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22 お姉様と呼ばせてください

すっかり話し込みアルフレッドが帰ったのも日が暮れてからとなった。


迎えに来たサイラスの少し心配そうな顔が気になったが、アルフレッドは王太子らしく微笑みながら颯爽と帰って行った。


(アルフレッド様きっとすごく疲れているわよね…お体大丈夫かしら)


「アルフレッド様の事が心配?」


夜着に着替えてお茶を飲みながら思い出していたところにミオーネの声でハッとする。


「えっ…今私顔に出ていましたか…?」


「ええ、ものすごく。アルフレッド様の事が心配っていう顔ね」


「どうして皆そんなにわかってしまうのでしょう」


「ふふっ、セリーヌが素直な証拠よ。でもこれから社交界に出るのだから心の内を見せない訓練も必要ね」


そう、これからミオーネがセリーヌの先生になる事になったのだ。


ミオーネとダニエルはマルグリット伯爵家で過ごす事で落ち着いたのだが、二人共元々はきちんとした性格なのだ。


ただ世話になる事には抵抗があるようで何かしら役割を与えて欲しいと伯爵へ懇願した結果、ミオーネはセリーヌを立派な淑女にするべく、先生となる事になった。

セリーヌにとってはこれ以上ない先生だ。


そしてそれを提案したのは母親のキャサリンである。


「こんな機会を逃す手はこざいません。ミオーネ様程のお方に教えて頂けるなんてセリーヌは幸せです」


目を輝かせて嬉しそうな母の顔を思い浮かべてため息がでる。


ミオーネの事は好きだけれど、淑女教育と聞くと気が重くなるセリーヌである。


ダニエルはというと、頭脳もさることながら、剣の腕も確かだ。

伯爵家とノエールを守るために力を尽くす事を約束した。


そして、一番大きな問題は城の書庫にあったはずの、女神の事が書かれていたという書物が見つからないということ。


何者かが持ち去ったのか。


いずれにしても今まで女神の生まれ変わりとして、そして王妃になるために努力を重ねてきたミオーネが実は女神ではないかもしれないという事。


女神についての記録は殆どが秘密文書となり、王族であるアルフレッドでもそう簡単に見ることは敵わないほど厳重に保管されていて簡単に人目につくような書庫に置いてあるはずはない。


その書物は国で大事に保管してきた物ではなく、誰かが持ち込んだということか…。謎は深まるばかりだ。


アルフレッドはこれからその書物を探し、陛下や公爵家、総督にも二人のことを説明しなければならない。

ミオーネが狙われている事もあり、問題は山積みだ。


「私には何ができるでしょうか…」


思わず心の声が漏れる。


「アルフレッド様を支えてあげて」


ミオーネの言葉に顔を上げると、真顔でこちらを見ている。


「生まれた時からアルフレッド様を見てきた私でも、あんなに穏やかに優しく笑う所を見たことがないわ。きっとあの方を支えられるのはセリーヌ、あなただけだと思うの」


「そんなっ、私は助けられてばかりで何もできておりません。傷ひとつ治させて下さらないですし…」


「それはあなたに負担をかけたくないという事でしょうね。まぁでも、セリーヌとしてはそういう気持ちになるわね。」


「はい、大した事はできませんが少しでも役に立つと思ってもらいたいのですが…」


これまでは外で治癒魔法の事を知られてはならないと両親から強く言われていた為に使えなかったが、せっかく堂々と使える状況なのに使わせてもらえないのは悲しい。


「私はね、結局大した魔力がないからそういった面で役には立たないし、役に立つと思われていない事がとても辛かったわね」


悲しむわけでもなく淡々と話すミオーネが年齢は2つしか違わないがとても大人に見える。


「魔力だけを必要とされているわけではないと思います!」


「そうね、アルフレッド様もそう仰ったわ。だから私は魔力が少なくても女神として恥ずかしくないように完璧な淑女になって、将来は王妃として国王となるアルフレッド様に恥を欠かせないようにと努力をしたわ」


そう語るミオーネは背筋が伸び自信に満ちた表情だ。


「でもダニエルに恋をして、女神の重圧に耐えられなくなっていた所に実は女神ではないかもしれないとわかって肩の荷がおりた気がしたの。自由になれるかもしれない、ダニエルに気持ちを伝えられるかもしれないと心が震えた…これが本当の私よ」


俯き懺悔するように呟く。


「それほどまでにダニエルお兄様のことを…それにものすごい重圧に耐えていらしたのですね…」


「たくさん悩んで考えて、私は自分にないものを求めず出来ることに力を尽くすことにしたの。でもあなたは私と違ってもの凄い魔力と治癒魔法を持っているのよね。それなら私よりも出来ることはたくさんあるはずよ」


(なんて強い方なの…)


「私もミオーネ様のようになりたいです」


「あら、私はあなたが羨ましいわよ」


「私がですか?」


「ええ、だって皆に愛されているじゃない」


確かに家族や友人から大切にされていると思うし、皆を大切にも思っている。


「でもそれはミオーネ様も同じではないですか」


「そうね…愛されてないとは思わないけれど…やはり公爵家として、将来の王妃として、そして女神としてこう有らねばならないという期待が大きいが故にとても厳しく育てられたの。だからこうなった以上、もう二度と家族に会うことは叶わないと思うわ…」


「そんな…」


「ごめんなさいね、こんな弱音を吐くつもりはなかったのに。あなたにはついこぼしてしまうわ」


「ミオーネ様、私でお役に立てるならいくらでも弱音をこぼしてくださいませっ」


思わずミオーネの手を取り力が入る。


「あなたの方がよっぽど女神に相応しいと私は思うわ」


「そんなっ、それはさすがに大袈裟ですわ」


「こうしてあなたには助けてもらったのだからあなたのために出来ることは何でもするつもりよ。でもそれだけではなくて、私あなたの事を妹のように思ってるの」


少し照れたようにそう言うミオーネが何とも可愛らしい。


「ではっ…では…お姉様と呼んでも…いいですか?」


恐る恐る聞いてみる。


「ええ、そう呼んでくれたら嬉しいわ!」


「ありがとうございます!!」


「ふふっ、こちらこそよろしくねセリーヌ」


(思い切って聞いてよかった!!)


セリーヌの部屋からは二人の可愛らしい声が漏れ出ている。


ミオーネの様子を伺いに来たダニエルだったが、心配はなさそうだとホッと胸を撫でおろし


「神よ…ずっとあの二人が幸せでいられるようにお守りください」


思わずそう祈りながらその場をあとにしたのであった。



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