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19 城への帰還②

一夜が開け、部屋でミオーネと共に朝食を食べる。


朝が弱いセリーヌだったが、この日ばかりは緊張で素早く起きられたようだ。


昨夜は湯浴みをするのも食事の用意をしてもらうのも、メイド達の目を誤魔化すためにミオーネとダニエルは王太子妃の部屋とアルフレッドの部屋とを交互に行き来してもらい慌ただしい一夜となった。


朝早くに起き各々で準備は済ませていたけれど、メイド達がそれぞれ同時に用意をしにきた時には焦ったが衣装部屋へミオーネを隠し何とか乗り切ったのであった。


「先程は背中に変な汗をかいてしまいましたわ」


「そうね、ここで終わりかと思ったわ」


ホッとしながら、たくさん用意してもらった朝食に舌鼓をうつ。セリーヌはすっかり城の食事が気に入ったようだ。


特にお気に入りのクロワッサンを頬張りながら幸せを噛み締めている。


そんなセリーヌを見ながらミオーネもまた幸せな空気に包まれていた。隠れている身だと忘れそうになる。


そこへ突如として扉を叩く音が響いた途端に現実を思い出した。


咀嚼していた口の動きが止まる。


その音が聞こえていたようで隣の部屋とを結ぶ扉が開かれてアルフレッドが静かにミオーネを連れて行った。


アルフレッドの部屋との扉が閉まるのを確認したセリーヌは返事を返しながら、音がした方へと歩み寄り扉を開けた。


そこには王太后サンドラが籠いっぱいに詰まったお菓子を持って立っていた。


「おはようございます、サンドラ様」


「おはようセリーヌ。あら、ごめんなさい、お食事中だったのね」


「はい、お部屋で朝食を頂いておりました」


「あらそう、それなら私のところで一緒にお話しながら食べたかったわね。ところでメイドはいないの?」


ギクリとする。確かに普通はメイドが扉を開け対応するはずだ。


「はい、今日屋敷に帰りますので最後にこの素敵なお部屋を満喫させて頂きたくて一人にして頂きました」


苦しい言い訳だが何とかごまかせただろうか。 


「そう、元気になって本当に良かったわ。それだけ食べれるなら大丈夫ね」


サンドラの視線の先を見て食べかけの食事に向いている事に気づき、思わず「一人で食べてるわけではない」と訂正したい気持ちをぐっと堪えて何とか耐えた。


笑顔が引き攣る。


「ふふっ、たくさん食べてね。そうそう、あなたにこれを持ってきたの」


手に持っていたカゴをセリーヌに渡す。


「わぁ、綺麗!こんなに沢山のお菓子をよろしいのですか」


だめとは言うまい。


「もちろんよ、あなたのために料理長が沢山作ってくれたのよ。食べてくれたら料理長も喜ぶわ」


「ありがとうございます!後ほど料理長にもお礼に参ります。サンドラ様、本当にたくさんありがとうございました」


「いやだわ、そんなお別れみたいに言わないで。お礼を言うのは私の方よ。もしこの先何か困った事があったら私を頼って欲しいの。必ずよ」


そう言ってセリーヌの手をサンドラの手で包み込みじっと見つめている。


「はい、その時はサンドラ様に甘えさせていただきます」


二度、三度頷き、またお茶に招待すると言いながら満足気な顔でサンドラは部屋を後にした。


こちらの様子を伺っていた三人が扉の閉まる音を合図に王太子妃の部屋と入ってきた。


「セリーヌはすっかりおばあ様のお気に入りだな」


アルフレッドが嬉しそうだ。


「私はあんなに楽しそうなサンドラ様のお声を初めて聞きましたわ」


「セリーヌはすぐに人と仲良くなれるのは特技でもあるけど、時々怪しげな人とも仲良くなるからこっちはヒヤヒヤするよ」


とダニエルが苦笑している。


「怪しげな人ではありません。皆楽しい方ばかりなのですよ」


「そんなこと言って誘拐されかけた事もあったじゃないか」


「あれは…たまたまです」


「あら、ダニエルはずいぶんセリーヌのことが心配なのね」


言葉に棘がある。


「小さい頃から知っているからね。セリーヌは小さい頃は本当に天使のようだったから狙われやすかったんだよ」


(ダニエルお兄様!ミオーネ様のヤキモチですわ!私を褒めてどうするのですか?!)


「ふーん、今もとっても可愛らしいものね」


「あの…ミオーネ様、私の事は父がダニエルお兄様にお守りを押し付けたにすぎません。それにノエールにいらした時に遊んでもらっていた、兄と妹のような関係ですので…」


セリーヌが慌ててフォローする様子でダニエルは気づいたらしい。


「そっ、そうだよセリーヌは妹のように思っていたから…」


それでもミオーネはプイとそっぽを向いている。


本来はダニエルとセリーヌが婚約者どうしなのだから、仲睦まじいのはあるべき姿のはずが、すっかり逆転してしまっている事を自然と皆が受け入れている。


その様子を見かねたアルフレッドはため息を付きつつ、セリーヌを自室へと連れていく。


「しばらく二人にしてやろう。痴話喧嘩に付き合っていたらこっちが疲れてしまう」


それもそうだと、アルフレッドの部屋でお茶を飲むことにした。


「アルフレッド様は…その…大丈夫なのでしょうか…」


「何が?」


「ミオーネ様の事…」


「あぁそうだな、思っていたより平気だった。それよりも二人が無事でいてくれてホッとした事の方が大きい」


それはセリーヌも同じ気持ちだった。


「セリーヌは大丈夫なのか?」


「はい、私もアルフレッド様と同じで安心した事の方が大きいです」


「そうか、これからマルグリット伯爵邸で二人を頼むことになるが…万が一の事も考えなければならない。でも必ず僕が守るから」


真剣な眼差しで見つめられドキリとする。


「ありがとうございます。私も精一杯お二人をお守りします」


「頼もしいが、無理はしないでくれ。さっきのおばあ様ではないが、些細な事でも何かあれば必ず知らせて欲しい」


「はい、必ず」


「僕はこれから陛下を説得しなければならない。国内にいたとはいえ、逃げ出した事は事実。しかし、なんとしても二人が安全に暮らせるように、幸せになれるようにしてやりたいと思っている」


王太子としてはきっと罰しなければいけないのだろうが、アルフレッドは二人の幸せを願いどうにか折り合いをつけようと必死なのだ。


「はい…きっと私が思うより難しいことと思いますが…上手くいくことを祈ります」


「うん、ありがとう。あっ、それから昨日もらった飴本当にすごい効き目だった。助かったよ」


(お渡しして良かったわ!まずいと言われたらどうしようかと思ったけれど…大丈夫だったみたいね)


「うまかったよ」


クスクスと笑いながら言うアルフレッドはとても楽しそうだ。


その顔を見て幸せに包まれるセリーヌであった。

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