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6 懐かしい夢


お城から屋敷に帰ってくるなりセリーヌは自室のお気に入りの長椅子に寝転がった。


足を投げ出し両手を広げてとても淑女とは言えない姿である。


「なんだかすごく疲れたわ…」


(サンドラ様もアルフレッド様も話やすい方でよかった。お父様達への報告は夕食の後でいいわよね…こんな姿お母様に見られたらお父様より怖いお顔になるかしら)


ふふっと笑いながらだんだんと深い眠りの世界に引き込まれていった。



「…リーヌ……セリーヌ」


「んん…うーん…ダニエルお兄様…」


「セリーヌ、こんなところで寝ると夜また

熱が出てしまうよ」


「私いつの間にか寝てしまったの?」


くすくすとダニエルが笑いながら体を起こしてくれる。


北の領地ノエールのマルグリット伯爵邸から少し歩いたところにある高台に出ると広大な茶畑が目の前に広がっている。


そよそよと柔らかい風が気持ち良くてセリーヌは度々ここで居眠りをしてしまう。


ダニエルがノエールに来ている時にはこのお気に入りの場所に本とお菓子を持って来るのがお決まりになっている。


「ダニエルお兄様はこんな気持ちの良い所で眠くならないのですか?」


「確かに気持ちが良いけど僕まで寝てしまったらセリーヌに何かあっても気づかないじゃないか」


「私の為に起きていらっしゃるの?」


「そうだよ」


そうして幼いセリーヌの髪を撫でるダニエルの温かい手がセリーヌは大好きだった。


「ダニエルお兄様は王子様みたいです」


「そんな事はないけど、セリーヌの王子様なら喜んでなるよ」


(あぁこれは昔の夢を見ているのね。そうだわお兄様は昔よくこうして髪を撫でてくれたのよね)


「もう日が暮れますね」


「そうだね、僕はこの夕陽が沈みかけている時が一番好きなんだ」


「私も大好きな色です」


「ここも綺麗な空だけど、海沿いにある岬から見える夕陽も綺麗なんだ」


「海を見たことがあるのですか?」


「うん、そうかノエールは山に囲まれていて海はないからセリーヌはまだ海を見たことがないのだね」


「湖よりもっともっと大きいと本で読みました。私も海と海に沈む夕陽を見てみたいです」


「そうだね、湖よりもっともっと大きいよ。僕のお気に入りの場所があって、そこから見る夕陽がとても綺麗なんだ。セリーヌがもう少し大人になったら教えてあげるよ」


「私そんなに子供じゃないですわ」


「ははっごめんごめん、そうだねかわいいお姫様」


暗くなるといけないとダニエルに手を引かれて家路についた。


まだセリーヌが幼かった頃の懐かしい記憶だった。



(懐かしいわね…私が8歳くらいだったかしら。昔はよくお姫様って言ってくれてたな…)


ゆっくり目を開けると外は真っ暗闇。

眠気まなこで椅子のふちを掴もうと手を動かすも、サラサラと手触りのいい感触が続いている。


「んっ……うん?」


(いつの間にベッドで寝ていたのかしら)


どうやら侍女のリリアンが運んでくれたようだ。


「しっかり寝衣も着てる」


よほど深い眠りについていたのだろう。


目が覚めた途端にお腹の虫が大きく鳴いた。


「いやだわ、目が覚めたとたんお腹が空くなんて」


とはいってももう皆寝ている時間だ。どうしたものかと考えているところに誰かが扉を叩く。


リリアンかしらと開けるとそこには両親が揃って立っている。


「お父様、お母様まだ起きていらしたのですか?」


まさか両親がこんな夜中に起きているとは思わない。


「そろそろお腹すかせて起きる頃かと思って来てみたらやっぱりね」


二人は顔を合わせてクスクスと笑っている。


「そんなに食いしん坊ではありません」


「でもお腹すいているだろう?」


「それは…まぁ…」


「夕食食べてないんだから少し食べなさい」


とパンと温かいミルクを持ってきてくれたのだ。


やはり子煩悩は隠せない父である。


「それにしてもどうしてこんな時間にお二人で?」


「あぁ、あまり急かすつもりはなかったがやはり王太后様との話をきかせて欲しい。お前がこんなに寝てしまったのはよほど疲れていたのだろう?」


「はい…お夕食の後でご報告しようと思っていましたけれど、気づいたらベッドでした」


「お前がこんな風に気を失ったように寝てしまう時は大抵ものすごく魔法力を使って消耗した時だ。それと同じくらいの何かがあったのではないのか?」


(うーん…いざ話すとなると何からどこまで…)


