32 みんなの笑顔
マルグリット邸へと帰ってきたセリーヌは皆と無事を喜び合い、ほっとしたところで今回の犯人の事を話して聞かせた。
アルフレッドは執務があるからとサイラスに催促され名残惜しそうに渋々帰っていったのだった。
帰り際、アルフレッドとセリーヌの間にある甘い空気は誰もが気づいた事だろう。
セリーヌの手を取り口づけたのだから気づかない訳がないが。
すっかり二人だけの世界でアルフレッドの馬車が見えなくなるまで見送った後、皆の生温かい視線を感じたセリーヌは現実に引き戻されたようで顔から火を吹きそうなほど真っ赤にしていた。
ここにロナウドがいなくて良かったと肩を撫で下ろす者も少なくはなかっただろう。
そして城から帰ってきた伯爵とロナウドから詳細は明かされないがセリーヌの居場所を探すために国王陛下とサンドラ王太后にも協力してもらったことを知った。
「やはりウォルドナー教会が関わっていたのですね」
話を聞いたダニエルが難しい顔で何かを考えているようだ。
(あのお二人はウォルドナー教会の方たちだったのね…)
セリーヌは二人に対して憎む気持ちにはなれなかったが、この場でそれを口には出来なかった。
(皆をこんなに心配させてしまったのだからそんな事は言えないわね…)
「恐らくこれで終わりではないだろうな…」
伯爵は厳しい表情を崩さない。
キャサリンもその不安は消えないが、皆を不安にさせてはいけないと気丈に振る舞う。
「とにかく今回はセリーヌが無事に帰ってきて良かったわ。国王陛下とサンドラ様、そしてアルフレッド殿下には本当に感謝しなければ」
「そうだな、あの方たちの協力なしには助け出すことはできなかった」
二人は王家に対して感謝を口にし、セリーヌも深く頷いた。
しかし、ロナウドからは殺気のオーラが漏れ出ているように見えるのだが…
セリーヌを助け出したのが自分ではなくアルフレッドだったのが悔しいのだろう。
キャサリンの合図で少し遅めの夕食の席についた。
(皆の顔がまた見れてこうして食事ができるなんて…)
当たり前の光景が奇跡のように感じていつの間にかセリーヌの瞳いっぱいに溜まっていた涙がお皿に落ちた。
「セリーヌ?」
それに気づいたのは横に座るミオーネだった。
「あの…これは…何というか…本当に我が家へ帰ってきたのだと思ったら…」
えへへと笑いながら涙を拭う姿に皆も目頭が熱くなる。
侍女たちも目尻に指をあてている。
「そうね、では改めて乾杯しましょう!」
キャサリンの一声で皆の表情も明るくなり
、妻からの視線を受け止めた伯爵がグラスを持つ。
「それでは改めて、セリーヌが無事に我が家へ帰ってきた事を女神様に感謝して…乾杯!」
皆がグラスを掲げる。
いつもは表情を崩さないロナウドも優しく目を細めている。
いや、目を吊り上げることは度々ある…
物凄く貴重なロナウドの笑顔を見たシモンが、悶絶している心の内を必死に隠そうと冷静を装っていた。
それに気付いたセリーヌはなんだかその光景を見れる事も幸せだと思い微笑ましく見ていた。
「お父様、お母様、そしてここにいる皆さんにはご心配をおかけしました。こうしてまた皆の顔を見て美味しいお食事ができるなんて本当に幸せですわ。皆さんのお陰でこうして帰ってこれました。ありがとうございます」
胸に手を当てて頭を下げる姿は立派な淑女だ。
今までお転婆娘に散々手を焼いてきたが、そのセリーヌの成長が伯爵は嬉しくもあるが寂しさも感じて涙を堪えた。
それと同時に母であるクリスティアからワルドナー教会はセリーヌの存在に気づき、今後もセリーヌが狙われるであろう事を思い出していた。
(今はまだキャサリンにも言わない方が良いか…とにかく何としてもセリーヌを守らなければ…)
そう考えている伯爵をロナウドがじっと見ていた。
そしてロナウドの視線に気付いた伯爵は、二人で目を合わせて頷きあった。




