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48 夢での再会


「セリーヌ、セリーヌ」


聞き慣れた優しく懐かしい声が名を呼んでいる。声のする方へ視線を移すとそこにはセリーヌの祖母クリスティアが立っていた。


「おばあ様、どうしてここに?」


「セリーヌ、意識が目覚めたのね。何度も呼びかけていたのよ」


そういえばここはどこなのだろうか。体がフワフワと浮いているような不思議な感じだ。


「あの…ここはどこでしょう?」


「ここはあなたの夢の中。私達北の魔女一族は16の洗礼を受けた後、夢つなぎと言ってお互いの意識だけで繋がる事ができるのよ」


「そんな事ができるのですか?!」


「本当なら洗礼が終わって一段落したら、私も王都の屋敷に行ってあなたに色々教えるつもりだったのよ」


クリスティアは未だ北山の湖に滞在しているようだ。


「そういえば、サンドラ様とおばあ様が繋がっていると聞きました。それに、おばあ様いつもより湖にいらっしゃる期間が長いように思うのですが何か今回の事と関係があるのですか?」


「そうね、あなたにはきちんと話さないといけないわね。確かにサンドラ様とは昔からお付き合いがあるの」


なるほど、時々サンドラが遠い目をして誰かと重ねて見ているような気がしていたのはその為かと納得した。


「まず一つ教えて欲しいのだけれど、あなたは女神様の存在を感じているの?」


「はい、女神様は私の中にいると、私は器だと仰いました」


「そう…」


「おばあ様に聞きたいことはたくさんあるのですが、それよりミオーネお姉様やアルフレッド様はご無事なのでしょうか?」


「フォンテーヌ公爵家のミオーネ様は目を覚まされて怪我もなくお元気だそうよ。そしてアルフレッド殿下も無事だから安心して」


それを聞いてホッと胸を撫で下ろした。


「それで、私はどうなったのでしょう?意識だけと言うのは…死んでしまったのですか?」


「いいえ、あなたは今深く深い眠りについているの。恐らく目覚めた力に体が耐えきれなかったのね」


そう、思い出してみれば体のあちこちから切り傷ができ血が滲んでいた。


「まだ生きているのですね!」


「そうね、でもいつ目覚めるかはあなたの心と体が回復するまでわからないわ。回復が遅ければ、眠ったままになる可能性もあるのだけど」


「そんな!この先ずっと眠ったままなんて…回復と言ってもどうしたらいいのです?」


「特別な薬草で作った薬があるから今王都まで運んでもらっているところよ。本当は私が直接行って治癒魔法をかけたいのだけど今はまだここを離れられないの」


「ありがとうございます、おばあ様!」


さすがは北の魔女一族の長である。


「ただ、今回あなたが退けた呪いはかけた相手の増悪の力が強すぎてあなたの心のダメージがかなり大きかったの。それでもあなたはよく耐えたわ」


あの恐怖心を煽られる不快な呪いを思い出してゾクリとする。


あの時アルフレッドの支えがなければきっと呑み込まれていただろう。


「アルフレッド様のおかげですわ」


「そのようね、アルフレッド殿下もかなり高い魔力をお持ちだからこそできたのだと思うわ。常人では命はなかったはずよ」


改めてすごい方なのだとわかる。


「アルフレッド様もご無事で良かった…」


「ふふっ、本当に殿下の事が大事なのね。殿下もあなたが意識を失ったあと、ご自分もかなり魔力を消耗していたはずなのにあなたに少しでもその魔力を分けようとしていたみたいね」


「そんな事ができるのですか?」


「古い文献には、稀に相性が良い相手には自分の魔力を相手の体に流すことができるとあるわ」


「知りませんでした…私はまだまだ勉強不足です」


「普通はできない事なのだし、その文献自体も特別な物だから知らなくて当然よ」


セリーヌはふと魔力を分ける方法が気になった。


「どうやって相手に分けるのですか?それができるなら、私も魔力を分けて差し上げることができるのですね!」


「そうなるわね、相手と口づけてそこから自分の力を注ぎ込む感覚だそうよ」


「相手と口づけて…くっくち…?!」


ふむふむと聞いていたが、冷静にその状況を思い浮かべてしまい、セリーヌの顔がゆでダコのように真っ赤になった。


くすくすと笑う祖母は何だか楽しそうだ。


「おっ、おばあ様!私をからかったのですか?!」


「あら、私は文献にある通りに教えたのよ。アルフレッド殿下にも」


「なっ、なんてことを!!もしかして…もしかして…皆さんの前で…」


頭から湯気が出そうだ。


「そのようね、私はサイラス殿から聞いたから」


なんという事だ。あの場には父や母もいたではないか。


このまま目を覚ますのがとんでも無く恥ずかしくなる。


「ふふっ、あなたも一つずつ大人になっているのね」


と妙なところで感心している。


「おっおばあ様、それはもうわかりましたから!それより、ミオーネお姉様が王太子の婚約者としてあの場にいたのも何か関係があったのですか?」


祖母クリスティアは柔らかな表情から一変して厳しい顔つきになった。


「ええ、そうよ。ミオーネ様はあなたを護るためにあの場にいたの。あなたに目を向けさせないためにミオーネ様を危険な目に合わせてしまった…私にも責任があるわ」


クリスティアは苦しそうな表情で俯いている。


「そうだったのですね…皆さんがとても気遣って下さって…私は本当にたくさんの方に護って頂いていたのですね」


(でも…ミオーネお姉様を危険な目に合わせてしまったのは私の方ね…命が助かって本当に良かったけれど…)


「おばあ様…こんな事を言うべきではないと思うのですが…どうしても考えてしまいます。どうして私に教えて下さらなかったのですか?」


言われるだろうと予想していたのか、考えるまでもなくクリスティアは答える。


「あなた思っていることが顔に出てしまうでしょう。こんなに分かりやすいとすぐにでもあなたが女神様の生まれ変わりだとウォルドナー教会を筆頭に悪いことを考える者たちに捕まってしまうわ」


なるほど、何も言えない。


言われてみれば、誘拐犯のショウキは全くセリーヌが女神だと疑っていなかった。


もし自分が女神の生まれ変わりだと知っていたらすぐにバレてしまっただろう。


「私…もう少し顔に出ないように訓練します!」


「そうね、そろそろ必要ね」


「おばあ様、私目を覚ますことは出来ますでしょうか…」


「あなた次第よ。今は湖の深い底の方にいるような状態だから、気持ちを強く持って、誰かの気配を探るようにして水面までゆっくりと浮上していけばきっと目覚めるわ」


「わかりました、やってみます!」


「ええ、今度は目を覚ましたら会いましょう。その時はサンドラ様にお願いしてみて」


そう言ってクリスティアの姿がすっと消えていった。


セリーヌは一つ深呼吸をして、アルフレッドの気配を探すために目を閉じて集中する。


微かにあの薔薇園に咲いていたピンクの薔薇の香りがした気がした。



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