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29 溢れる想い

唇が離れると、アルフレッドは潰れるのでは無いかというほどセリーヌを抱きしめた。


「すまない…セリーヌの顔を見たら気持ちが抑えられなかった。もう会えないかもしれないと一瞬頭をよぎった時は生きた心地がしなかった…本当に無事で良かった」


口づけの衝撃もさることながらこんなに思ってくれていた事に心が震えた。


「アルフレッド様…私もこれからどんな扱いを受けるかもわからない不安もありましたが…何よりもアルフレッド様にもう会えないかもしれないと思うと…」


言葉が喉に詰まって声にならない。


「セリーヌ…好きだ。こんな気持ちになったのは初めてなんだ。どうしたらいいのだ?」


セリーヌの涙を拭いながらもう一度キスをする。


「セリーヌ、どうかこれから先ずっと僕の側にいてくれないだろうか…」


懇願するように言うアルフレッドを愛おしく思う。ただ…


「アルフレッド様…私でよろしいのですか?誘拐されたり、何日も眠り続けたり…私はどうやら普通のご令嬢のようにはできないようで…」


「ははっ、そうだな、セリーヌは普通の令嬢とは違うな」


「私真面目に話しているのですよ」


少し拗ねた顔をするが本当に拗ねているわけではない。


「すまん、でもそんなところも全部含めてセリーヌが好きなんだ。この綺麗な髪も、宝石のような瞳も、楽しそうに笑う可愛らしい声も、美味しそうに食べる口も、本音を隠せない所も、自分の身の危険を省みず人を助けようとする所も全部が好きなんだ」


みるみるうちにセリーヌの顔が真っ赤に染まる。


「もうっ、もうわかりましたから!これ以上言われると心臓が止まってしまいそうです」


両手で顔を覆っているセリーヌもまた可愛いと手に口付けをする。


「それで?他に心配事は?」


「ううっ…もうありません…」


「では返事を聞いても?」


「はい…私もアルフレッド様の事が大好きです。こんな私でよろしければ、どうぞよろしくお願いします」


「ははっ、そうか!うん…うん、良かった!」


アルフレッドはセリーヌを抱き上げてクルクルと回る。


嬉しそうにはしゃぐアルフレッドは何だか可愛らしい。


「んんんっ、お取り込みの所申し訳ございません。アルフレッド殿下そろそろ皆様がお待ちかねです」


いつからいたのか、アルフレッドの専属執事のサイラスが気まずそうに立っていた。


まさか見られているとは思わずセリーヌは顔どころか全身を真っ赤にさせている。


「あぁ、すまない。今はセリーヌを独り占めしている場合ではないな」


そう言って冷静さを取り戻したアルフレッドはセリーヌを名残惜しそうに下ろし、サイラスに手渡されたタオルで傷口を覆った。


その様子を見ていたセリーヌは落ち着きを取り戻した。


「アルフレッド様、頭に何か着いてますわ」


そう言ってセリーヌはアルフレッドの額に手をかざしあっという間に傷を治した。


「セリーヌ!そんな事はしなくていいのだ!」


「残念ですが、私今後はもう了承を得たりせず、隙あらば治癒させて頂きますので」


つーんとそっぽを向くセリーヌを抱きしめたい衝動にかられるアルフレッドだったが、サイラスの手前何とか理性で抑えた。


「はぁ…セリーヌに治癒魔法を使わせないためには怪我をしないようもっと鍛えなければいけないのだな…」


サイラスが口元を抑えてクスクスと楽しげに笑っている。


「ではセリーヌ、皆が心配しているから屋敷に戻ろう」


そう言うなりセリーヌの手を取り歩き始めた。


手をつなぐ二人の後ろを歩きながらサイラスは主の幸せを喜んだ。


そして、他の令嬢達の事や何よりも娘を溺愛する赤の魔王の事を考え、これから来るであろう波乱に立ち向かうべく覚悟を決めたのであった。




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