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33 執事サイラスの願い

王太子専属の執事であるサイラスは、主であるアルフレッドが最近メイド達の間で優しくなったと話題になっていることを素直に喜べないでいた。


今まで人前に立つ時は王族らしく微笑む事はあったが、自然な笑顔を見せることなど皆無と言っていいほどなかった。


それが最近、いつも通りに給餌をしているだけでも「ありがとう」と優しく声をかけられたとか、ニコリと笑顔を向けられたとか、頬を赤らめて話しているメイド達の様子をよく目にする。


今まで女性に対しては不器用で、普段はまず口角をあげることはなく、ましてやありがとうと声をかける事などなかったのだ。


(紳士的な振る舞いができるようになったのは喜ばしい事なのだが…)


アルフレッドの様子が変わったのはセリーヌの影響であることを知っているサイラスとしては、この状況がセリーヌにも頬を赤らめるメイドにも申し訳ないような複雑な心境になる。


現に、アルフレッドが執務室にピンク色の小さなバラを飾るようメイドに言付け、指示通りに花瓶に差したバラを持ってきたメイドを見て「綺麗だ」と微笑んだものだから、バラの事だとわかっていても心臓を射抜かれたメイドが倒れそうになった所を間一髪サイラスが抱きとめた。


(明らかに殿下はセリーヌ嬢を思い出していたのだろうけど…あの美しい顔であんな笑顔を向けられたら…)


倒れかけたメイドを不憫に思いながらも、アルフレッドには少々気をつけて貰わねばと気を引き締める。


ベネディクト侯爵家のヴィクトリアを始めとして、ミオーネがいなくなった後その座を巡って貴族感で熾烈な争いが行われているのだ。


そしてその婚約者候補の中には他国の姫も名が上がっている。


心の内を隠すのが得意なサイラスでも思わずため息をついてしまいそうになる。


先日マルグリット伯爵邸のバラ園で二人が口づけているところを見たサイラスは、まるで絵画を見ているようだと思った。


神の芸術品と評されるアルフレッドと妖精のような儚く美しいセリーヌの姿がこの世のものではないようなとても尊い瞬間だった。


バラの香りとともに風に流れるセリーヌの銀の髪が、セリーヌを抱きしめるアルフレッドを包み込んでいた。


(なんという美しさだ…)


覗き見るなど品のない事は好きではないが、その光景から目を逸らすことができなかった。


それ以来、アルフレッドとセリーヌが運命で結ばれていると確信したサイラスは何としてでも二人が結ばれて欲しいと、毎朝起きたとき、夜眠りに着くときに女神に祈るのであった。


しかし…


(セリーヌ様はサンドラ様や陛下にもとても気に入られているが、こと王太子妃ということになるとやはり身分が…)


現実はそう簡単ではなさそうだ。


ミオーネの事もまだはっきりとさせた訳でもなく、ライバルが他国の姫や身分の高い貴族令嬢では勝ち目はない。


アルフレッドの幸せを思えばなんとか二人を添わせたいという思いに耽りながらサイラスはアルフレッドの執務室へと向かった。




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