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35 甘い時間


「ダニエル!私あのお店へ行ってみたいわ!あっ、こっちもいいわね!」


キラキラと光るガラス細工や、いい香りのする紅茶のお店。今流行っている可愛らしい焼き菓子のお店等、若い娘が目を輝かせるような魅力的な物が所狭しと並んでいる。


ここは平民も貴族も入り交じる、王都でも一番活気のある通り。


天気も良く活気ある街の雰囲気にミオーネもはしゃいでいるようだ。


濃いブルーのドレスはミオーネのきめ細やかな肌をより美しく見せている。


シンプルな装いがかえってミオーネの美しさを際立たせてしまっている。


ダニエルは、はしゃぐミオーネを眩しそうに眺めずっと見ていたいと思ったが、ここで気を抜くことはできない。


「ミオーネ、久しぶりの王都だから気持ちはわかるけど、誰かに見つかったら大変だ」


「そうね、ごめんなさい。あなたとこうして街を歩けるなんて嬉しくて…」


可愛いことを言うミオーネの我儘を聞いてやりたいダニエルだが、ここで誰かに気づかれてしまっては元も子もない。


「いや、すまない。本当ならミオーネが行きたい所はどこへでも連れていきたいんだ。でも今回は少し街の様子を見るだけにしておこう」


「ええ、わかってるわ。つい身を隠している事を忘れてしまって…いけないわね。ダニエル、私の我儘を聞いてくれてありがとう。あなたがいてくれるだけで幸せよ」


手を握り見つめ合う美しい二人は身なりを平凡な物にしようともやはり目を引いてしまうものだ。


遠巻きに少女達が頬を赤らめながらチラチラと二人を見ている。


そんなことにも気づかないくらい二人の世界だ。


「僕もだよ。今日はあまり長くはいられないが、いつか何も気にすることなく堂々と街を歩けるようになったらミオーネの行きたいところは全部行こう」


ミオーネの顔がパッと明るくなる。


「ええ!楽しみにしてるわ!」


公爵家を出るまでは毎日を生きることに必死だったけれど、未来への希望を持てる幸せを噛み締めジワリと涙が浮かんでくるのをグッと堪えた。


帽子のツバで目は隠れて見えないが、それでもミオーネが今どんな顔をしているかダニエルにはわかる。


そんなミオーネの様子に堪らなくなり、手を引き公園の中にある大きな木の陰に隠れてミオーネを抱きしめた。


「ミオーネ、お願いだからそんな顔を他の人には見せないでくれよ」


「ダニエル?」


「僕はどうやら君の泣き顔に弱いみたいだ。抱きしめたくてどうしようも無くて冷静さを保てなくなる」


「ごめんなさい、何だか幸せすぎて…」


「僕の方こそすまない。どこにも寄らず街を見るだけといいながらこんな所にミオーネを連れてきてしまった」


「ふふっ、私は好きよ。ダニエルが感情的になるところ」


ミオーネは腕をダニエルの首に回し直して優しく抱きしめた。


「…まいったな…本当に…君には敵わないよ」


そう言って少し体を離し、帽子のツバを少しだけ持ち上げてダニエルはミオーネに口付けた。


木々の揺れる音、ダニエルの柔らかい髪、草花の匂い全てがミオーネの記憶に焼き付く。


(このまま時間が止まってくれたら…)


そう願わずにはいられなかった。


これから待ち受ける嵐に飲み込まれる事を無意識に感じとっていたのか…。


唇が離れおでこ同士をくっつけ合う。


これ以上暴走してはいけないとダニエルは必死にミオーネから体を離す。


まるで磁石を引き剥がすかのごとく重かったが…そこは常日頃から精神力も鍛えてきたダニエルだ。


ミオーネの両肩に手を起き、目を合わせた。


「ミオーネ、これから先どんな事が起こるかわからない。この平穏な日々のままいくことはないだろう。でも、覚えておいてほしい。どんな事が起こっても僕が君を助けるし味方だって事を」


真剣な眼差しに答えるようにミオーネは頷く。


「あなたにも覚えていて欲しいわ。私はあなたの味方でどんな時も想っているということを」


ダニエルも頷く。


「さぁ、あまり長居はできない。そろそろ屋敷に戻ろう」


「ええ。あっ、その前に一つだけ…」


そう言って少し背伸びをしたミオーネはダニエルの頬にキスをした。


一瞬固まるダニエルだったが、何とか理性を働かせ屈託なく笑いながら歩き出すミオーネを追いかけた。


傍から見れば恥ずかしくて直視できない光景も、この恋人達にとって甘い甘い時間となった。


帰り際にはマルグリット家の皆にお土産だけは買って行きたいと二人の意見が一致し、今流行りの焼き菓子を買って屋敷に戻った。



「お帰りなさいませ、ミオーネ様、ダニエル様」


リリアンと他の侍女達が出迎えてくれてすっかりこの屋敷の一員となっている。


「ただいま帰りました。これ皆さんにお土産なのでお茶の時間に出してもらえるかな。沢山あるから皆も食べてね」


「まぁ!私達の分まで!ありがとうございます!」


そこへセリーヌが飛んできた。


「お姉様、お帰りなさいませ!ダニエルお兄様も、街はどうでしたか?」


セリーヌは自分の事のように目をキラキラ輝かせている。


「久しぶりでついついはしゃいでしまったわ」


「今日は街の様子を見るだけだったからあまりどこにも寄れなかったけれど、楽しかったよ」


「楽しんで頂けて良かったですわ!あぁ、私もいつかミオーネお姉様とお買い物してみたいです」


「ふふっ、そうね私もセリーヌとお買い物したいわ。でもそれよりも、セリーヌは他に一緒に行きたい人がいるのではなくて?」


「そっ、それはまた別のお話です」


赤くなったセリーヌを見てリリアンもクスクスと笑っている。


そこへキャサリンと伯爵が大階段を降りてきた。


セリーヌは二人がお土産を買ってきてくれたことを報告しようとしたが、なんだか顔が強張っているように見える。


「お父様?お母様…どうされたのですか?」


二人は一度顔を見合わせた後、伯爵がミオーネの前に立つ。


「ミオーネ様、先程フォンテーヌ公爵家からお使いの方が来られました。公爵様からの言伝でミオーネ様を返してほしいと…」


突然の事にミオーネの思考が停止した。



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