀であることはもちろんわかっていても、これが当たり前のことだと思っていた。
(…たまにはサイラスにも土産を買っていってやろうか)
そしてレオナルドには半ば強引に仕事を押し付けて来たのを思い出し、レオナルドの分も忘れないようにと頭に入れた。
「さて、皆で食事が出来るところを探さねばならないが…できればあまり目立ちたくはないな」
「そうですわね、皆でゆっくりお食事ができると良いのですが、この街は外にテーブルや椅子が置いてある所が多いですのね」
小さいが活気のある街だ。旅人と思われる者と何人もすれ違う。
セリーヌ達のように旅の途中に立ち寄る場所でもあるのだろう。
「店はあるがどこも外に出されてあるのだな。この街の人間に聞いてみるか」
「それはいいですね!」
ちょうど目の前にある花屋の店主に静かにゆっくり食事ができるところはないかと話しかける。
「この辺の店は今はどこも同じ造りだよ。旅の人が多いのは街としては活気があって良いけど、沼がある方から来ると泥だらけだし、旅人同士酔って喧嘩して暴れて店を壊された事もある。後始末も大変だからね…」
なるほど被害を最小限に抑えるために考えた策なのだろう。
「そうか、静かに食事ができればと思ったのだが」
「室内で飲み食いできるバーは一軒あるが、悪いことは言わないあそこはやめときな」
口に手をあててヒソヒソと花屋の店主が忠告する。
「何かあるのか?」
「噂だが、あそこは何やら良からぬ輩が出入りしてるようだ。危ねえ取引をしてるとか、怪しい薬を売ってるやつがいるとか。こんなに可愛らしい嬢ちゃん達連れて行くところじゃねえよ」
良からぬ噂がある店と聞いてしまっては王太子として見過ごせないが、花屋の店主が言うようにセリーヌ達をそんな所に連れて行くわけにもいかない。
「昼間は良い街なんだけど、夜になるとこの辺の雰囲気もガラッと変わって危なくなる。静かに食べたいなら、宿の部屋で食べたらいい」
あそこのパンが美味しいとか、あの肉屋は肉の焼き加減が絶妙だとか親切に教えてくれた。
教えてくれたお礼に花を買おうと、アルフレッドはピンク色の野薔薇を一本選んだ。小さな薔薇が幾つか寄り添っていて可愛らしい。
それをセリーヌにとその場で渡そうとすると店主がサービスだと言って茎を短めに切って手をかざすと、ガラス細工のように固まりキラリと光っている。
「まぁ!素敵!それはどんな魔法なのですか?」
セリーヌは目を輝かせて店主に聞くと、嬉しそうに秘密だよと言いながら「ふふん」と鼻を鳴らす。
「これでこの薔薇が萎れることはない。ずっと永遠に咲いているから何十年たっても同じまま、いつでも今日の事を思い出せるよ」
と言ってアルフレッドに手渡す。
「髪飾りにもできるから着けてやりなよ」
と少々お節介な店主だが憎めない。
そうかと受けとったアルフレッドがセリーヌの編み込まれた後側の髪にそっと挿した。
二人の様子にリリアンも今日のセリーヌの髪を編み込みにしておいて良かったと嬉しそうに見守っている。
「ありがとうございます…」
とセリーヌは照れながらもお礼を言う。
アルフレッドは優しい眼差しでほんのり紅く染まったセリーヌの頬を指の背でそっと撫でた。
すると、どこからともなく拍手が沸き起こり、気づけば周りには人だかりが出来ていた。
「兄ちゃんおめでとう!プロポーズ成功だな!」
「おめでとう!」
「花屋の親父の魔法久しぶりじゃないか?良かったな!」
あちこちから拍手と祝福の声をかけられる。
(えっ?なに?プロポーズって?)
困惑しているセリーヌに店主も拍手をしながら、この魔法は特別な時にしか使わないもので最近はプロポーズしたいからやってくれと頼み込まれることが多くなり、いつの間にかプロポーズの定番になっていると教えてくれた。
「最近は歳のせいか自分でも上手く使えなくなっていたんだが…なぜか今日は気分もいいしできる気がしたんだ」
自分の手を見ながら、まだまだ俺もいけると店主も嬉しそうだ。
幸せな空気に包まれ、それにあやかろうと次々に花が売れていく。
「いやぁ、あんた達に会えたこと女神様に感謝するよ!」
そう言って店主は客の対応に追われていった。
「なんだか目立ってしまいましたわね」
「うん、とりあえずここを離れよう」
三人は静かにその場を離れた。
「まぁ、プロポーズはとっくにしているのだけどな」
歩きながらボソリと呟くアルフレッドの声は街の音に消えていった。
その内鷹が大きく旋回を始め東の方へ向かって飛び始めた。
「ダニエルが笛で呼んでる。宿が見つかったようだな、行ってみるか」
こうして三人はひとまず鷹の飛んでいった方向へと向かった。




