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47 女神降臨


「えっ?」


弾かれたように顔を上げると、そこにいるはずの人が誰もいなくなり、目の前には腰より下まであるピンク色の長い髪に赤い瞳がこの世の者とは思えない美しい人が立っていた。


神々しい。なぜだかこの人こそが女神だとわかる。


セリーヌは驚きに目を見張っていると、音もなくスッと近くまできた。


『我は祈りの女神、今この時を持って目覚める。お前の体を器としこの世の平安を祈り護る者。器であるお前の力を開放する』


「女神様…」


信じられない状況なのだが、なぜだかストンと腑に落ち理解ができる。


体中の血が物凄い速さで巡っているような、力が漲るようなそんな不思議な感覚になる。


そして、首の後ろが焼けるように熱い。


が、今はそんなことよりもミオーネの命だ。

「女神様!ミオーネお姉様を助けて欲しいのです!お願いします!」


セリーヌは懇願する。


『我は常にお前の中にいる、我の力はお前の力。己の成すべきことをせよ。そして護りと共に破壊もあることを心しておけ』


その言葉を言い終えると女神は消え、いつの間にか元の光景に戻った。


視線をミオーネに向けると、もうほとんど動かずお人形のようだ。

皆が涙を流し、悔しさに唇を噛みただただこの状況を見守っている。


「サイラスはまだか?!」


アルフレッドはサイラスに王太后にこの事を知らせるよう走らせていたがまだ戻らない。


じっとミオーネの顔を見ていたセリーヌは


「ミオーネお姉様。大丈夫、私が助けますから!」


皆の視線がセリーヌに集まる。


兄ロナウドはセリーヌの肩を掴み止める。


「セリーヌ!これは魔力で引き抜こうとするとその者に呪いが取り込まれるのだろう。これは恐らく術師の命を懸けた呪い。少しでも間違えたらお前の命が取られる。それほどに強いものだとわかる。だからおばあ様の言葉を待つしかない…」


「おばあ様ですか?」


「ああセリーヌ、君のおばあ様であるクリスティア殿と王太后が繋がっている。そして今サイラスを王太后の所へ走らせている。だからもう少し…」


セリーヌの横に膝を付く。


「そんな事が…」


そのサイラスはまだ戻っては来ない。


一刻の猶予もないほどにミオーネは衰弱している。


この状況でこの呪いの剣を抜けるのはセリーヌしかいないだろう。


しかし、それによって代わりにセリーヌが命の危険に晒される。そう思い誰もそれを口にはしない。


(私ばかりが皆に守られていたなんて…これでは何のための力かわからないわ!)


「皆さん私のことを思って、護ってくれていたのですね。それに気づかず私は自分のことばかりで恥ずかしいですわ」


そしてまたミオーネの手を強く握る。


「私は大丈夫です!今ここでミオーネお姉様を助けられなければ私のいる意味が無くなってしまいます。ダニエルお兄様、ここぞという時まで力を温存しておいてと仰いましたね。それが今ですわ」


「セリーヌ、それはダメだ!そんな適当な事を言ってすまない。ミオーネは君を護るために今日ここに立っていた。その為に命を懸けている。それなのにその君が犠牲になったらミオーネに怒られてしまうし悲しむ」


