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17 何者?②

影に隠れていたもう一人の方を取り押さえようとシモンは走った。


足からナイフを取り出して狙いを定めているその者へ飛びかかるがほんの少し遅かったようで、アルフレッドの手にケガを負わせてしまった。


「ちっ」と舌打ちをしつつ両腕を掴み後ろにまわして取り押さえる。


「あんた何者?」


苛立っているとシモンの口調は素になる。


「へへっ、何をしようが無駄だよ」


声からするとどうやら少年のようだ。


捕まったにも関わらず余裕のある口ぶりはまだ何か企みがあるのか、それとも強がっているだけなのか。


「このっ、誰の指示?あんたまだ子供でしょ」


「悪いけど、あんたには捕まえられねーよっ」


そう言うなり煙の如く姿を消した。


「移動魔法の使い手??」


すぐさま皆の方へ視線を向ける。


捕まっていたもう一人の方も逃げ出したところへ先程の少年が現れたかと思うと二人共に消えていった。


一瞬の出来事で、二人が消えた方をどれだけ見ても、その跡には波の音だけが響いている。


「今のはなんだったの…」


シモンが小走りでこちらに向かって来た。


「皆無事ですか?」


「あぁ」


ダニエルがミオーネを、アルフレッドがセリーヌを支えながら小屋へ向かう。


シモンは後ろを歩きながらその様子を感慨深げに見ていた。


小屋へ着くと師匠が戻ってきているではないか。


「師匠!いらしたなら手を貸してくれても…」


シモンは昨日しごかれたばかりだから文句の一つくらい言ってもいいだろうと思っていたが甘かった。


「お前たち体が鈍っているぞ。反応が遅すぎる。あんな小僧共を取り逃がすとは…」


情けないとため息をつき、ぶつぶつ愚痴をこぼしながらなかへ入って行く。


取り逃がした事への悔しさの上に師匠のため息が重くのしかかる。


「あれは予想外の事ですから、仕方がないですわ。それに私達を助けてくださって、ありがとうございました」


「そうね、セリーヌの言うとおりよ。あのままだと私もセリーヌも何処かへ連れ去られるところだったのだから」


ご令嬢二人に慰められると気持ちは有り難いと思いつつも、情けなさに打ちのめされる男たちであった。


格好が付かなかった事がよほどショックだったのか、セリーヌがアルフレッドの傷を治そうとしても「これは教訓だ」と治癒を拒否された。


「放っておきなさい」


とミオーネがセリーヌを小屋の中へと促した。


「あの黒ずくめの二人組は恐らく西の奴らだな」


「師匠はご存知なのですか?」


「あぁ、昔西の魔女と殺りあった事があってな、その時に魔女に仕えていた奴らがあの黒ずくめで、さっきの小僧と同じように移動魔法を使えるやつがいたな」


「どうして西の魔女の遣いがミオーネ様を連れ去ろうとしたのでしょうか。それにどうしてここにいることがわかったのでしょう…」


「恐らくミオーネが女神の生まれ変わりだとどこからか情報を得ていたのだろう」


アルフレッドは苦虫を噛み潰したような表情だ。


「今までは王都で守られていましたからね。僕がここへ連れてきてしまったのでこの機に乗じて連れ去ろうと思ったのだろう…すまない、ミオーネ…」


「ダニエルが謝ることではないわ。私が望んだ事よ。それに常に狙われる危険が有ることをどこか他人事のように思っていたのだと今さらだけど、こんな事が起きて初めて実感したの」


これからはもっと気をつけると反省を口にするミオーネはダニエルの手を両手で包み込んでいる。


「ダニエル、いつも私を守ってくれてありがとう」


キラキラした瞳でダニエルを見つめているミオーネをダニエルも見つめ返して手も握り返した。


「んんっ」


二人の世界を壊すかのようにアルフレッドが咳払いをする。


「あー、うん…その辺にして話しを進めてもいいか?」


セリーヌはなんだか見てはいけないものを見たような、恥ずかしさで顔が真っ赤になっている。大人の世界を少しだけ垣間見たようだ。


シモンはというと


「あらっ、その先も見たかったわ」


と残念そうだ。


二人の世界から引き戻されたダニエルとミオーネは慌てて手を離した。


「ええ、ええ、話しを進めましょう」


ドギマギしているダニエルの姿は新鮮だ。


「それで、二人はこの後どうするつもりだった?ここにずっといるわけにはいかないだろう?」


問われた二人は顔を見合わせて頷く


「今後は名を変えて、この近くの街で学業や剣術等を教えながら暮らしていけたらと思っておりました」


「そうか、他国へ渡るつもりではなかったのだな」


「他国へ渡るなど、それはさすがにミオーネの身が危険すぎますからね。この辺りの街で静かに過ごせたらと…」


「そうか…しかし狙われている事がわかった以上、ここにいるのは危険すぎる。一度王都に戻らないか?それからの事はもう一度考えよう」


「ですが…いまさら戻るところもございません。ミオーネを公爵家へ帰すことも…」


「そうだな…城にも本当の意味で安全な場所はないからな」


「では、私の屋敷ではいかがでしょうか?」


突然セリーヌが提案する。


「私の所でしたらお城みたいな広さはありませんが、お部屋はご用意できますので、しばらくの間いらしてはいかがですか?」


「セリーヌ、気持ちは嬉しいけれど、それはさすがにできないよ。何せ僕は君を裏切った張本人だ。マルグリット伯爵も許さないだろう」


ダニエルが苦笑しながら答える。


「でも他に行くところもございませんでしょう?このままここへいるのも危険ですし…それに父は顔は怖いですが、話せばわかる人ですから。大丈夫です!殴られたとしても私が治して差し上げますので!」


力強く言っているが、殴られる前提なのである。


「ふふっ、そうね一度殴られるべきかもしれないわ。それなら私も同じ罰を受けるべきね。お世話になるかどうかはまず置いておいてマルグリット伯爵にお詫びすることは必要ね」


「そんな!ミオーネ様にそんな事させられません。きちんと父には私から話しますからお任せください!」


「頼もしいわね。ではダニエル、セリーヌの言葉に甘えましょう」


「………わかった」


渋々頷くダニエルにシモンが追い打ちをかける。


「兄上、お覚悟を」


身から出た錆と、覚悟しているとはいえ、改めて言われると足取りが重くなるダニエルであった。


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