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12 目覚め②

十日間の眠りから目覚め、やっと熱も引きスッキリとした朝を迎えた。


「こうして見ると本当に素敵なお部屋ね」


見回してみると部屋の隅々まで綺麗な造りだ。


「こんなお部屋に何日もいたのにほとんど寝ていたなんて。未来の王太子妃様には申し訳ないけどお世話になっている間は満喫させてもらってもいいわよね」


本物のお城で甲斐甲斐しくメイドに世話をしてもらうなど、そうあることではない。


こんなにお姫様気分を味わえることなんてないのだからと、開き直れるところがセリーヌらしい。


「そういえば、あの夢はやっぱりミオーネ様よね…あの声はきっと…」


(どうしてあんな夢を見たのかしら。ミオーネ様にはお会いした事もないのに)


洒落た窓から庭園を眺めながら思い返しているところに扉を叩く音が響く。


朝の支度をとメイドがやってきた。


淡いブルーの素敵なドレスが用意されていて、頭の先から足の先まで、何から何までやってもらえることに初めは戸惑ったが、今ではすっかりお姫様気分を満喫中だ。


(でもやっぱり髪はリリアンにやってほしい…)


少しホームシックになりかけたところにもう一つの扉を叩く音がした。


それは昨日知ったアルフレッドの部屋とを繋ぐあの扉だ。


身支度は整ったとはいえ、やはり緊張する。


メイドが扉を開けるとアルフレッドがやってきた。


「おはようセリーヌ、気分はどうだ?」


「はい、おかげさまですっかり元気になりました」


「そうか、それなら一緒に朝食はどうだろう」


「はい、喜んでお供させてください」


「うん、では用意させよう」


「アルフレッド様、本当に何から何までありがとうございました」


「いや、こちらこそ。セリーヌには感謝してもしきれない」


「そんな、もしあの時何もしなければきっと私は何のために治癒力が備わっているのかと後悔していました。ですから私の為でもあったのです」


アルフレッドはセリーヌをじっと見つめていたが、フッと目元が緩んだ。


(こういうお顔をされると何だか心臓が痛いわ…)


胸がドキドキと脈打つのを感じながら、アルフレッドと朝食の席についた。


朝食といえどもさすがは王族の食事だけあり、パン一つとっても何種類もある。


セリーヌのお気に入りはクロワッサンだ。


「あぁ、この焼き立てのクロワッサンの香ばしい香り…パリッとしたあとフワッと…もう芸術だわ」


目を閉じてその美味しさを堪能する。


目を開けると、アルフレッドがプルプルと肩を震わせている。


「アルフレッド様?どうされました?」


「ぷっ、ふはは、セリーヌ心の声がとうとう口から漏れてるぞ!」


本来食事をしながら口を開けて笑うなどマナーとしては失格だ。


しかしこんなに楽しそうなアルフレッドを見たことがないメイドや執事達も驚きとともに嬉しさが広がっていく。


いつもは無表情で、淡々と必要な食事を流し込むだけの食事なのだ。


「私、今声に出ておりましたでしょうか…」


セリーヌはとうとう心の声と口から漏れる声との区別がつかなくなってしまったようだ。


(どうしてアルフレッド様の前ではこんなに恥ずかしいことばかり…)


いや、けしてアルフレッドの前だけではないのだが、この王太子の前では恥ずかしさが倍になるようだ。


ひとしきり笑い食事を終えお茶を飲みながらセリーヌは夢に見たことを話し始めた。


「そうだ、君がミオーネと呼んだ声で目覚めた事に気づいたのだったな」


「綺麗な女性がいて、男性の声が聞こえました。声はダニエルお兄様で、恐らく女性はミオーネ様だと思います」


「君はミオーネに会ったことはないと言っていたのにどうしてわかった?」


「それは、女性が水から上がってくると足が見えました…それで…」


「そうか、わかった。見えたのだな?」


「はい」


これは機密事項なのだ。王太子付きのメイド達しかいない場だけれど、容易に口にしていい事ではない。


「セリーヌ、少し食後の散歩でもしながら話そう」


そうして席を立ち、庭園へと向かった。


部屋を出る際に料理長へクロワッサンが素晴らしかったと伝えて欲しいと執事のサイラスに伝えると、


「必ず料理長には伝えますので、アルフレッド様の事よろしくお願いします」


とニコニコと笑顔で見送られた。


庭を散歩するだけなのによろしくお願いされる事があるのだろうかと首を捻るが、アルフレッドを待たせるわけには行かないので足早に後を追った。


庭園の中程まで来ると、この時期は黄色の薔薇が視界いっぱいに広がる。


薔薇に見とれていた所にアルフレッドが話し始めた。


「先程の夢の事だが、正確には足首にあるものを見たのだな?」


「はい、右側足首の内側に赤いのがはっきりと。見ようによってはお花のような形に見えましたわ」


「そうか、確かにそれはミオーネだと思う。君には痣のことは言っていたがどこにとは言っていなかったな」


「はい。それに…男性の声がダニエルお兄様でしたのでそうだろうと…」


「先日君が見た幼い頃の夢の話はシモンから聞いている。どちらにも共通しているのが海だな」


「どうしてそんな夢を見たのかわかりませんが、きっとその場所にいるのではないかと思うのです」


アルフレッドは腕を組み難しい顔をして何かを考えているようだ。


「私は海に行った事がございませんので全く検討はつきませんが…」


「一つ思い当たるところがある」


アルフレッドが顔を上げて空を見る。


「セリーヌ、悪いがもう少しだけ僕に付き合ってくれないか。その場所に一緒に行って確かめて欲しい」


「わかりました」と一つ返事で答える。


移動魔法でそこへ行くと言うので身動きせずにじっとしていると、アルフレッドの腕がセリーヌの肩に乗せられたかと思った瞬間、そのまま胸に引き寄せられた。


「えっ!?あのっ、アルフレッド様!?」


びっくりして思わず両手でアルフレッドの胸を押すと


「少し距離がある場所だから途中別の所に降りるんだ。その時に離してしまうといけないから、すまないがしっかり掴まっていて欲しい」


「わっ、わかりました…よろしくお願いします!」


そしてもう一度引き寄せられたセリーヌは離れてしまわないようにしっかりとしがみついた。


大きく鳴る心臓の音は一体どちらのものなのか…


そして二人の姿は庭園から消えていった。




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