ミオーネの顔を見る。本当にお人形のように美しい。


「アルフレッド様、私の首の後側を見て頂けませんか」


急に何を言い出すのかと不思議そうに見ていたが、何かに気づいたようだ。


「まさか…」


「ええ、私も先程わかりましたので自身では確認ができません。ですから…お願いします」


アルフレッドはゴクリと唾を飲み込み一拍おき覚悟を決めた。


セリーヌのサラリと美しい銀色の髪を中央から分けその首が露わになった。


そこには赤くくっきりとした5つの花びらが美しい花が咲いていた。


アルフレッドはそっと髪を元に戻し、セリーヌを後ろから抱きしめた。


「アルフレッド様」


「……どうして君なんだっ…女神なんて…もう…」


母キャサリンは両手で顔を覆い静かに泣き、それを父ロンベルクが抱きしめてキツく目を閉じて必死に現実を受け止めようとしている。


兄ロナウドは両膝を付き拳を強く握り唇を噛み締める。


「アルフレッド様、見ての通り私には女神様の力があります。ですから私にお任せください。そして信じて…」


そっとアルフレッドの腕に手を起き、なだめるかのように擦る。


「……っ、セリーヌ…僕はもう君がいなければ生きてはいけない…だからもし君に何かが起きても必ず助ける…この命を懸けても必ず…」


息苦しいほどにアルフレッドに抱きしめられ、こんな時だけれどまたこうして抱きしめて貰えるなんてと嬉しくて胸がギュッとなる。


「ありがとうございます、アルフレッド様。私もアルフレッド様が大好きです」


アルフレッドの腕にキュッと少し力を込めて想いを込める。


「では、アルフレッド様少し離れていてください。ダニエルお兄様も」


二人共自身の想いを飲み込んでセリーヌから、ミオーネから離れる。


ミオーネの手が少しずつ冷たくなり、胸の短剣は半分以上体の中へ入り込んでいる。


それでも微かに心臓が動いているのがわかる。


セリーヌはミオーネの手を握り顔を覗き込む。


「ミオーネお姉様、大好きですわっ」


そう言ってミオーネの手を下に起き、胸の短剣を両手で握る。

その途端、セリーヌの体を悪寒のようなゾクゾクとしたものが走った。


(気持ち悪い…でもこんなものに私は負けないっ!)


目をカッと開き、呪いの核となるものを取り除くため、呪文を口にしながらそこに集中する。


サンドラの時とはまた違う、ゾクリとするような憎悪の塊のような物凄い力に呑み込まれそうになる。


手から這い上がってくるそれはまるで毒蛇が巻き付いているかのよう。


このままでは呪いの毒蛇に侵食されていくのではないかという不安と恐怖心が湧いてくる。


(だめ…だ…呑み…込まれ…る)


黒い短剣はミオーネとセリーヌ両方の命を呑み込もうとしているかのように、びくともしないどころかセリーヌの肩にまで這い上がってきた。


集中したくても恐怖心が邪魔をして、集中させてくれない。


不意に後ろから手が伸びてきてセリーヌの手に重ねられた。


確認するまでもなく、それはアルフレッドの手だった。


「アッ、アルフレッド様?!」


「セリーヌ大丈夫だ。僕がついてる。自分を信じて」


不思議と恐怖心が無くなった。


「はいっ!」


(そうよ!ここで負けたら終わりなのよ!ミオーネお姉様とアルフレッド様の命は私が守る!!)


再び呪文を唱えながら集中する。すると少しずつ黒い短剣が動き出した。


セリーヌの首から汗が流れる。集中する。


皆が息を呑んで見守っている。


限界を超えるほどの魔力を放出しているため体が悲鳴を上げ始めた。


女神の力が目覚めたからといえ、器である体はまだ慣れていない。しかしそれでも壊れてしまいそうなほど力を込める。

手はガタガタと震えだし、腕があちこち切り傷のように切れ始める。


それをアルフレッドが全身で支えている。


(女神様…私に力を…)


セリーヌの手から目がくらむほどの眩しい光が発せられ辺りが光に包まれた。


カランっ…


何かが床に落ちる音がした。


光が消えると、ただの短剣がセリーヌの手からこぼれ落ちるように転がっている。


「私は…」


「ミ、ミオーネ…あぁミオーネ…良かっ…た…」


目を覚ましたミオーネはダニエルに強く抱きしめられて苦しい。


「ダニエル…私…生きてるの?」


「ああ、ああ、生きているよ」


ダニエルの頬を撫で現実か確かめる。


「あの…セリーヌ…セリーヌは?」


ダニエルは顔をミオーネの横に向けて涙を流している。


「え…」


横を見ると、横たわるセリーヌを膝に乗せたアルフレッドが肩を震わせながら目を閉じているセリーヌに口付けていた。


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