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52 王太后サンドラと王妃エリザベート


「セリーヌ、お目覚めね」


王太后サンドラに呼ばれたセリーヌはサイラスの案内で城の裏側にあるサンドラ専用の庭園にやってきた。


優雅にお茶を飲む姿を見ると、そんなに前の事ではないのに以前のお茶会を思い出してほんの少し懐かしいような気持ちになる。


「サンドラ様、この度は本当にお世話になりました」


胸に手をあて感謝を伝える。


「いいえ、私は何もしていないわ。それよりずいぶんスッキリした顔をしているじゃない?何か良い事でもあったのかしら」


うふふと笑いながら楽しそうに言っている所を見ると、何だか見透かされているようで恥ずかしくなる。


「なっ、何もないですわっ」


ドギマギとしてしまうと何かあったと認めているようなものだ。


「そう?まぁここに来る前何があったか深くは聞かないわ。あなたとこうしてまたお話ができる事が本当に嬉しいのよ」


やはり見透かされているようだ。


セリーヌはほんのり顔を赤くしながらも平常心を保とうと何とか耐えた。


「さあさあ、そんな所に立っていないでこちらに座って」


「ありがとうございます、サンドラ様」


サンドラに促されて向いに座りお茶を出される。


「ところで、セリーヌはアルフレッドと将来を誓いあったのよね?」


あまりに突然でヒュッと息を吸い目を丸くしたまま返す言葉が思い浮かばず固まる。


幸いにもお茶を飲む前だったので醜態を晒さずにすんだ事は幸運であった。


「あら、嫌だわ私ったらまた唐突だったわね」


(あっ…えっ…えっ?!)


心の中はパニック状態だ。


セリーヌの混乱をよそに今度は王妃エリザベートがやってきた。


「あら、セリーヌ!まぁ、目覚めたと知らせは聞いていたけれど、こんなに早く会えるなんてっ」


淑やかに歩いているようで小走りかと思う速さで来た。


王太后と王妃二人を目の前にしてパニックどころではない。


挨拶をしようと立ち上がると勢いがつきすぎて椅子を倒し、テーブルにぶつかったせいでカップや皿をガチャガチャといわせてしまうという淑女にあるまじき失態をしでかした。


しかし、サンドラもエリザベートもクスクスと楽しそうにしているので気を悪くしたわけではなくホッとする。


今にも母キャサリンのため息が聞こえてきそうだ。


「お見苦しいところを申し訳ございません」


(あぁぁぁ…どうして私は…)


「うふふ、いいのよ気にしないで。急に来てごめんなさいね」


「いいえこちらこそ、急にお城にお邪魔してしまって…」


「アルフレッドが連れてきてしまったのでしょう?いつも冷静沈着なあの子にしては珍しいわね」


「よほど離したくなかったのでしょうね」


二人は和やかに話しているが一体何をどこまで知っているのかと問いたいところだけれど、知ってしまうのも怖い気がする。


「それでね、先程の話だけど」


とサンドラが一番聞かれて困る話に戻しエリザベートに経緯を話している。


「私もその事は聞いておりますわ。アルフレッドがセリーヌに求婚したと。だからセリーヌがお嫁に来るのを楽しみにしていますの!」


(えぇぇぇーーー???)


確かにずっと側にいて欲しいと言われ、はいと返事もした。もちろんアルフレッドの伴侶になる事を夢見ていたが、現実には難しいだろうと思い悩んでもいた。


がまさか話がそこまで広がっていてそんなに受け入れてもらえるとは思いもせず、展開の早さに最早セリーヌの思考は追いつかない。


「そうよね、私も待ち遠しいわ。でも問題はあのマルグリット伯爵と兄ロナウドよね」


話はどんどん二人で進み当のセリーヌは置いてけぼりになっている。


「セリーヌを溺愛しているそうですわね。でもうちのアルフレッドがそれくらいで諦める事はありませんので、ご安心下さいお義母さま!」


(なっなっ何のお話ですか???)


「ふふっ、セリーヌ驚いてるわね」


「あの…もう何と申し上げて良いのか…私は何て事ない伯爵家の娘ですし、淑女らしさもまだまだで…反対されるものと思っており…」


目が回るような二人の勢いに思わず本音を漏らした。


「そう、不安だったのね」


サンドラが優しく問いかける。


「あなたが眠っている間にアルフレッドが陛下と私にどれだけあなたの事を想っているのか話してくれたのよ」


エリザベートもその時の事を思い出しているのかどこか嬉しそうだ。


「以前からアルフレッドの雰囲気が優しくなったとあちこちから聞いてはいたの。それであの舞踏会でしょう。あの堅物なアルフレッドにもこんなに想える娘ができたのだと思うと嬉しかったのよ」


そう言われてセリーヌは舞踏会での事を思い出した。


(アルフレッド様…そういえば、私の事はどこまでご存知なのかしら…)


「大丈夫よ、あなたの事はクリスティアから聞いているわ。女神様の事とか」


「そうですか…何もかもご存知なのですね」


「勘違いしないで欲しいのだけど、あなたが女神様の生まれ変わりだから歓迎するわけではないわ。もちろん国として護らなければいけない存在には違いないけれど、陛下も私もその為に王族との婚姻を強制する事は望んでいないの」


