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23 ミオーネの教え


久しぶりに学園に行くと、生徒が一定の距離を保ちつつヒソヒソと何やら話しながらこちらを見ているようだ。

とても多くの視線を感じるのは気のせいではない。


(何か変ね…しばらくお休みしていた間に何かあったのかしら…)


「おはよう」


聞き慣れた声が後からする。


「シモン、帰ってきたのね!」


「うん、今朝早くに着いてね。それにしても何この遠巻きに見られている感じ」


「何だか変よね…私にもよくわからないの」


不思議に思いながらシモンと二人中へ入ると、あの薔薇の令嬢ヴィクトリアと取り巻き二人が近づいてきた。


「ご機嫌よう、セリーヌ嬢お久しぶりね。しばらくお顔を見なかったけど、今度はサンドラ様に取り入っていたみたいね」


またもやとんでもない方向へ勘違いをしているようだ。


だがしかし、ここで慌てて反応してはいけない。


「おはようございます、ヴィクトリア様。私がサンドラ様に取り入ろうなど恐れ多いですわ。ですが、とてもお世話にはなりました」


「まぁ、図々しいこと」


「あなたご自分の立場をわかっていて?」


取り巻き二人が鼻息荒く詰め寄ってくる。


「おはようございます、メリル様、シェイラ様。お二人も相変わらずお元気そうで何よりです」


今までならムキになって反論しようとするところだが、今日のセリーヌは余裕がある。


なぜならそれはミオーネから貴族間での“ご挨拶”への返し方を教わったからだ。



ミオーネのレッスンその1

理不尽な事を言われたり、嫌味を言われてもまずは余裕の微笑みでご挨拶だ。けして慌ててはいけない。


「セリーヌの素直さは私も好きだし失くして欲しくないわ。でも貴族というものは色々なものを覆い隠して表面を綺麗に見せるような人ばかり…それでも言葉の端々に嫉妬や妬み、蔑みの気持ちを織り交ぜてくる」


己が優位に立つために、相手の足を引っ張り蹴落とそうとする。


そんな中で純粋無垢なまま社交界に出たらセリーヌが傷つく事になるとミオーネは心配なのだ。


自身の生き方を強く貫き通すのは素晴らしいが、どうしても敵を多く作りやすい。


「それにね、言葉遊びの感覚で会話を楽しめるようになれば、それも案外面白いわよ」


そう言って、いたずらっ子のように笑うミオーネの可愛らしい表情を思い出して思わず顔が緩んでしまいそうになる。


(ミオーネお姉様でもあんな風に笑う事もあるのね…私にも上手くできるかしら)


さっそく実践できる機会がやってきたとワクワクドキドキしながらも、できるだけ平静を装う。



目の前の取り巻き二人は胸の前で腕を組んだり、腰に手を当てて威嚇の体制を崩さない。


「ふんっ、そうやって話を誤魔化そうとしても無駄よ。あなたがサンドラ様にすり寄ってアルフレッド様の婚約者の座を狙っているって学園中の噂よ」


「そうよ、ヴィクトリア様の邪魔をするつもりでしょうけれど品がなくてよ。貴族の風上にも置けないわ」


なるほど、先程から皆の様子がおかしいのはこのせいか。


だが、ここでも慌ててはいけない。


「まぁ、いけませんわメリル様、シェイラ様。サンドラ様もアルフレッド様もとても聡明な方々ですからそんな簡単に騙されるような方々ではないと思います。どこで誰が聞いてるかわかりませんので、滅多な事は仰られない方が良いですわ」


二人は言葉につまる。


(こんな感じでどうかしら!初めてにしては今の返しはなかなか高得点だと思うわ!)


とだんだん楽しくなってきて余裕の笑みを見せていたが、上には上がいる。


「そうですわね、メリルさんシェイラさん言葉には気をつけなければなりませんわ。友人としてお詫びします」


しおらしく非礼を認めるヴィクトリアが胸に手を当てて詫びる。


「いっ、いえっ」


予想外の反応に狼狽えていると、そこへすかさずヴィクトリアが畳みかけてくる。


「ただ、私からもセリーヌ嬢の為に忠告しておきますわ。一介の伯爵令嬢にすぎないあなたがアルフレッド様の近くにいると他の貴族からどう思われているか。これからアルフレッド様は新たに婚約者をお決めにならなくてはいけない大事な時、アルフレッド様のお立場を悪くしないようにお気をつけになって?」


“あなた達の為に”と進言したはずが“アルフレッドの為に”で見事に返されてしまった。


さすがは侯爵家ご令嬢ヴィクトリアだ。簡単には攻略させてもらえない。


痛いところをつかれたセリーヌは言葉が出ない。


「あなたはもう少しご自分の立場をよく考えて行動することね」


と自信を取り戻した取り巻き二人は顎を思い切り上に上げて満足気な顔だ。


(うっ…何も言い返す言葉がみつからない)


「シモン様もお付き合いなさる方はよくお考えになった方がよろしくてよ」


「そうですわシモン様、よろしければ今日のお昼はお食事ご一緒にいかがですかっ」


頬を赤らめてシェリルがシモンをランチに誘う。


「気にかけてくれてありがとう。でも僕は侯爵家でも問題児の方だからね。僕が誰といるかなんて誰も気にしないよ。それに君たちみたいな素敵な女性と一緒では見惚れて食べる事も忘れてしまいそうだ」


シェリルを見つめながらシモンが応えると、今にもシェリルが倒れそうだ。


シモンもこんな歯の浮くようなセリフを言えるのねと感心する。


「あぁ、そろそろ講義の時間だ。皆急がないと先生に怒られてしまってはいけない」


その言葉にハッとして三人は慌てて立ち去って行った。


「ふぅ、やっと開放されたわね」


急にシモンの口調が変わるのはセリーヌと二人になったからだ。


セリーヌとしてはこの切り替えは見習いたいところである。


「それにしても、あなた少しはやるじゃない。ヴィクトリアの方が上手だったけどね」


「ミオーネ様にご挨拶の仕方を教わっているのだけど、中々上手くいかないわ」


「色々あったみたいね。お昼は中庭に集合よ!何があったか教えなさい」


「ええ、そのつもりよ。じゃあまたお昼にね」


そうしてそれぞれの場所へ向かった。



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