「セリーヌ、言いにくいことがあるならそれはまず置いておいていいのよ。言えることから話してみて?」


「はい…」


さすがは母親である。


セリーヌはまず王太后サンドラ様は北の魔女一族を知っている事やセリーヌの魔法力の高さを身を持って感じたと言っていた事を話した。


「そうか…あの方自身が高度な魔法を使える魔女だと言うのは本当なのかもしれないね。もしかして呪いか何かの話もあったか?」


呪いと言う言葉にギクリとした。


「あったのね…やはりあの噂は本当なのかもしれないわ」


「噂ってどんな噂なのですか?」


「うん…サンドラ様はある魔女に寿命が早まる呪いをかけられていると言う噂があってね…」


治癒魔法をかけたとき、白髪の老婆から赤髪のマダムへと変わったのはそのせいなのだろう。


「それであの時…」


助けたときに姿が変わった事を二人に話した。


そしてその呪いを抑える唯一の薬がある事、その呪いを治癒魔法で抑えた事も。


「なるほど、それでセリーヌに興味をお持ちになったのか」


確かにそれは興味を持たないわけがない。


(でも、それだけではなかったと思うのだけれど…)


「セリーヌは何が気になっているのかしら?」


「お母様、私の心を読まないでくださいませっ」


「ふふっ、ついね」


「サンドラ様はそのように私の治癒魔法の為だけにお招きくださったわけではないと思うのです。とても明るくて太陽のような素敵な方でした。うまく言えないのですが、噂のような怖い方とは思えません」


「そうか…まぁ噂には尾ヒレがつくものだしな」


「そうね、実際に会ってお話したセリーヌがそう思ったなら怖い人ではないのでしょうね」


あんなに警戒していた二人が根拠もないのに信じてくれたことが何だか大人として認められたようで嬉しくなる。


「ええ、きっと私達が知らない事がまだまだあるのではないかと思います」


「そうかもしれないな。だとしても、ここは慎重にいかなければ。きっとまたお茶会のお誘いもあるだろう。領地の母が近々王都まで来ることになったから相談してみよう」


「お婆様いらっしゃるのですね!」


セリーヌが歳を取るとこうなるだろうと思うほど似ている祖母は北の魔女一族を束ねる長である。


北の魔女といえばこの人と、誰もが知る伝説の魔女なのだ。


セリーヌが飛び抜けた魔力をコントロールできるよう教えたのもこの祖母である。


セリーヌは優しくて強いこの祖母の事が大好きなのだ。


「セリーヌは淑女としてどれだけ成長できたかお祖母様にお見せしなくてはね」


「うっ…は…はい…」


「ふふっ、それで王太子殿下とはどんなお話ししたのかしら」


からかうように言われて咄嗟に赤くなる。


その横で赤の魔王の目がつり上がってきた。


「お母様、変な言い方しないでくださいませっ!シモンも一緒でしたし、別に他愛のないお話です!お父様もお顔が怖いですわっ」


顔が怖いと言われ一気にショボくれる父。


「あらそう、他愛のないお話ができる仲と言うことなのね」


なぜだか嬉しそうなキャサリンの言葉に首を傾げる二人であった。


(アルフレッド様たちとダニエルお兄様を探す話は内密に動くようだから見つかってからの報告でもいいわよね)


父が持ってきたパンと温かいミルクを飲んだらまた眠気が襲ってきたセリーヌはおやすみの挨拶をし眠りについた。



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