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27 マルグリット家のお茶会③


その頃バラ園ではお茶会の準備が整い、皆が揃うのをキャサリンとミオーネが待ちわびていた。


「遅いですわね」


「セリーヌがお二人をお出迎えに行きましけれど、まだいらっしゃらないのかしら」


「お二人?」


「ええ、シモンがアルフレッド殿下をお連れするそうですわ。聞いていませんでした?」


「まぁ、アルフレッド様もいらっしゃるのですね。それというのはもしかして…」


勘の良いミオーネは何かを察したようだ。


「ミオーネ様がご想像されているほど私達が何かをしようと思っているわけではありませんわ。最近仲良くしていただいている様なのでシモンがお誘いしたいという事なのですけれど…」


「うふふ」と笑うキャサリンはイタズラを企む少女のように可愛らしく笑っている。


庭園の薔薇以上にキャサリンの周りには花が咲いているようなとても優しい空気に包まれる。


「この先の未来がどうなるかはわかりませんが…私達はセリーヌには心から愛してくださる方と幸せになって欲しいと思っていますの」


晴れ晴れとした空を見上げながらセリーヌの幸せを願う。やはり母親の顔だ。


「はい、私もセリーヌには幸せになって欲しいと心から思いますわ。ただ……ほんの少しセリーヌが羨ましくも思います。こんなに大切にされて幸せを願ってくれる家族がいるのですから…」


キャサリンは少し驚いたように目を大きくしたが、またすぐにいつもの穏やかさを取り戻した。


「そうですね…ミオーネ様はお産まれから大きな物を背負われていらしたのですからきっと公爵様ご夫妻は厳しくされて来られたのでしょうね」


「…はい、とても厳しく育てられました。特に母は“あなたは女神なのよ” “将来の王妃なのだから”というのが口癖でしたわ」


ミオーネは口にこそ出さなかったが、魔法力が低いことを咎められ、落胆の色を隠さない母親の冷たい視線を思い出してその瞳に影が落ちる。


「そうでしたの…幼いミオーネ様にとってはきっと私達が思う以上にお辛かったでしょうね」


キャサリンは幼いミオーネを思い心が痛む。


「ただ…同じ母親として公爵夫人のお気持ちも少しわかるような気がいたします。ミオーネ様が王家に入られて後に辛い思いをされないよう厳しくされていたのかもしれませんね。手元を離れてしまえばもう手助けしたくてもできないのですから…」


「そうでしょうか…」


いつもは毅然と美しく佇んでいるミオーネが今はとても小さく見える。


まるで迷子になって心細くて今にも泣き出しそうな幼い子のような姿に堪らずキャサリンが手を伸ばした。


「ミオーネ様、お嫌でなければ少し抱きしめさせてくださいませ」


その言葉にミオーネが驚いている間に優しくキャサリンが包み込んだ。


「ミオーネ様はとても立派な方です。母親としてこれほど立派な娘を持つのはとても誇らしい事です。ですが、時には弱音や我儘を言って欲しい時もあるのです。矛盾していますわね…でも人とはそういうものでございましょう」


優しいキャサリンの腕の中でミオーネは自然と涙がこぼれた。


これまで弱音や我儘を言う事など許されることではないと自分自身に戒めてきた。

落胆している母親を喜ばせたくて頑張ってきた。

文句の一つも言わずに厳しい教育に耐えてきたのだ。

今さら我儘を言っても良いと言われてもどうしたらいいのだ。


(でも……あぁ私はこうしてただ優しく抱きしめて欲しかったのかもしれないわ)


「偉そうな事を言ってしまいました。失礼をお許しください」


「っ…いっ…いえ、いいえ…キャサリン様のお優しさに…感謝いたします」


まるで母の腕の中にいるかのようなそんな温かい気持ちになる。


「次にお母様に会われたときにはこうしてミオーネ様が抱きしめて差し上げてくださいね」


そう言いながら優しくミオーネの涙を拭ってあげると、微かにコクリと頷いた気がした。


「まぁ大変!これから皆が集まるというのにお化粧が崩れてしまってはいけませんわね」


そう言っていつもの調子に戻ったキャサリンが侍女を呼びミオーネはお化粧治しに部屋へと戻った。


庭園の入り口脇で二人の様子を見ていたダニエルがキャサリンの元へと歩いてきた。


「ありがとうございます。僕からも感謝いたします。本来ならば一番ご迷惑をかけてしまったマルグリット家の皆さんに頼るなど筋違いとわかってはいても…それでもミオーネをこちらに連れてきて良かった…」


「いいのよ、私はあなた達二人のことも応援しているわ。セリーヌも見ての通り心からあなた達の事を大切に思っているの。あんなに分かりやすい子だから疑いようがないでしょうけれど」


「ははっ、そうですね」


「ダニエル、ミオーネ様を幸せにして差し上げてくださいね」


ダニエルは眉間にしわを寄せ涙をこらえながら胸に手を当て深く頭を下げた。


「はい、女神様に誓います」


心温まる感動的なシーンに割って入るかのように慌ただしい足音が聞こえてきた。


「やっと来たわね。何かしら皆お腹が空いて焦っているのかしら」


呑気な事を言ってはいるが何か良くないことが起こったであろう事を察したキャサリンは動揺を見せずに皆の到着を待った。


「お母様!ミオーネ様はどちらですか?」


庭園を見回すなりセリーヌが声をあげる。


「ミオーネ様は少し準備がありお部屋へ戻ったわ」


「ミオーネの事で何かあったのですか?」


ダニエルの心がザワつく。


「恐らく、誘拐の予告状と思われる手紙が届いた」


ロナウドが手紙を見せるなりダニエルは庭園を飛び出した。


そしてそれを追うようにロナウドとシモンも走り出した。


「セリーヌと夫人は伯爵とこちらで待っていてくれ」


そう言うなりアルフレッドもダニエル達の後を追った。


「あなた…」


「あぁ、大丈夫だ。心配ない、ここには今優秀な若き騎士たちが揃っているだろう」


「ええ…ですが何か嫌な感じがしますわ…」


こういうキャサリンの勘は恐ろしいほど当たってしまう。


「念のためセリーヌにも護衛をつけておこう」


伯爵が従者を呼び、後ろを振り返るとそこにいたはずのセリーヌはいない。


「セリーヌ?」


「はっ!あなた、これ…」


今日のお茶会のために用意をした真っ白なテーブルの上に一輪の赤い薔薇と何かの切れ端のようなものが置いてある。


そこには“宝はもらった”とだけ記されてある。

何の気配もないままセリーヌは忽然と消えてしまった。


「…リーヌ…セリーヌ?セリーヌ!どこ!?セリーヌ!」


取り乱すキャサリンを後から抱きかかえている赤の魔王の目はマグマのような怒りに燃えていた。



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