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16 何者?

「本当はこんな話アルフレッド様とセリーヌの前でするべきではないのかもしれませんが…」


ミオーネは二人に合わせる顔がないと思いながら、それでも現実を受け止めるために意を決して目線を上げた。


目の前には腕を組み、目を閉じて黙って聞いているアルフレッドがいた。


そして横を見ると、号泣しているセリーヌを見てギョッとする。


「セリーヌ!?あぁ…悲しませてしまってごめんなさい。やはりこんな話するべきではなかったわ」


困惑しているミオーネはどうして良いかわからず珍しくあたふたしていると


「いっ、いえっ、ちがいっ…ます」


一生懸命話そうとするが、何せ涙と嗚咽に邪魔されて上手く話せない。


「セリーヌは相変わらずだな」


と言いながらダニエルがハンカチを差し出すと、それを慣れた手付きで手に取りグシャグシャな顔を拭き鼻もかむ。


元婚約者ではあるが、どちらかというと兄と妹という感じだ。


「ミオーネ様がどれだけのものを背負って来られたのかと思うと…」


言いながらまた涙が溢れてくる。


横に座るアルフレッドも心なしか苦しげな表情だ。


「そんな風に言ってもらえるような物ではないのです。私の心の弱さがこのような形にしてしまったのだから…」


「あの後事情を聞いたら、そのままそこに居てはミオーネが潰れてしまうと思って…一刻も早く遠く離れる必要があると判断してここに連れてきた」


ここでずっと静かに話を聞いていたシモンが口を開いた。


「兄上はその時セリーヌの事は考えなかったのですか?」


「…考えなかったわけではない。だが、手紙にも書いたようにセリーヌにはもっと良い人がいると思ってい…」


言い終える前にアルフレッドがテーブルの上に足を乗せる形で斜め向かいに座るダニエルの胸ぐらを掴んだ。


とても王太子らしい行動とは言えないが、恐ろしく美しい顔で睨み付けている。


「お前は何も分かっていない。突然わけも分からず一通の手紙だけで後に残されたセリーヌがどれ程悲しんだのか!」


あまりの形相に皆が驚き固まり、ダニエルは言葉を返せないままアルフレッドを見ている。


「ではアルフレッド様はどうでしたか?」


ミオーネが胸ぐらを掴むアルフレッドの手を掴みながら問いかける。


「どういう意味だ?」


「私がいなくなってお困りにはなったでしょう。将来が決まっていた相手がいなくなったのですから。ですが、悲しむ気持ちはありましたか?」


そう言われて発する言葉を見つけられず、罰が悪そうに手を離してまたイスに戻った。


「お互いに少し頭を冷やした方が良さそうですわね。セリーヌ、少し海の風にあたりに行きませんか」


一つ返事でセリーヌはミオーネと共に席を立った。

後に残された三人は重苦しい空気の中しばらく静寂に包まれていた。



二人で浜辺を歩きながら波の音に癒やされ気持ちを落ち着かせる


「ミオーネ様はすごいですね。あのアルフレッド様にも臆せず言えるなんて」


「私は生まれたときからの付き合いなの。それにあの方は意外と人の意見を良く聞く方だから、私がそれに甘えているという事もあるわね」


ミオーネはアルフレッドより一月後に生まれている。なので実質的にも生まれたその日からの付き合いで間違いない。


「私は生まれたその日から足に赤い痣を持っていたから必然的に女神の生まれ変わりとしてアルフレッド様との婚約が決まり、王妃になるべく教育を受けてきたの」


かくいうセリーヌも北の魔女の血を引き、どの者よりも高い魔力を持って生まれてきたが為に、色々制限されることも多かった。それなので、ミオーネの辛さがよくわかる。


いや、立場を考えると一国を背負う王の隣に立ち、伝説の女神として生きなければならないミオーネの重圧の方が計り知れない。


「その見つけられた本の事ですが、その時の女神様がそうだったからと言って、他の時代の女神様は違うかもしれませんし…」


「ええ、私も初めはそうであって欲しいと思ってとにかくたくさんの文献を読んだのだけど、そのような事はどこにもなかったのよ」


「そうですか…」


「それに使える魔法も微々たるものだし、薄々私は女神ではないのではと感じていたの。でも認めるのが怖かったのね…」


果のない海の向こうを眺めながら、どこかほっとしている様に見える。


「私、ここに来てダニエルと過ごしていて初めて、女神から開放されたかったのだと気づいたの」


清々しい表情だ。


「でも、あなたには本当に迷惑をかけてしまったわ。改めてお詫びします」


胸に手を当てて屈む仕草を慌てて止めに入る。


「どうか、お顔を上げてください!私は本当に怒ったり恨んだりしておりません」


セリーヌは自分でも不思議なほどスッキリとした気分だった。


「私にとってダニエルお兄様は、“優しいお兄様”だということがわかりました。お二人のお話を聞いていて愛や恋というものがそれだとしたら、私の気持ちは家族の愛情と同じだと思います」


ミオーネは静かにセリーヌの話しを聞いている。


「突然いなくなった時は確かに悲しくて泣きました。ですが、それは私のお守りが嫌になったのだと思っておりましたので、そうではないと分かった今は何だかホッとしています」


「そう…それを聞いて安心しました。」


傍から見れば婚約者を奪った者と奪われた者、そう考えると修羅場を覚悟しなければと思う所だけれど、平和的に解決できそうだ。


「それにしても、先程のアルフレッド様の形相には驚いたわ。あんなに感情的になったのを見たのは初めてよ」


「アルフレッド様にはご心配をおかけしてしまったので」


「ただの心配とは違うようだけど」


「どういう事ですか?」


「ふふっ、そうね…それはその内わかると思うわ」


(うーん、良くわからないけどまぁいっか)


「男性陣もそろそろ頭が冷えたかしら」


小屋に戻ろうと歩き始めた所で不意にミオーネが腕を掴まれた。


振り返ると黒い布で全身を覆っている何者かがミオーネを掴んでいる。男か女かもわからない。


「あなた何者?」


こんな場面でも動じないところはさすがだ。


ミオーネの声に振り返ったセリーヌが気づき必死でミオーネと黒い者との間に入る。

それでも向こうもは力ずくで来るが、一瞬動きが止まり


「おや、これは幸運だったな。魔女の子じゃないか。二人まとめて献上できる」


声でニヤリとしたのがわかる。男だ。


二人共担ぎ上げようとした所で小屋から3人が飛び出してきた。


「アルフレッド様!」


「セリーヌ!」


「ミオーネ!」


「ダニエル助けて!」


あっという間にアルフレッドとダニエルで男を制圧したのだった。


顔を確かめようと顔の布に手をかけた瞬間、ナイフが飛んできてギリギリの所で躱したけれどアルフレッドの手に掠った。


捕らえられていた黒い男は「チッ」っと舌打ちをして、ほんの少しの生まれた隙をついて逃げ出した。



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