18 城への帰還
話し合いの末、シモンは乗ってきた馬と共にまた王都へ引き返すことになり、他の皆はアルフレッドの移動魔法で城へと戻る事にした。
先に出たシモンを見送り、師匠に挨拶をする。
「全く、毎回世話が焼けるよお前たちは」
そう言いつつもどこか寂しそうだ。
「師匠、お世話になりました。この御恩は必ずお返しします」
「そう思うならもっと技を磨け」
「はい」
弟子二人は神妙に頭を下げる。
「ミオーネもセリーヌもまた遊びに来い」
「ありがとうございます。本当にお世話になりました」
「お言葉に甘えてまたお邪魔させていただきます!その時は私の祖母の話もきかせてください」
「あぁ、そうだな。二人共元気でな」
手をふりお別れをしたところで4人は姿を消した。
来たときと同じように森に一度降り立ち、それから城の庭園へと戻ってきた。
いつの間にか日が傾いて夕陽で赤く染まっている。
「お帰りなさいませ」
そこには執事のサイラスが帰りを待っていたようで出迎えてくれた。
「どうしてここに戻って来るとわかったのです??」
「ふふっ、サイラスはねアルフレッド様の動きがわかるらしいの」
「そうなのですか?」
「はい、我が主の行動は全て把握しております」
(すごいわ…一流の執事はそこまでわかるのね)
クスクスとサイラスが笑っている。
「セリーヌ様、私はアルフレッド様が移動魔法で移動した先でどこに降り立つかがわかるのです。例えるなら、鳥が枝に止まるときの羽音のような感覚です」
わかるような、わからないような。
場所がわかったとしても、その場まで一瞬で来られるのか?
「理解しようとしなくてもいい、これは本当に稀な特殊能力だからな」
「そうなのですね…詳しいことは良くわかりませんが、すごい能力だと言う事はわかりました」
「殿下が戻られる際に四人分の気配がしておりましたので、もしやと思っておりました。ミオーネ様、ダニエル様お帰りなさいませ」
「サイラス…」
「あなたにも迷惑かけたわね」
「いいえ、どうぞ私めの事はお気遣いなく。それよりも、この場はどうされるおつもりですか?」
「皆で話したのだが、ミオーネとダニエルはしばらくマルグリット伯爵邸に身をおいてもらおうと思っている」
さすがにそれは予想していなかったようで、サイラスは驚きを隠せない。
「マルグリット伯爵邸に…ですか?それは…大丈夫なのでしょうか…」
「お任せください!私がお二人をお守りしますので!」
「左様で…」
思わずダニエルの顔を見ると、心なしか影を背負っているように見える。
不憫だと思わなくもないが、そうせざるを得ない状況なのだと察した。
「だがもう日も暮れてきたからな。これからとなるとマルグリット伯爵の方も大変だろう、今日一晩だけは僕の部屋に居てもらう」
サイラスは「承知しました」と一つ返事で早速諸々の用意する為にこの場をあとにした。
多くを語らずとも主の考えを理解し即対応できるサイラスを完璧な執事だとますます感心するセリーヌであった。
そんな事を考えていると、ミオーネがアルフレッドに声をかける。
「アルフレッド様、移動魔法の連続でお疲れでしょう。少し休まれた方がよろしいかと」
「あぁ、大丈夫だ。まだ気は抜けないからな。君たち二人今日一晩は僕の部屋で静かにしていてくれ。セリーヌもあと一晩はここにいてくれ」
「何から何までご面倒おかけして申し訳ございません」
「私はミオーネ様と一緒のお部屋で何かあれば私が応対すればよろしいですわね」
「よろしく頼む。人に見つかっては困るから部屋まで移動する。皆掴まっててくれ」
そうして王太子妃の部屋へと移った。
アルフレッドは平然としているように見えていたが、よくよく考えれば一日に何度も魔法を使っているのだ。
ここまで四人分を移動させたのだからとんでもなく魔力を消耗しているのだろう。
(顔色も良くないわ…やっぱり疲れているわよね…)
顔色を伺っていると、心配ないと笑っているがよけいに心配だ。
「あら、いつも疲れるとご機嫌ナナメになるのに今日はずいぶんお優しいのですね」
「余計なことを言うな」
生まれたときから一緒に育ってきただけあって、その掛け合いもいつもの光景なのだろう。
しかしセリーヌはそんな二人を見てモヤモヤと心に雲がかかったよう。
(本当にお美しいお二人…仲が良いのね…)
ダニエルはどう思うのだろうかと、変な所で心配になるが、ダニエルにとっても見慣れた光景のようだ。
「ミオーネ、これから色々大変になると思うが…本当に大丈夫かい?無理はしていないか?」
「大丈夫よダニエル。あなたが一緒だもの」
甘い雰囲気になりかけたところで、アルフレッドとセリーヌが慌てて自分達もいることを忘れるなと言わんばかりに声を出す。
「あっ、あーっ、では今日はこれからどうなさいますか?」
「そうだなっ、食事は部屋に運ばせよう」
「ええ、ええ、それがよろしいかと」
「うん、うん、サイラスが用意してくれるはずだ。それまでは少し休んでくれ」
ミオーネとセリーヌは王太子妃の部屋で、ダニエルはアルフレッドの部屋で過ごすことになった。
「あの、アルフレッド様、とてもお疲れでいらっしゃると思いますので、やはり私に治癒させてくださいませんか?」
アルフレッドが消費した魔力を考えると倒れるのではないかと心配になる。
「心配しなくていい。これでも結構鍛えているからね。セリーヌの方こそ回復したばかりなのに連れ回してしまったから疲れただろう?ゆっくり休んでくれ」
そう言って頭を撫でてくれたアルフレッドの手がとても温かい。
「わかりました…では気休めかも知れませんがこの飴を差し上げます」
小さな巾着袋を出してアルフレッドに渡す。
「これは昔、私の祖母がよく作ってれた特製の飴を真似して私が作ったものなのですが、魔力コントロールをする為の訓練の後によく食べていたのです。疲れた後に食べると心なしか元気になるので」
「そうか、ありがとう。では一つもらおう」
「その袋ごと差し上げます。私はいつでも作れますから」
優しく微笑むアルフレッドの顔と嬉しそうなセリーヌの顔を交互に見てニヤリと笑うミオーネに気づいたアルフレッドは、一つ咳払いをしダニエルと共に自室へと入って行った。
「アルフレッド様もそんなお顔をなさるのですね」
とダニエルは驚きを隠せない。
「いつもと同じだ」
口調はいつも通りだが、嬉しさは隠せないようだ。
その頃、「ふーん」と意味ありげにミオーネは笑っていた。




