21 いざ、伯爵邸へ②
「ダニエルお兄様、ごめんなさい…まさか本当に手をあげるなんて…お顔の傷治します!」
「いや、これはこのままでいいよ。セリーヌにこれ以上負担をかけたくない。それにこれは罰だから」
「そんな…どうして皆私に治させてくれないのですか…」
何度も断られると、治癒魔法を持っているのに役に立てないのかと不安になる。
「ここぞという時にどうしてもセリーヌの力を借りる時が来る。その時の為に力を温存しておいてくれ」
さすがは長年セリーヌのお守りをしてきただけはある。
「…わかりました。では必ずその時は私の治癒魔法を使わせてもらいますから!」
どうもダニエルと話しているとセリーヌは幼さが抜けないようだ。だが上手く手の上で転がされてる事もわかっていても悪い気はしない。
優しい兄に甘える妹というところだろう。
また以前のような会話が出来ることに懐かしさと嬉しさが込み上げてくる。
(あぁ、私達は婚約者というよりも幼馴染の兄と妹というのがぴったりね)
二人の様子を見ていたミオーネも今はヤキモチを焼くのではなく微笑ましく見守っていた。
そして兄のロナウドもまた、その様子をジッと眺めていた。
皆が広間に入った所で改めてマルグリット伯爵がロナウドの所業を謝罪した。
見た目は怖いが理不尽さはなく常に物事を冷静に見ているのだ。
それなのになぜだかいつも怒らせると大暴れするという印象を持たれてしまうのが悲しい。
「アルフレッド殿下にもわざわざご足労頂いたにも関わらず、愚息がお見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありません。しかし大事な家族の事となると抑えられない事もございます。ダニエルは幼い頃からセリーヌの面倒をよく見てくれて私達も家族のように思っていましたので…息子も私もダニエルが突然いなくなった事が悲しかった」
ロナウドは未だ険しい表情で腕を組んで外の庭を睨んでいる。
「確かに、立場を考えると侯爵家のダニエルの方が位が高い。公の場であれば問題になってしまうが、ロナウドの気持ちもわかる。ダニエルも覚悟してこの場にいるものと思っている。そうだな?ダニエル」
「はい、この場で斬り捨てられても仕方がありません。その覚悟で参りました」
「うん、ロナウドはどうだ?斬り捨てたいか?」
「…はぁ。顔を見る前は煮ても焼いても許せる気はしなかったのですが…決死の覚悟でここへ来たことはわかりました。それに、セリーヌが許しているのなら私はもう何も言う事はありません」
「お兄様…私は大丈夫です!もちろん最初は悲しかったのですが、やはり私とダニエルお兄様は"婚約者"というものではなかったのです。ミオーネ様とダニエルお兄様こそ相応しいと心から思っております。」
「セリーヌ…っ」
ミオーネも溜まらず涙が溢れる。横にいるキャサリンがそっとハンカチを差しだす。
「私はお二人に幸せになってもらいたいのです。ですからどうかお二人を助けるために皆の力を貸してほしいのです」
「……ははっ、相変わらずだなセリーヌは。お前のお願いを聞かないわけにはいかないだろう?」
溺愛する妹に頼まれて、否と言える強さは
持ち合わせていないようだ。
「ありがとうございます、お兄様!」
「ふぅ、これでようやく皆が前に進めるわね」
キャサリンが腰に手を当てて満足気に頷いている。
「あなたもこれでよろしいですわね?」
「あぁ、セリーヌがそう言うなら」
こちらも溺愛する愛娘には弱い。
「皆さん、本当にありがとう…心から感謝します」
ダニエルが左胸に手を当てて感謝を伝える。その肩が微かに震えている。
「ダニエル…。皆様、このような酷い行いをした私達を許してくださり本当にありがとうございます」
ダニエルの横に寄り添い感謝を述べる。もうすっかり夫婦のようだ。
ぱんっ!とここでキャサリンが手を打つ。
「さぁ、これからは今後について話し合わないといけませんわね!その前に一息いれましょう」
そう言いながらテキパキと使用人たちにお茶の用意を指示する。
今日はサンドラ様から頂いたお菓子に合わせたお茶をと張り切っている。
「君の母上はまるで猛獣使いのようだな」
とアルフレッドが感心している。
「ふふっ、そうなのです。この家で一番強いのは母なのです」
二人でコソコソと話しているのを向かい側からロナウドが睨んでいる。
もの凄い殺気だ。
(おいおい、仮にも僕は王太子なのだが…)
自分に威厳がないのかと少々自信をなくしかけるアルフレッドだった。




