第五話 天使との邂逅
第一章: 剣技大会
第五話
天使との邂逅
今日の戦いが終わり、案内役から明日の開始時間を聞く。
といっても、この世界の平民には正確な時間の理解はなく、大体、朝、昼、晩の3つだ。
案内役が言うには、明日の開始時間は昼ということだ。
「さて、回収にでも行くか」
会場入口付近に向かうと人集りが見つかった。
その中心の人物に野球のボールを思わせる大きさの魔法の玉を渡す。
「コレ交換してくれ」
玉を受け取り、ジッと玉を見た後ーー
「おお!兄さんやったな、おめでとう!」
玉と交換でズッシリ重い皮袋を受け取る。
中身も確認せずに懐に仕舞い、その場を離れる。
「まあ、こんなもんか」
会場の外まで移動し、皮袋を開けて中身を数えると金貨50枚があった。
何のことはない、戦いの前、自分に全財産の金貨10枚を賭けた結果である。
「たく、他の奴ら、もっとひでぶに賭けろよな」
ーーーーーーーー
「ごちそうさん」
「まいどー」
少し昼飯には早かったが、久々のブラックボアのステーキは美味かった。
前世で言えば、黒豚に近いかもしれない。(食ったことないから知らんけど)
ちなみにレッドボアは最も流通していて赤身が多く肉が固い。
当たり前だが、ミディアム、ミディアムレアと言っても通じず理解されない。
だから店主にしつこいぐらいに”焼き過ぎるな”と口出しすれば、脂も失わずに美味いステーキを食うことができる。
味付けが塩だけなのが残念だが贅沢は言うまい。
空を見上げ、日の高さを見るとちょうど真上にあり昼の時間だ。
「次に当たるかも知れない相手でも見に行くか」
今度はコロシアム内の観客席に入り、前列の空席を探すが、さすがに本選だけあって空いていない。
「あの、もしかしてキース様ですか?」
「あ? え? はい、そうですが、えっと何か?」
「キャー!握手してください! 今日の戦い素晴らしかったです!」
「・・・」
うん、前世含め女性耐性ないから、どうリアクションしていいのやら困ってしまう。
「えっと、この後の戦いを見たいんだけど・・・」
「あっ、そうですよね! ごめんなさい取り乱して! 前列ですけど、よければご一緒に見ませんか?」
「マジ? 前の席空いてるの?」
「ええ、一緒に行きましょう」
人混みを掻き分けて辿り着いた先は、お偉い様が観戦するボックス席。
「え? ここ?」
「はい、ここです」
ニッコリと微笑む女性は、お貴族様でした。
「先程は失礼致しました。 私はザンギーニ伯爵家の次女、カーラ・フェン・ザンギーニと申します。 カーラとお呼びください、キース様」
「はっはい!キースと言います、キースとお呼びください!」
貴族特有の綺麗な所作で挨拶をされ、口に手を当ててクスクスと笑うカーラ。
(・・・やば、むっちゃカワイイ・・・)
瞬く間に全身に煩悩が駆け、股間に血が巡る。
ーー同年代の異性と手をつないだのはいつだっけ?
ーー同年代の異性と話しをしたのはいつだっけ?
ーー同年代の異性と同じ空気を吸ったのはいつだっけ?
こちとら、前世では25年間彼女はおらず童貞。
こっちの世界でも15年間彼女はおらず童貞。
(ついに、ついに、目の前の天使が暗黒の40年に終止符を!?)
鼻の下を伸ばして煩悩に塗れた妄想に耽っていると、スッと俺と天使の間に影が現れた。
「カーラお嬢様、間もなく始まりますのでお席に」
そう、丸メガネをかけた執事と思われるオッサンが割り込んできたのだ。
大海原で波打っていた荒々しい血は、凄まじい勢いで凪いでいった。
(クッソ! てめぇ俺の暗黒の40年をまだ延長させる気か?)
今日からてめぇは暗黒執事だ、いやクソメガネだ! はい決定!
完全に童貞拗らせ案件である。
ガンガン出します。
まだ溜まってますのでw