25 マルグリット家のお茶会
雲一つない晴天で爽やかな風がそよそよとバラの花を揺らしている。
「いい香り。本当に素敵な庭園よね」
ミオーネはすっかりマルグリット邸のバラ園が気に入った様子だ。
この時期はピンク色の小さいバラが満開に咲いていて見頃を迎えていた。
「育てるのが難しいバラをこんなに綺麗に咲かせられるなんて、キャサリン様は本当に素晴らしいわ」
このバラ園はキャサリンが一年を通して特に力を入れている場所だ。
「お母様に伝えたら喜びます」
午後から開く予定のお茶会の準備でキャサリンと使用人たちは忙しく動き回っている。
シモンと話した日、屋敷に帰ってお茶会の事を夕食の席で皆に伝えたら、それならとマルグリット伯爵夫妻も参加する事になりキャサリンが張り切って計画を立て始めたのだった。
(お母様が仕切ってくれたら間違いないわ)
絶大な信頼を寄せられているキャサリンはこれまでにも数々のお茶会を開きどの回も評判が良い。
出されるお茶やお菓子はキャサリンのお茶会から流行ると言われる程だ。
「私もキャサリン様のお噂は聞いていたので参加できて本当に嬉しいですわ」
「まぁ!ミオーネ様にそう仰っていただけるなんて光栄ですわ。これは腕が鳴ります!」
「それは楽しみだな」
マルグリット伯爵も乗り気だ。
「お兄様もまだもう少しこちらにいらっしゃいますわよね?久しぶりに家族揃いましたし、ダニエルお兄様とミオーネお姉様もいて大家族になったようで楽しいです!」
「セリーヌにそう言われたら参加しないわけにはいなかいな」
溺愛する妹の頼みを断るなどロナウドにはできまい。
「ありがとうございます!」
ダニエルはそんなやり取りをただ黙って見ている。
「ダニエルお兄様、どうされました?」
「いや…こんな日がくるなんて思ってもなかったから…」
その言葉に胸が詰まる思いだ。
ミオーネと二人逃亡生活を送るつもりで飛び出したのだ。
二度とこの屋敷に足を踏み入れることなどないと思っていたのにまさかこんな風に和気あいあいとお茶会の話しをしているとは、夢のような気持ちだろう。
「ダニエル…」
ミオーネも涙目になっている。
少し場がしんみりしてきたところで、キャサリンの明るい声が響いた。
「さぁ、そうとなれば最高のお茶とお菓子を用意しなくてはね!あぁ、お茶会なんて久しぶりだわ、ミオーネ様なにかリクエストがあれば仰ってくださいね」
「ありがとうございます。では…私こちらのバラ園がとても好きなのです。もしお天気が良ければお茶と薔薇を楽しめたらどんなに良いかと思います」
「まぁ、そんなに気に入って頂けていたなんて嬉しいです!今ちょうど見頃ですのでぜひバラ園にしましょう」
「おお、それはいい!以前はあのバラ園でお茶会をしたこともあったな」
「そうでしたわね、セリーヌがバラの刺にドレスを引っ掛けて破いて依頼ですわ」
「お母様!何もそんな事を仰らなくても良いではないですかっ」
母の友人達が集まる中でセリーヌもその傍らにいたのだけれど、お転婆娘のセリーヌがジッとしていること等出来るわけもない。
同じ年頃のご令嬢のリボンが風で飛ばされてしまいそれを追いかけて取ってあげようとしたのだが、中々届かないのでピョンと飛んで何とか取れたまでは良かった。
皆の視線の先が自分の足に向いていることに気づきそこへ視線を落とすと、ドレスが思い切り裂けて下着が丸見えの状態で足があらわになってしまっていた。
それを見ていたリボンのご令嬢が真っ赤になった顔を両手で抑えているのに対し、当の本人は「あらら、失礼」とあまり気にしていないのだ。
その様子を見たキャサリンのため息が深かった事は言うまでもない。
思わぬところで恥ずかしい昔話を暴露されてしまい膨れている顔を伯爵と兄は溶けそうなほどデレデレの顔で見ている。
こうして何年ぶりかにバラ園でお茶会を開く事になったのである。
ミオーネは本当に楽しみのようで自分にも何か手伝わせて欲しいと言ってはみるものの、もちろんはいそうですかと使用人がミオーネに手伝わせる等出来るはずがない。
プクッと膨れるミオーネを愛でては幸せな空気に包まれていた。