セリーヌだからよと嬉しそうに話してくれた。


(こんな風に言って頂けるなんて…)


「とはいえ、舞踏会の事はあの場に残っていた者から各方面に伝わってしまったわ。だからあなたは今まで以上に身の回りに気をつけなければいけない」


「そうね、それは私もクリスティアも今後ウォルドナー教会がどう出てくるのか、他にも影響が出るだろう事も想定して対策を考えているわ」


未だ現実の状況に慣れないセリーヌは、混乱しているが少しずつ自らの置かれている状況が見えてきた。


「サンドラ様、私をクリスティアおばあ様に会わせていただけないでしょうか?」


「ええ、もちろんよ。クリスティアからもあなたが目覚めたら呼んでほしいと言われているの」


「ありがとうございます!」


夢で会ったけれど、やはり現実の世界で会えるのは嬉しい。


「ひとまず今日のところはあなたの目覚めを祝って、明日改めてその席を設けるわ」


「わかりました。サンドラ様にはいつも良くして頂いて本当に感謝しております」


「いいのよ、これからは私の孫娘だと思っているから遠慮なんかしないで頂戴」


セリーヌの花嫁衣装は私も一緒に選びたいわとエリザベートもその様子を想像してウットリしている。


(何だか話が早すぎて追いつかないわ)


セリーヌが実感するのはもう少し先になりそうだ。


考えることは山積みだけれど、それは一旦横におき二人に勧められるままに心置きなく菓子を堪能した。


しばらく談笑していると、サイラスがそろそろセリーヌを帰すようにとアルフレッドからの指示を受け迎えに来た。


「あら、夕食も一緒にと思っていたのに…」


エリザベートが名残惜しそうにしているが、アクシデントとはいえ城に連れてきてしまったアルフレッドとしてはこれ以上伯爵の機嫌を損ねたくないというところだろう。


「そう、私明日は公務で動き回っているから会えるのはまた今度ね」


今度は私のお茶会に招待するわとセリーヌの手を握って別れを惜しんだ。


二人に別れを告げ、サイラスと共に帰りの馬車へと向かった。


「セリーヌ様、殿下はこの後来客もあるので馬車でお送りいたしますね」


「サイラス様にも何から何までいつもありがとうございます」


できる執事サイラスは、できすぎるが故に空気のような存在になりがちだ。


しかし、主のアルフレッドとセリーヌだけはそのサイラスを労ったり感謝の言葉をかけてくれる。


私などの事はどうぞお気になさらずと言うものの、やはり嬉しいものだ。


(お二人のために私は生涯尽くします)


と心に誓うサイラスであった。


馬車へと辿り着くとそこにはアルフレッドが待っていた。


「アルフレッド様!お忙しいのに待っていてくださったのですか??」


「ああ、帰る前に少しでもセリーヌの顔を見たくて」


と言いながら向けられる笑顔に心臓を撃ち抜かれる。


クラっと倒れそうになるとアルフレッドが抱きとめる。


体が密着するとさらにドキッと心臓が鳴る。


(私の心臓はいくつあっても足りないわ…)


「ははっ、僕もだよ」


とセリーヌの手を取り自分の胸に当てる。


(本当だわ…心臓の音がすごく速い)


セリーヌも見つめ返すとほんのり頬が赤くなったアルフレッドの熱い視線とぶつかった。


完全にサイラスや他のメイド達の存在を忘れているようだ。


こんなところで何が始まるのかと、若いメイド達は頬を赤らめながらしっかりと目を開いて二人の事を見ている。


見かねたサイラスが大きく咳払いをし、メイド達には戻るよう指示しアルフレッドを諫める。


「殿下、そろそろお時間ですので」


そう言われて渋々セリーヌから体を離した。


「すまない、勝手に連れてきてしまったのに送れなくて…」


「いえ、お気になさらないでください。サンドラ様と王妃様とお話でたのも嬉しかったです。それで、明日またこちらに伺う事になりました」


「そうか、クリスティア殿だな」


「はい。それに…色々と王妃様からもお話を伺いまして…」


モジモジとしていると検討がついたようだ。


「その話はちゃんと時間を作って話したいから少し待っていて欲しい」


真剣な眼差しがアルフレッドの誠実さを物語っている。


「わかりました、お待ちしています」


そう伝えて馬車に乗り込み座ったところでフッと影になった。


顔を上げると、アルフレッドの顔が目の前にある。扉に手をかけ体半分が馬車に入っている状態で、不意打ちでキスをされた。


「本当は帰したくないけど、今日はこれで我慢しよう」


と言い残して降り、御者が扉を閉め馬車は走り出した。


放心状態で固まっていたセリーヌは我に返り恥ずかしさで一人のたうち回る事となった。


(アルフレッド様は私の心臓を止める気かしら!)


その後屋敷へついてからもセリーヌの心ここにあらずの様子に、伯爵のご機嫌がナナメになったことは言うまでもない。


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